「くッ……」
 窪んだ部分に中指と薬指を宛がい、そのまま埋め込む。短い息を漏らして成歩堂は顔を歪めた。痛いのだろう。唾液で濡らしただけでは、私の指は彼の内部に馴染むことができない。空いている左手で閉じかけた成歩堂の足を押し退ける。さらに上体を倒し萎えてしまっている彼の性器に吸い付いた。その間に二本の指も深く埋め込んでいく。
「いた、い……よ……」
  成歩堂はテーブルに後ろ手をつき、掠れた声で囁いた。彼の雄を口を含んだまま視線だけを持ち上げた私と目が合うと、額に汗を浮かべつつもにやりと笑う。彼の右手が動いて私の後頭部へと回る。足がさらに開かれた。成歩堂の全てが私の前で露わになる。
 ───わかりやすすぎる挑発だ。
 数年振りだという思いを馳せる暇もなく、私は彼を愛撫することに夢中になった。根元まで咥え、ぐいぐいと奥に指を進ませる。頭を前後させるだけという稚拙な動きにも成歩堂の性器は硬くなり始める。私の髪に絡む指先にも力が込められた気がした。
 何年もの空白の時間があろうとも、彼の目から情熱が消えようとも、彼の身体は素直に反応した。揃えていた指先を彼の中でばらばらに動かしてみる。
「あっ、……っ、ッ」
  案の定、成歩堂は声を潜ませつつも短く喘いだ。彼の口から流れた唾液が無精ひげのある顎を伝って落ちていく。きっと私の口内にある性器からも透明の液が溢れているに違いない。そう思った途端、舌にあの独特な苦味が触れた様な気がした。
 彼の性器にしゃぶり付きながらその姿を下方から見上げた。このような行為の最中でさえ彼の目はどこか虚ろでまるで私を捕らえていない。私との行為を楽しむというよりは、ただ身体に与えられる快楽に身を任せているようだった。
 私の愛撫によって彼の身体は徐々に熱を帯びていくのに、二人の息は同じように上がり、繋がる準備を整えていくのに。
 先程のゲームの時に感じた彼との隔たりを思い出し、気分が萎えるのを感じた。いい加減舌が疲労していたことに気付いた私は、身体を引いて成歩堂の性器を解放した。唾液を塗されたそれはてらてらと光り天井を仰ぐ。埋め込んでいた指を引くといやらしい音が周囲に響いた。
「成歩堂、私は……」
 そう言いかけたものの次の言葉が出てこなかった。膨らんだ性欲は自分からまともな思考を奪っていく。
 私は彼の中に入りたがっていた。それは明らかなことだった。しかし、しかし、と小さな声が頭に生まれて消えていかない。
 突然行為を中断させた私を成歩堂は無言で見つめていた。髪を撫でていた右手が離れてしまっても、何の感情も湧かないようだった。私が感じた絶望感を成歩堂は鋭く読み取ったのか。私を側に引き戻そうとも突き放そうともしない。何一つ行動しない。そして、ただ。
「御剣」
 昔のように私を呼ぶ。たったそれだけの仕草。
 成歩堂は成長しきった性器を隠すことなく、しどけなく濡れたその部分を恥じることなく、両足を私に向けて開いたまま動かない。その姿勢のまま緩やかに微笑んで。
「やめとく……?」
 選択は全て私に委ねられている。そのはずなのに、何故。
 糸につり上げられたように自分の腕が持ち上がるのを感じた。少しも動かない成歩堂の方へと逆に引き寄せられる。寄っていって、しまう。

 この場所に来て私は一体いくつの疑問を持ったのだろう?
 その答えはまだ、一つも見つからない。




 彼の唇に激しく口付けている間に私は全ての疑問を捨てた。成歩堂の足を抱え上げて、自分を中に入れることだけに必死になる。成歩堂は獣のごとく襲い掛かる私を見、薄っすらと嘲る笑みを浮かべる。
 薄汚れた床。壁。散らばったカード。ぼんやりとした光を放つ照明。その中に浮かび上がる成歩堂の身体が異常に艶かしく見えた。
 その時突然に。ぱちんと頬を叩かれた時の様に、疑問に対する解答が脳裏に弾けた。

 ああ、この部屋がいけないのだ。

 この薄暗い地下室に足を踏み入れた時点で、私はもう彼に敗北していたのだ。






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