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「何ですか、それ」 頭の上からのん気な声が降ってきた。素早くデスクの引き出しに書類を仕舞い、顔を上げる。 「あなたには関係ない事件のものよ」 私も笑顔を返す。曖昧に笑った後、なるほどくんはカップを差し出した。 弁護士になる目的───それを言っていないのは私も同じだから。 ・ 耳についた音楽に、私は視線を転じる。 「コナカ…」 休憩の時間だけに点けられるテレビに、悪趣味なピンクの文字が映っていた。 「このCMがどうかしました?」 髪をかき上げながら首を振り、誤魔化す。手を伸ばしてテレビの電源を落とした。 (コナカ……) 許さない。母を陥れた男。 ・ ある依頼が事務所に持ち込まれたのは、それからしばらくたった頃だった。 「どうしたの」 察しはついているのだけれど…あえて、聞いてみる。 「……あいつの弁護、受けるんですか?」 ぼそりと一言だけ、返ってくる。 「受けるわよ。断る理由もないでしょう?」 軽く笑ってみせると、なるほどくんは頬を膨らませて横を向く。 どうやら、本気で拗ねてしまったらしい。 「最低ですよ、あの男!話してる最中も、ずっと…」 首を傾げて言葉の続きを待つ。 「いやいやいや……とにかく!あいつは無罪じゃないかもしれませんよ?」 立ち止まり、腕を組む。なるほどくんもつられて歩みを止めて、私の方を振り返った。 「わからないのなら、この手と足でわかればいい。真実を掴むのは自分自身よ」 嘘と真実が同時に存在するこの世の中で、確かなものはたった一つの真実だけ。 「依頼人を信じる。それが私のモットーよ」 私の言葉に、なるほどくんはぽかんと口を開けた。 「かっこよすぎ!」 まるでヒーローを目の前にした小学生のように、なるほどくんは目を輝かせた。 ・ 面会を繰り返し、深く調査をしていくにつれ。 「ろくでもない男、ね」 二人並んで、歩く。 「あなた……弁護士さんですか?あいつの…」 被告の名前を、とても小さく呟いて俯く。 「そうだけど……あなたは?」 その悲痛な言い方に、私たちは全てを理解する。 (殺された女の子が好きだったのね……) 「あいつは、彼女を殺したんでしょう?」 力ない言葉尻のまま、その男は質問を続けてきた。 「まだ、わからないわ。私たちは…」 首を振り、彼の質問を流そうと口を開いた次の瞬間。 「あいつが殺したんだ!あいつが!」 男がいきなり叫んだ。突然の行動に、私は小さく悲鳴を上げて後ずさった。 「どうしてあんな奴の弁護なんてするんだよ!?」 帽子の陰からのぞく、彼の目と私の目が合う。 「やめろ!」 なるほどくんが私と男の間に入り、私から男を引き剥がした。 「殺してやる…お前も殺してやる!!」
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