2016年12月20日 検事局 上級検事執務室・1202号室
頭痛がする。
指先をこめかみに当て、痛みを分散させる意味で強く押す。昨日の夜も、いつもの悪夢にうなされた。いや、夜ではない。ほとんど明け方だった。
時効が近付くにつれ───十五年前の、あの日が近付くにつれ。息苦しさ、手に取った銃の重み。そして、最後の断末魔の悲鳴がより鮮明になっていく。
このままその日まで寝ずに過ごしたらどうなるのだろうか。疲労でみっともなく倒れるかもしれない。それもいいかもしれない。
そんな自嘲的な事を考えつつ、デスクの上に置かれていた手紙の束を手に取った。一通一通内容を確認していく。その中に、素っ気ない封書が混じっていた。何ともなしに裏返した。
それを見て私は凍りついた。差出人は、生倉雪夫。
わずかに震えてしまう指先に気が付かない振りをして私は封を切った。紙が開くまでの短い時間にも、私は気が急いて叫び出しそうだった。弱い紙を、読まずにそのまま破ってしまいたい衝動を何とか押さえつける。
中に入っていたシンプルな便箋には、用件のみを伝える簡潔な文章が書かれていた。
クリスマスイブの夜。湖のボート小屋へと呼び出す内容だった。
心臓が激しく自分を叩いていて吐き気も感じるほどだった。しかし私は口元に浮かぶ笑みを消すことが出来ない。
ああ、やっとか。
手紙を見ながらそんな事を思った。
地獄からの招待状が届いたのだ。
私が長年心待ちにしていたものが、時効を迎える寸前になって、ようやく。