隙があれば、御剣が頬を緩ませている。ぼくはそれに気付くたび睨み付けていたけれど、あまりの回数の多さに思わず赤い肩を軽く叩く。
「お前、笑いすぎ」
「すまない」
 無表情の多い御剣がこんな風に笑うなんて珍しいことだけど、今日のぼくにはそれを喜べなかった。御剣は赤いジャケットを脱ぎハンガーに掛けると、ポケットから取り出した携帯電話を側に置いた。それを見てまた思い出したのか、唇を歪ませた。
 その携帯電話には、ぼくを祝う会の写真が収められている。撮影した真宵ちゃんがわざわざ御剣にまで送ったのだ。今時見かけない三角帽子を被り、微妙な表情で写っている自分の姿を想像するだけで恥ずかしさに悶えたくなる。
「消せよ、写真」
「そんなことを言うな。彼女たちが可哀想だろう」
 脱いだスーツのジャケットをわざとその辺に投げ捨て、ネクタイを外しながらソファの隅に座った。御剣の自宅に上がらせてもらっている立場だけど、そんなの関係ない。御剣はくたっと床に落ちていた青いジャケットをぼくの代わりにハンガーへと掛け、反対側の場所に腰を下ろす。背中を向けていたけど雰囲気でわかった。
「君は、大事に思われているのだな」
 背後から御剣の腕が現れ、逃げる間もなくぼくの身体を抱え込んだ。肩に頭を乗せた御剣がそう呟く。
 確かに、方向は間違っているけど彼女たちの厚意は純粋に嬉しい。それを知ってるからこそぼくは、どんなに馬鹿らしいと思っても最後まで付き合ったのだ。
「私も……君を大事に思っている」
 その刹那、御剣の声色が熱に帯びたことに気付く。しまった、と思ってもすでに遅く、腕の辺りにあったはずの御剣の手は下半身へと伸びていた。

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