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2016年12月27日 留置所




 歌うように呟く御剣の指が動き、ぼくのネクタイを緩めた。その仕草に息が止まる。まさかこんなところで───
 その予感を打ち消そうと必死に試みるも御剣の指は予想通りに動く。上からワイシャツのボタンを外していき、ジャケットと共に肌蹴させる。現れた肌に御剣の唇が吸い付いた。
「何、して……いやだ!」
 ベルトに手が掛かり、やっと抵抗を思い出す。手足を振り回して自分の耳を食べようとしている相手に抗った。その動きを受けがたがたと机が鳴る。
 右の耳たぶを音を立てて吸った後に。御剣はようやく指を止めた。行為の最中によく見せる酷薄な微笑みを作り出してぼくにこう囁いてきた。
「……人払いはさせた。だが、私は容疑者だ。少しでも物音を立てればすぐに看守がやってくるだろう」
「じゃあ、やめ…」
 言いかけたけれど、今度は首筋を吸われ沈黙することとなった。激しく暴れて抵抗したい。けれども、いつ誰か来るかもわからない恐怖にぼくは何もできない。
「いやだ……頼む、やめてくれ」
 呻くようにそう懇願するだけだ。
 抵抗のないぼくの身体を御剣は丁寧に解していった。促されるままに両足を開く行為は屈辱的で、ぼくはただ早く終われと強く祈るばかりだった。濡れることのないそこを唾液で濡らされ、指を挿入される。痛みを感じて噛み締める唇を、御剣の指がなぞって宥める。
「…っ、…ふ」
 刺激に反応して硬くなっている性器を扱きながら、御剣は足の間に顔を埋めてきた。小さなその場所を舌と指で押されるのには、焼け付くような羞恥がいつも付き纏った。何度されても慣れない。身を捩るぼくを御剣は太ももを抱え込んで固定させる。逃げることは許されていなかった。
「御剣、なんで……」
 上半身をやっとで起こした御剣を見上げ、問い掛ける。御剣は冷たい目でこちらを一瞥しただけだった。片足を机の上に置かれ、その下に御剣の腕が入る。大きく抱えられ、普段隠されている場所がさらけ出された。
 先走りに濡れた先端が押し当てられる。押し当てるだけでは足らず、更に先へと進み始める。めり、と固く合わさっていた肉が、御剣の形でとてもゆっくりと裂けていく感触。
────…」
 入ってくる。
 御剣、が。
 何故だろう。今まではそれに対して憎しみしか掬い取れなかったのに。
 入ってくる。
 御剣の悲しみが。憎しみが。深い深い罪悪感が。後悔が。どこにもやり場のないものたちが。混じって、重たい塊となって。ぼくの中に流れ込んでくる。
 御剣の腿が自分に当たる。それでぼくは自分が全て飲み込んだことを悟った。それがなくても息ができなくなるほどの圧迫感に、深く穿たれているという感覚だけはあったけれど。
「…、…いた、い」
 思わずそう呟き、滲む視界を相手に向ける。御剣はぼくの顔の横に両腕を付いて、ぼくを見ていた。何故だか泣きそうな表情で。思えばいつも御剣はこんな表情をしていた。辛そうな悲しそうな顔。怒りを込めて睨み付けるのにそんな目で返されて、それに罪悪感まで感じてしまう自分が無性に腹ただしかった。
「あっ!」
 ぼくはそれ以上御剣を見ていることが出来なかった。御剣のピストン運動が始まったからだ。中に入っていた御剣が一気に抜け、また強く押し入られる。律動に声が揺れた。潤いが不十分だったせいか痛みが激しい。堪えていても微かに声が漏れる。
 人が来るかもしれない。こんなところを見られたら。そう思うのに、どうしても声が殺しきれない。揺さぶられながらも堪らない恐怖に押し潰されてしまいそうだった。それでも、緊張感からか御剣の手で雑に扱かれる自分の性器は硬くなっていた。情けなさで目に涙が浮かぶ。
 ただ声を上げてしまうのが怖くて、自分の手のひらに必死に噛み付いていた。それに気が付いた御剣がふいにぼくの手を取った。
「放せ」
 自分でもわけがわからずに加減なく噛み付いていたのだろう。じんわりとした痺れのような痛みが右手にまとわりついていた。御剣はそのぼくの手に自分の手のひらを重ねる。そして噛み痕が付いてしまったところを舌で舐めあげた。まるで動物が自分の子供にする、労わりの行動のように。
「……傷がつく」
 指と指の間に御剣の指が差し込まれ、そのまま机へと押し付けられる。戸惑い視線を向けたぼくに御剣はもう片方の手を伸ばした。乱されたシャツの襟元に辿り着き、明るい色のネクタイを掴む。
「声を出したくないのならばこれにでも噛み付いていろ」
 ひどい扱いに反発しようと思えばできた。でも、相手に深々と貫かれている状態では何もかもが無駄に思えた。目の前にぶら下げられた自分のネクタイに仕方なく噛み付く。
「よく出来たな」
「んぅっ!んん!」
 言いつけを守ったことを誉められても屈辱を感じるだけだった。睨み付けようとしたけれど、直後に激しい律動が再開された。
 下から突き上げる衝撃に目を瞑って耐えた。きつくネクタイを噛み締めているため、大きな声は出せない。けど、身体の中から何度も持ち上げられる激しさに声を全て殺すことは不可能だった。行き場のなくなった声が苦しさを倍増させる。唾液に湿る布の味が気持ち悪い。
「っ!」
 意識が逸れている短い間に御剣はぼくの性器を握り締めた。退かせようと手を伸ばすもがくがくと乱暴に突き上げられてそれは叶わなかった。
 やわやわと握っていたと思ったら上下に扱かれる。亀頭を親指で押し潰され、ぼくは布を噛んだまま呻いた。次第に自分が追い詰められていくのがわかる。体内の小さな器官を御剣のあれが擦り上げ、と同時に強く扱かれた。乱暴なまでの快楽が頭から爪先にまで駆け抜ける。
──ッんん!」
 瞬間、御剣の手の中で射精した。あっけなくも訪れたそれにぼくは目を閉じやり過ごすしかなかった。
 そんなぼくを無視して、御剣は腰を好きに動かし自らの快楽を求めていた。斜めに穿ち、時には腰を回すように動かして。もう何回目かわからないくらいに掻き混ぜられた。緊張していたそこも、今ではもう自ら望んで向かい入れているような錯覚にも陥る。
 しばらく無言で腰を動かしていた御剣がふいに速度を上げた。でたらめだった動きが規則的に変わり、押し付ける強さも大きいものとなる。それを悟ったぼくは薄目で相手を伺った。そのタイミングを狙ったかのように御剣が途切れ途切れに呟いた。
「中で、…っ、出す、ぞ…!」
「んぅッ!…んんぅ!」
 残酷な予告にぼくは無駄だとは知りつつも首を振った。予感した身体に力が入る。その結果御剣のペニスをきつく締め付けることなり、逃げようとした時にはもうすでに遅すぎた。他人の作り出す精液の奔流が自分の奥を存分に犯していた。
 自分に、御剣が静かに流れてくる。
 やっとで迎えた終焉にぼくは浅い呼吸を繰り返していた。ネクタイで封じ込めていた唇を開放したもののすぐには元の状態には戻らなくて、小さく分けて何度も息を吸い込む。荒い息を吐き出す肩がすぐ側にあった。御剣が項垂れ、自分に被さっていた。
 また無理矢理犯されて、その顔を思い切り殴りたいと。いつもならそう思うのに。ぼくは思わず顔を歪めた。
 怒りや苦しみ。罪悪感、自己嫌悪。
 残酷な事件に傷付いた幼い心は、癒える暇もなく次の道へと歩き出した。誰にもどこにも吐き出すこともできずに、懺悔すら許されずに。その抱えた思いは、今までどんな風に彼を蝕んできたのだろう。苦しめてきたのだろう。一日一日。一晩一晩。消えることなく忘れることなく彼を責めて苦しめていた。
 ぼくには想像もつかなかった。繋がった状態でどんなに耳を澄ましても、相手の心の闇は読めない。その苦悩を、悲しさを。分かち合うことなんて無理な話だった。
 腕を持ち上げた。自分に覆いかぶさる背中に触れる。びくりとそれは怯えた。
 わからない。わからないよ、御剣。君の悪夢はぼくには理解できない。
 ───それでも、ぼくは君を信じている。君が君自身を信じられなくても、ぼくは君を信じているから。九歳の君が、九歳の自分にそうしてくれたように。
「成歩堂……」
 言葉にしていなかったのに、御剣はそれを聞いたのだろうか?御剣はぼくの腕に抱かれた状態でそう呟いたきり、いつまでもいつまでも動かなかった。







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