先ほど言われた御剣の言葉を何度も何度も反芻させて自分に言い聞かせて、水着に足を通した。けど、どうしても戸惑いと羞恥心が消しきれない。これは普通の水着だ、恥ずかしいことなんてない。そう思おうとしてもあまりにも露出の多いこの水着は慣れていないし落ち着かない。身につけた自分の姿を確認しようにも、トイレには鏡なんてなかった。
 ……まあいいや。外に出てもいるのは御剣一人だけだ。そう決意して、おずおずと部屋で待つ御剣の元へと戻った。

「これ、変じゃないよな……?」

 先に着替えを済ませ、短パン型の水着にシャツを羽織るというラフな格好で御剣はぼくを待っていた。すっかり待ちくたびれた御剣は苛々と組んだ腕の上で指を動かしていた。ぼくの声に勢いよく振り返る。振り返った後。ぼくの姿を見て表情を凍らせた。

「……」
「……」

 お互い言葉もなく見つめ合うこと数秒。御剣の視線があからさまに一点へと集中していることに気付いたぼくは慌てて前を隠した。

「どこ見てるんだよ!」
「す、すまない」

 激しく罵りたい気持ちはあったけれど、小さな布だけで股間を守るような水着を着ているのはぼくの方だ。もし逆の立場だったらぼくもそこに目が行くに違いない。

「やっぱりセクハラだよこれ!」

 わめいたぼくに御剣は慌てて視線を逸らし、こほんとまた咳をする。そして、笑いか何かを堪えているような顔でもっともらしくこう言った。

「いや、その水着は合法的に売られている物だ。一般的で、普通の水着なのだぞ。……意識する君が悪い」

 そう言われたら納得するしかない。ぼくはタオルで身体を隠しつつ、渋々と頷いた。
 うん、そうだ、これは普通の水着だ。こういう形を自ら好む人も少なくない。……たぶん。
 ここまで行ったらもう開き直る方が楽だろう。海辺に行けばたくさんの人が溢れている。そこで見れる水着なんて千差万別だ。そこにいけばこの格好も霞むに違いない。そう結論付けて足を動かそうとした。
 が、その前にあるものが目に付いてぼくは足を止めてしまった。御剣がぼくの後に続こうと立ち上がったところだった。その、ある場所が。

「公然猥褻罪になるぞ、それ……」
「ム」

 ぼく言葉と視線に御剣は自分の身体を見た。そして、それに気付くとどこか気まずそうにぼくの顔を見返してきた。

──すまない、君のそのような格好は私には刺激が強い」

 色々と言ってやりたいことはあったけど、ぼくはあそう、と気のない返事をするだけにとどめた。親友を飛び越えて恋人という関係になっている相手が、同性同士とはいえこの格好に反応を起すのは仕方のないことだと思う。
 ただ、タイミングが悪い。海には真宵ちゃんたちを待たせているのだ。
 無言になったぼくに御剣はばつの悪そうな顔で俯く。奴も同じことを思っているに違いない。でも男の生理現象をお互いわかりすぎているからこそ、責めるに責められなかった。

「先に、行っててくれないか」

 ぼそりと御剣は俯いたまま呟いた。目の前に建つぼくの顔を見ようともしないで。そのまま頷こうと思ったけれど、身体を小さくしてそこを隠している御剣の姿が、何だかお預けをくらった犬みたいに見えて気の毒に思えてしまった。
 しばらく思い悩んだ後。ぼくは俯く御剣に気付かれないようにそっと溜息をついた。

「手伝うよ」

 そう短く言って床に膝をつく。突然のことに驚いた御剣の腰に手を回して、体温の高くなったそこを水着の上から舌で押した。

「な、成歩堂」
「この方が早いだろ」

 舌で触れたそれは見ため通りに通常よりも大きく育っていた。
 今まで二人の間に性的な雰囲気なんて全くなかったのに、自分を見ただけでこんな風になるなんて少し可笑しく思えた。でも、それが御剣の自分に対する思いなんだと考えれば、どこかくすぐったくて嬉しいような、妙な気持ちになってくる。

「成歩堂……」

 先ほどまで座っていたソファに御剣は再度腰を下す。その動きに合わせて自分も前かがみになりながら、ぼくは舌で執拗に御剣のそこを攻めていた。直接ではなく布越しで探られてもどかしいのか。御剣はぼくの頭を抱え込んで上を見上げる。

「気持ちよくない?」

 舌を少しだけ休憩させて顔を上げた。御剣は上を見上げたまま目を閉じて、いつもより弱々しい声で囁いた。

「気持ちいいから、困る。──我慢、できなくなる」

 正直な意見に少し笑ってしまった。そして、正直すぎるお互いの身体にも。
 ぼくの目前にある御剣のものも、自分の足の間にあるものも。明らかに興奮していた。このまま海に行っていい状態ではないのは、二人とも同じだった。

「御剣……どうしよう」

 立ち上がり、腰掛ける御剣の上に自分を乗せた。首に両腕を絡ませて肩に顔を埋めた。身体を密着させたことでぼくの熱も御剣に伝わっただろう。今度は御剣の両腕がぼくの腰に回った。
 こういう場合、どっちから誘ったっていうんだろう。先に反応したのは御剣だ。でも、それを煽ったのは自分だ。
 ソファに膝をついた状態のぼくを抱いたまま、裸の胸を御剣が舐めた。それだけでぶるっとした震えが体中を走る。
 御剣が自分の濡れた唇をぼくにくっ付けたまま動かした。そして、お互いがひたすらに願う欲望をついに言葉に変えた。

「君に、入れたい」

 それに答える代わりに口付けた。ソファの上に腰を掛ける御剣と、ソファの上に膝をつく自分。御剣の頬を両手で包んで上から下に舌を落とす。下の方から御剣の舌も伸びてきて難なくぼくのものと絡む。唾液も絡み、聴覚を刺激する卑猥な音が生まれた。
 腰に回る御剣の手がするすると下りて、ぼくの水着を脱がそうとした。が、途中で何故か動きを止めてしまう。不思議に思って唇を外し、間近にある御剣の顔を覗き込んだ。
 御剣は少しだけ息を弾ませながら意地悪に笑う。

「時間がないのだろう……?」
「ない、けど……あっ」

 耳朶を噛まれたと同時に御剣の指が動いて、水着の隙間から中に侵入してきた。見えないからなのか少し乱暴に、無遠慮に探ってその場所へと辿り着いた。なぞるだけの動きにぞくぞくと背中が波打った。胸を舐めてくる舌に気を取られている間に水着は端に寄せられてしまった。片方だけ露出したでん部を御剣の手の平が大きく撫で上げた。

「こんなの…っ、いや、だ……」
「また着替えに時間をとられては困るからな」

 もう片方の手で前のふくらみをさすりながら御剣は囁く。
 確かにこの水着に足を通すのにはかなりの勇気と時間を費やした。そこを狙って攻めてくる御剣が憎たらしくなって首筋に噛み付いてやった。皮膚を吸い上げたところで御剣が慌ててぼくを引き剥がす。その時にはもう遅く、まだ焼けていない白い皮膚に小さく内出血のあとが残った。

「これは問題だろう」
「真宵ちゃんや狩魔検事に気付かれないようにしろよ」

 思わずにんまりとしてしまった。これぐらいの仕返しは許されるだろう。
 お返しのつもりか御剣の動きが急に激しくなった。窮屈になった水着の前の部分を少しだけ引き下ろし、先端だけを覗かせた。そこを親指でぐりぐりと押されて思わず背中が仰け反った。
 何も身につけていない状態でも恥ずかしいのに、こんな小さな水着を履いたままそこを弄られるなんて恥ずかしすぎる。いやだ、やめろ、とほとんど声になっていない声で抵抗するも全てが無駄となった。御剣の指は容赦なく、布で中途半端に覆われている性器を休みなく擦ってくる。後ろから侵入した指も中に入る素振りを見せては引くといった仕草を繰り返していた。
 その間もちょうど御剣の口の辺りにある乳首を舐められて吸われて、抗いようのない波にきつく目を閉じた。身体全部が浮き上がるような快楽。

「あッ……あ!」

 生温かいものが二人の間に飛び散ったのを喘ぎながら自覚した。水着で押さえつけられながらもぼくのそれは精を吐き出すのを我慢できなかった。恥ずかしくて、情けなくなって顔を見られたくなくて。唇を噛んで御剣にしがみついた。

「腰を、あげてくれ」

 御剣はぼくの精液を気にする様子もなく、ぼくを弄んでいた手で今度は身体を抱くと低い声で囁きかけてくる。濡れた下半身に当たる御剣の熱が温度を上げている。それをわかっていたぼくは顔を隠しながらもゆっくりと腰を上げた。
 もう一度、水着の隙間から指が侵入してくる。それは濡れていた。自分の吐き出した精液が塗られていたのだ。やっぱり恥ずかしくて御剣の首に腕を回し、肩に額を押し付けた。

──っ、ん」

 狭い場所に他人を受け入れる痛み。恥ずかしさ。でも後に訪れる快楽を知っているからぼくはそれに堪えた。
 決して滑りがいいとは言えなかったけれど、御剣の指は徐々に進みついには根本まで埋め込まれた。指一本といってもその圧迫感はとてもすごく、相手に強い力でしがみつくことで何とかやり過ごす。
 中に収められた御剣の指が円を描くように回された。その度にわずかな隙間が生まれて、遠慮がちな水音が後方から響いてくる。もう片方の手ですでに達したペニスをさすられる。前も後ろも優しく愛撫されて、浮かせている腰が揺れてしまうことを恥ずかしいと思っても止めることができない。
 首に回していた腕を外し、御剣の短い襟足を掴み。首を傾けて唇を重ねた。

「んぅ、ん、んん」

 優しく中を探っていた指が、今度は勢いよく突き立てられる。後ろを突かれる衝撃にキスの間にも声が抑えられない。
 半分だけずらされた水着を身に着けたまま、そこをなぶられる。いやらし過ぎる状況に息が上がってしまう。限界なのだ、もう。

「成歩堂、腰を」

 キスを終えた御剣も同じように限界を迎えていた。命令は最後まで聞かずとも理解できた。ぼくは、後ろを少し気にしながら持ち上げていた腰を落としていった。御剣の猛ったペニスがぼくを待ち構える場所へと。

「……は、ぁ」

 ぐり、と先端が当たった。わかっていたはずなのにあまりにも硬い感触に息が漏れた。元に戻りかけていた水着が妨げているのだろうか。抵抗を感じる。
 御剣の指が水着を端に除け、繋がる場所を広げてくれた。腰を支え、先を促す手に安堵したぼくはまた腰を落とし始めた。水着の隙間から大きくなった御剣のペニスが無理に入ってきて、ついにぼくは御剣に真下から貫かれる形となった。

「御剣、御剣……」

 身体に馴染むまでの間、背中を撫でる手の平が心地よくてまたしがみつく。耳元で名前を呼んで、自分の感じている快楽を相手に伝えた。動くぞ、と囁かれてそれだけでもう身体が震えてしまう。

「ア、ン、…う、ぁ!」

 ついていた両膝を御剣に抱え込まれた。そのまま肩へと掛けられたことで自分の足がつけなくなり、結合部分に体重がかかる。より深く、より奥に相手を感じて上擦った声を上げて喘いだ。御剣の上でぼくの身体が跳ねる度に中の壁がお互いを擦りあって気持ちがいい。密着する身体同士が汗で滑って体温を高めあう。時々唇を寄せ合って舌の感触を絡めて味わう。口もそこも繋げながら抱き合う行為は自分の全部を壊してしまうようで、頭が蕩けそうになった。宙に浮かんだ足の指を無意味に丸めてぼくはそれに身を投げた。

──アッ、ああ!!」

 身体が反転して気付いたらソファの上に投げ出されていた。その上に御剣が覆い被さってくる。両足をそれぞれに大きく開かされて、繋がった部分に御剣の視線を感じる。

「……その水着、よく似合っているぞ」
「うる、さいな」

 馬鹿、と付け足して涙目で睨み付ける。御剣の視線の先と言葉の意味をすぐに理解したからだ。ピンク色の水着を着たまま犯されるなんて思いもしなかった。
 無遠慮な視線を止めさせたくて、腕を持ち上げて御剣の上半身を自分の近くに引き寄せた。指で鎖骨や乳首の形を触るとそれに煽られた御剣が律動を再開させた。

「あっ、!う…っン」

 息もつかせぬ動きに声を上げて応えた。そして、必死に相手の身体にしがみつく。自分が壊されて吹き飛ばされてしまう。何故かそんな恐怖を感じて不安になった。御剣はそんなぼくの心情を察したのか、逆に抱き返してきた。強くて強くて、息苦しくなってしまうほどに。
 ぐん、と中で御剣がさらに成長した気がした。と、同時に自分の中で奔流を感じた。
 自分の中を汚す御剣の精液に不快どころか堪らなく嬉しくなってぼくは、御剣の汗ばんだ身体を抱いて首筋に口付けた。

 

 

 

 

 
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