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2018年3月23日 地方裁判所 被告人第3控え室




 千尋さん、春美ちゃん、狩魔検事、糸鋸刑事。真宵ちゃん。そして、御剣。
 それぞれの人が作り出した奇跡によって法廷は動かされていた。真実のために。信じる人のために。


「な……なるほどくんッ!」
 三日振りにぼくたちの前に現れ、駆け寄ってきた真宵ちゃんを春美ちゃんと共に抱き締める。疲れているみたいだったけど、笑顔はいつもの彼女のものだった。自分の命を顧みずに王都楼の有罪を進めたことを咎めると、春美ちゃんの霊媒で戻ってくるからいいと言って笑う。その能天気さにこっちまで救われる気分だった。
 その時、見守っていた御剣が真宵ちゃんに声を掛けた。
「その……おめでとう」
「おっ。さすが御剣検事。ちょっと進歩しましたね!」
「まぁ……一年前の私とはちょっと違うかもしれない」
「へぇぇ」
 二人が笑顔で会話している。この、目の前で起こっていることがさっきまでは不可能だと思われていたのだ。改めて自分と真宵ちゃんの悪運の強さに感心する。
(御剣……)
 そうだ、御剣も。死んだと思っていた男が目の前にいる。
 自分が裁判中に千尋さんに言ったことを思い出していた。
 ───駄目です、千尋さん。無罪判決は受け取れません。今、ここでぼくが判決を取ってしまったら…あいつの信頼を裏切ることになります。
  信じることに疲れた。本気でそう思っていた。昨日までは。依頼人に裏切られ、真宵ちゃんを人質に取られ……それだけじゃない。ぼくが、そのように思ったのは、御剣。御剣から受けたあの時の傷がどうしても癒えなかったから。
 好きだった。大好きだった。学級裁判の時の借りを返すために追い掛けて弁護士になって、濁った目で被告を有罪にする姿が信じられなくて法廷でぶつかって、御剣自身が罪に問われた時は何もかもを投げ打ってでも救うつもりだった。元の御剣に、自分の信じていた御剣に戻ってほしかった。たとえ自分の身に苦痛を与えられても、どんなにひどい屈辱を受けても。
 それがあの時に全部潰されてしまった。他でもない、御剣の手によって。
 一年前とは違う───
そう御剣は言っている。確かに一年前の奴とは少し違うことは、法廷で向かい側に立っていた自分は感じ取ることができた。そうでなければ真宵ちゃんを助けることはできなかっただろう。
 でも、一体何が変わったというのだろう。わからない。
 一年を掛け、気持ちの折り合いをつけつつ重苦しい日々を過ごしてきたぼくは、御剣の変化をそう簡単には認めることができなかった。
「なるほどくん!おなか空いたよー早くホテルに行こうよ!」
「真宵さま、わたくしも一緒にまいります!」
 両脇から二人に促され、歩き出す。
 こちらに向けられていた御剣の視線から逃れるようにして、足早に。





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