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2016年12月15日 成歩堂法律事務所
慣れぬ行為に身体全体が固まってしまっていた。
抱え上げられていた腿が痛い。必死に相手を掴んでいた手が痛い。何より、挿入されている部分が熱を持って痛い。
固まってしまった喉から声にならない声が漏れた。呻くぼくの上から御剣はゆっくりとした動きで退いた。栓を失ったそこからとろりと精液が流れ落ちるのを感じる。
「みつるぎ……」
突き上げられながら呼んだ名前を、もう一度呼ぶ。なぜなのか、自分でも意図がわからなかった。憎いのか悲しいのか殴りたいのか。わからないけれど、無理矢理犯された自分の身体から漏れてくるのは御剣の存在ばかりだった。
「……私は君が、憎い」
ぼくに背を向けた御剣が呟いた。容赦なく心を抉る言葉に顔が歪む。ひどい言葉に犯された部分よりも、心が痛くなる。
「私は……私は、私が憎い」
「───御剣?」
思わず身体を起こしていた。痛む身体をも忘れて。
御剣は裸の背を向けたまま呟いていた。ぼくに、というよりは独り言のようだった。
「君以上に、自分が憎い。憎くて憎くて……」
闇に沈んでいくような声に背筋がぞっとした。手を伸ばす。憎くて堪らなかった、触れることも触れられることも怖かった相手の肩に触れる。力をこめる。振り向かせる───
そこで、目が覚めた。
反射的に息を吸い込んだ。喉元に手のひらを当てる。締めているネクタイが苦しくなって、自分で乱暴に結び目を崩した。
浅い呼吸を繰り返したまま辺りを見渡した。そこにはいつもの光景が広がっている。ホテルに近い窓。立派な観葉植物。ファイルがぎっしりと詰まった書棚。身体を受け止めるソファ。
「夢……?」
ぼんやりとそう呟いた。
でも、違う。
自分の声で即座に訂正した。夢じゃない。夢だ。でも、夢じゃない。
身体中に残る倦怠感は、性行為が実際にあったことを示していた。身体の中が気持ち悪い。掠れている声も、相手の名前を何度も何度も呼んだから。
でも、御剣のあの告白は夢だったのだろうか?
考えてみた。思い出してみた。でも、わからなかった。
夢といって片付けるのには重すぎて、現実といって認めるのは恐ろしい。悪夢と現実の境界線があいまいすぎた。
「御剣……」
思わず、また名前を呟いていた。