Is love blind?

 ほとんど無音の中で目を開けた。
 身体を動かすと、それを包んでいた毛布が落ちた。ぱさりと、軽く響いた乾いた音を怪訝に思い、ぼくは首を左右に動かす。
「……御剣」
 いた。
 親友兼恋人は眉間にヒビを入れて、ぼくの隣りに横たわっていた。寝顔を見るにまだ起きる気はないみたいだ。
 大きく伸びをして、首を捻って背中を見た。痛みはほとんど消えている。自分では見えない部分に痣は残っているのかもしれないけれど。
 一度大きくあくびをして、どうしたものかとふと考えた。御剣を起こそうか、このまま寝かしておこうか。しばらく座った状態で眠る御剣の顔を見つめた。御剣は寝入るのにも、目覚めるのにもとても時間が掛かる。こうなったら昼までは起きないだろう。
 まあいいや。元々連休だったんだし、無理に起こすこともない。
 そう決めてもう一度ごろりと隣りに寝転んだ。寝る時にまでしかめっ面の御剣を頬杖をつきながら見つめる。
 男から見てもかっこいい顔だと思う。悔しいけれど。検事局でもエリートで、顔も整ってて、そこそこ若くて……そりゃ見合い話も出てくるだろう。
 御剣は相手の女の人のことを大して綺麗とは思っていなかったみたいだけれど、それは本心なのだろうか。一応ぼくに気を使ってそう言ったのかもしれない。本心では、本当の心では……ぼくなんかよりももっと綺麗な女の人と付き合いたいのかも……
 そこでぼくはあることを思いついた。幸いなことに、御剣は今嘘をつけない状態だ。うとうととしたところを突いてやれば、さすがの天才検事も本音を漏らすかもしれない。
「みつるぎみつるぎ」
 小声で名前を呼びながら裸の肩をつつく。むぅ、と間抜けな唸りを上げて御剣は目を閉じたまま眉を寄せた。両目がほんの少しだけ開かれて、小さな黒目が中で滑って覗き込むぼくを捕らえた。わずかに起きてることを確認して、耳元でこう囁いてみた。
「世界で一番、かわいいのは?」
 そんなバカな質問に、御剣は即座に答える。
「なるほどう……」
 はっきりしなかったけれど、それは紛れもなく自分の名前だった。
 いやいや御剣は寝ぼけてるし、聞かれたこともよくわかっていないのかもしれない。そもそも何を言われたかも定かじゃないのかも……
 色々と難癖をつけながら身体を反転させた。御剣はもうすでに夢の中だ。
「……ばかじゃないか」
 そう呟きつつも顔がにやけてしまうのを隠せなかった。布団で口元を隠しつつ、もう一度呟く。ばかじゃないか。ぼくも、御剣も。
 恋は盲目っていうけど。見えてないなんてもんじゃない。これは、あれだ。もう、そんなものはとっくに通り越して。最後に、愛で人は馬鹿になるんだろう。
 目が覚めたら御剣を許してやろう。そして、次に重なる連休を見つけて、今度こそちゃんとした予定を立てよう。そう決めてぼくは再び目を閉じて眠ることにした。二人だけの休日は始まったばかりなのだ。



3276お披露目会、開催おめでとうございます!
テーマはフリーということで、甘々のミツナルを。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
@文学部・ゆめさん

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