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2016年10月10日 成歩堂法律事務所

 

 


 「…………!やめろ!」
 頭を押さえつける手のひらを外そうと、必死にもがく。
 抵抗はあっさりとかわされ、かわりに激しく突き動かされてしまう。
「………あっ!…っ…」
「私を訴えてみるか?」
 背後から耳元で囁かれ、身がすくむ。
 両手首を縛めるネクタイが邪魔して思うように動けない。かわりにぼくは指に力を込め目の前のものにしがみついた。窓に掛かる閉ざされた状態のブラインドに指がかかり、その場にそぐわない音を生み出す。
「あッ…!クッ…!」
 その間にも責め立ては途切れることはなくて。
 身を裂かれるような痛みと、犯されているという羞恥心。混乱と恐怖。声を上げまいと歯を食いしばっても、身体が乱暴に揺すられる度に息ともつかない声が漏れてしまう。
 窓際に追い詰められ、立ったまま犯され続ける。
「……その時は君に弁護をお願いする」
 皮肉まじりの笑いが部屋に響く。
 御剣はぼくの腰を掴んだまま上体を倒し、ぼくの背中に自分の身体を密着させた。
 低い声が背筋に響き、ぞっとする。
「……答えてくれ………私は、有罪か?」

 再会は、ぼくが予想していた通りのことだった。
 法廷で敵として向かい合い異議を唱える。これがぼくの計画であり、そして長年願っていた再会の形だった。どうしても彼の目の前にもう一度立ちたかったのだ。
 突きつける指のその先にある真実。そして検事となった級友をやっとぼくは追い詰めたのだった。
 しかし、予想と違っているものがたったひとつだけあった。
 ――彼の、ぼくを見る目があまりにも冷たく濁っていた。











「……声は出さないのか…?」
「やっ…」
 熱を帯びた囁きの後、舌の感触がぼくの耳を襲った。そのまま唇に吸い込まれ、その感触を味わう様に歯で舌でもてあそばれる。湿った唾液と歯の感触に気が狂いそうだ。その間にも下半身の動きは休むことがなくて。無理矢理に埋め込まれた御剣のものがぼくの中を何度も行ったり来たりする。
 痛みも遠くに消えかけて、いま自分がどこにいるのかもわからないくらい混乱しているのに、御剣の存在だけがはっきりとわかる。熱く、重い質量が、容赦なくぼくの中に這入ってくる。
(どうして……)
 その疑問は声にならない。そんな余裕はなかった。
 数時間前に御剣がこの事務所を訪れた時は、こんなことになるなんて思っても見なかった。
 気が遠くなりそうなりながらもぼくは御剣を睨みつけた。大きなデスクに身体を倒され、両足を高く抱え上げられ、全身を激しく揺さ振られながら。
 御剣はそんなぼくの視線をあっさりと無視した。無表情のままぼくを犯し続ける。
 その顔を見ているのも耐え切れなくなったぼくは、顔を背けて唇を噛む。両手で奴の身体を押し返そうとしても、びくともしない。片足だけ脱がされたズボンが足にしつこく絡まっている。
 今、自分がどのような格好を強要されているのか…考えたくもない。
 ぼくはただ、自尊心を守るために上ずった声を堪えるしかなかった。
 わからない。
 今、何をされているのか。
 そしてなぜ、こんなことをされてるのか。
 現実を受け入れられず、固く目を閉じたままだったまぶたに微かな光を感じた。
「……な、なに…?」
 うっすらと開き、掠れた声で問いかけると御剣が喉を鳴らして笑った。ぼくの腿を掴んでいた手を外し、伸ばされていた方向は。
「!!…何を……やめろッ!」
 瞬時にその行動の意味を理解し、ぼくは悲鳴を上げた。
 御剣はその欲望でぼくを犯したまま、窓に掛けてあったブラインドの紐を引く。見慣れた風景がそこには広がっていた。すぐ向かいには、高くそびえ立つホテルの姿。
「御剣!」
 ぼくは力の入らない腕を持ち上げ、奴の身体を必死に叩く。
しかしぼくの身体を真下に抱え込む御剣は少しも動じる様子がない。それどころか薄い笑いを浮かべている。
「……君とはじめて法廷で対面した事件には、目撃者がいたな」
 忘れるわけがない。
 正面に立つ、かつての級友の姿。冷め切った目でぼくを見る男。
 その男はその時と同じようににやりと笑ってみせた。それと同時に寒気が背筋を走る。
 こんなところを誰かに見られたら───
「い、いやだっ…!!やめろッ…!!」
 死に物狂いでした抵抗はすべて無駄に終わった。
 御剣はやすやすとぼくを押さえつける。足をさらに大きく開かされ。そして、全く躊躇することなく下半身をぼくに押しつける。ぼくは目を見開いたまま、その恐ろしい現実を受け止めた。
 容赦なく射し込む日の光。間近に存在するホテルの窓。音もなく御剣の全てが這入ってくる。
 犯される。
「みつるぎ……ッ!!」
 噛み締めていた唇にいつの間にか血の味がする。
 痛みを感じるより早く、御剣の舌が唇を這う。そして舐めとられた。
 舌を、噛んでしまえばよかった。
 気がつくのが遅すぎた。そう思ったのはすべてが終わったときだった。







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