「君はいつも堪え性がない。……もう少し我慢したらどうだ?」
 繊細な作りのティーカップを指先で摘まみ上げ、香りを楽しむように一度そこで深呼吸をした後。御剣は優雅な微笑みを作り、ぼくにそう言う。首元にあるフリルタイと高級そうな布で作られたワイン色のジャケットと相まって、いかにも高尚なことを言ったようにも見えるけれど、結局それはセックスについてだ。
 ずずっと、ティーカップの端から紅茶を吸い上げ、ぼくは相手を睨む。同じ種類のカップを持っているはずなのにどうしてアイツが持つと高級感が増すのだろう。いやいや、そんなことはどうでもいい。
「悪かったな。でもぼくは平均的だと思うよ。お前が長いんじゃないか」
「フッ……負けを認めるのか」
「勝ち負けの問題かよ」
「勝ち負けの問題なのだ」
「ああそう」
 なんなんだろうこの会話は。どうでもいいと思ったからぼくは簡単に負けを認めることにした。
 ──この、裁判後のセックスには意味がいろいろあるのだ、実は。
 同じ裁判で二人がそれぞれ担当に付けば、もちろん判決が出るまで私的な会話は一切なくなるし、その分欲も溜まる。この行為はそれを解放する意味合いとはまた別に、敗訴してしまった御剣の自尊心を復活させるためでもある。
 ぼくは基本的に冤罪と思われる人の依頼しか受けない。孤独に苦しむ人の助けになりたい。それがぼくが弁護士を目指した理由だからだ。対する検事局はこれ以上裁判がひっくり返されないように、警察と検察の沽券が下がらないように、優秀な検事をぶつけてくる。それが、御剣だ。
 法廷は勝ち負けではないことを御剣はもう理解しているけれど、やはり天才検事という名が傷付くのは悔しいらしい。単純に負けるということが嫌なのだろう。だから裁判後にセックスをする。いつもより乱暴で、不遜で、ねちっこいセックスを。負けてしまった恨みを晴らすように。
「事実だからと言ってそう投げやりになるな。君がもう少し耐えれば、二回三回と続けられるではないか」
「げ。勘弁してくれよ」
 調子に乗った御剣はそんな恐ろしいことを言い出した。カップをソーサーに戻し、慌てて首を振る。
「そんなこと言ったって、お前に中に入れられてちんこ触られて、乳首とか耳とか舐められたら気持ちよくてたまんなくなるんだよ? そんなの二回三回とか無理。勘弁してくれ」
 その言葉を聞いた御剣の顔から表情が抜け落ちた。続く無言。カシャン、と音を立てて御剣の持っていたカップがソーサーに落ちる。ぼくがいつもそんな置き方をすれば怒るくせに、御剣は何も言わない。
 整っている顔の真顔にぼくは、怒っているのだと理解する。せっかく立ち直った御剣のプライドがまた萎れたら困る。正直、めんどくさい。ぼくはソーサーをテーブルに置き、両手をひらりと持ち上げた。
「お前に勝とうとは思わないからさ。もうぼくの負けでいいって」
 降参と、仕草でもアピールしたぼくに御剣は立ち上がりつかつかと歩み寄ってくる。え、と目を丸くして見上げたぼくを抱き寄せ、耳元で怒ったように呟いた。
「私の負けだ、成歩堂。──全く、君には敵わない」






対面座位というリクで書かせていただきました。
なるほどくんにはじめてちんこと言わせた気がします。
男の子っぽくてかわあ!

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