「なぁにが蘇ったなるほどりゅういちべんごしだよ、かっこつけやがって!」
「そういう君も乗ってきただろう!」
テーブルに、派手な音を立ててビールの缶が置かれる。三本、四本。いや、五本以上はあるかもしれない。明らかにここにいる人数を上回る本数にツッコミを入れる人間はいなかった。
適当にテーブルの上に置いたせいで空の缶にぶつかり、アルミ製の軽いそれは派手な音を立てて落ちたり転がったりする。なんて騒がしいのだろう。今までぼくたちが向かい合って食事していた店とは比べものにならない。
酒の肴はコンビニで適当に買ったつまみだ。もちろん皿に出す必要なんてないから袋を大きく開いてすぐに摘まめるようにしている。窓の外に広がるのは夜景ではなく隣接するホテルの味気ない壁だ。
肩が凝りそうなレストランを出た後。互いに別れ難いという雰囲気のまま御剣を事務所に誘った。ネクタイを少し緩め、ジャケットの中に着こんだ白いベストのボタンをひとつだけ外した格好でソファにだらしなく座るとほっとした。やはりぼくにはこの場所が一番合っているのだと思う。気取ってワインで乾杯するよりもビールの缶を雑に押し付ける方がよっぽど楽しい。
でも、御剣は違うのかもしれない。元から無愛想な表情が多いヤツだけど、この法律事務所とは言い難い混沌とした室内に足を踏み入れた途端、食事の時には絶えず浮かべていた微笑みを仕舞い込んでしまった。──検事局長となった今、こんな場所で仕事をするぼくに呆れたのかもしれない。
そう思ったら寂しくて悔しくて腹ただしくて、その感情を流すためにまたビールを煽って、訳もなく御剣に絡んで、今に至る。
ワイングラスではなくビールの缶を持った御剣が憮然とした表情でぼくを見つめながら言う。
「拾わんのか」
「お前が拾えよ」
「何故私が拾わなければならないのだ。君の事務所だろう」
「落としたのはお前だろ」
「落ちたのは先程君が飲み干した缶だ」
まるで子どもの喧嘩だ。ただの意地の張り合いともいう。酔っているせいだろうけど、いい年をした男二人が言い合っているのも馬鹿らしい。釈然としないまま上半身を傾けて床に転がる缶へと手を伸ばした。わざと隣に座る御剣の腿に手を置いて、過剰に体重を掛けて。
「うわっ!」
「ムゥッ!?」
それを悟った御剣が足を動かそうとして、ぼくの傾いた体重が行き場を無くして崩れ落ち掛ける。それを必死に避けようと腕を使って、どこでもいいからと御剣の身体にしがみ付いた。
ソファの上だから音はしなかったもののギシリ、と大きく軋む音が室内に響いた。このソファもかなり古いもので、お世辞にもクッションは薄くなってるし中のスプリングも弱くなっている気がする。それをこんな風に酷く扱ってしまい、苛ついたぼくは御剣の腹を軽く押した。
「壊れたらどうすんだよ。弁償しろよ」
「いつまでも安物のソファを使っているからだ」
結果としてぼくに押し倒されたような格好になった御剣は、倒されながらも嫌味を返してくる。腹が立って、三枚重なるフリルを掴んで唇をぶつけてやった。
「局長さまのとこのソファと違って安物で悪かったな! これが合ってるんだよ、ぼくには」
「まあ、それでこそ君だな」
「馬鹿にしてる?」
邪魔になる眼鏡を外して、もう一度唇を重ねる。今度は少し、長めに押し付けてやる。
御剣が眼鏡を掛け始めたのは局長になってからだ。若くして上の立場についたせいで年齢が上の人間に舐められることが多々あり、少しでも老けて見せるためらしい。
今は二人きりだ。そんな風に見せる必要もないだろうと意地悪な気持ちでそれを奪ってやったのに、眼鏡を掛けていない、八年ぶりに見る御剣の顔にどきりとしてしまった。
二度重ねた唇は、一旦離したもののすぐに物足りなくなってしまう。くだらない言い合いをしていたはずなのに。どうしようかと視線を動かすと御剣と目が合った。と、首の後ろに御剣の手のひらが置かれて唇に吸い付かれた。わずかな隙間を見つけて舌が入り込んでくる。ちゅる、とこちらの舌も優しく吸われれば尖った気持ちも言葉もあっという間に溶かされてしまう。
自分でもなんて簡単なのだろうと情けなくなる。けど、いやに喉に残るビールなんかよりキスひとつの方がよっぽど嬉しいと思ってしまったのが事実だ。
御剣は眼鏡越しではない視線をぼくに向けて緩く微笑んだ。そこにはもうトゲは見当たらない。上に乗るぼくの腰をゆっくりと撫でながら問い掛けてくる。
「食事は、口に合ったか」
「料理もワインも腹立つくらい美味かったよ。……局長さまはいつもあんないいもん食べてるわけ? ぼくには堅苦しくて堪んないよ」
「局長局長とあまりからかうな。検事から検事局長に肩書が変わったにすぎんよ」
それに、と囁いて御剣はそっとぼくの唇を啄んだ。
「君とここで飲むビールが一番美味い」
今日何度目かのキザな台詞にぼくは、ツッコミを入れるのも忘れて赤面した。不覚だと唇を噛むももう遅い。
弁護士じゃなくなって、弾けもしないくせにピアニストをやって、また弁護士に戻って。ぼくがそんな遠回りをしていた間に御剣は一歩も二歩も先に進んでいた。それが、まるで置いていかれたような気持ちになったのだ。拗ねる気持ちがぼくの中にあったのだろう。だから、こんな風にわけもなく絡んで。
でも、ぼくの事務所のソファの上で微笑む御剣は昔と全く変わっていなかった。
安心した、なんてしおらしいこと言ったら調子に乗るに決まっている。黙って顔の赤みが引くのを待っていると御剣がふいにぼくに囁いてきた。
「……みぬきくんは、もう寝ているのか」
みぬきはぼくの娘だ。ここは事務所でありぼくたち親子の自宅でもある。部屋は完全に分けているため、この事務所での騒ぎは彼女に届くことはない。それに、今夜は。
「真宵ちゃんのところに行ってるんだ。久々のお泊りだって喜んでたよ」
ぼくの助手を務めてくれていた真宵ちゃん、その従妹の春美ちゃんとみぬきは仲がいい。ぼくの知らない内に時々倉院の里へと遊びに行っているらしい。
御剣はそうかと短く答え、ぼくの腕の辺りに置いていた手をするりと動かして腰を撫でた。
「始めるぞ」
「わっ」
次にそう宣言して突然ぼくの、ジャケットの中に着ているベストのボタンを外し始めた。明るい色のネクタイはすぐにただの紐となり、ワイシャツのボタンへと指が掛かる。
久し振りだし別にそういうことになっても構わないけれど、あまりにもムードのない始まりに怒るどころか呆れて笑ってしまう。
「相変らず唐突だねお前も」
「先に誘ったのは君の方だろう? 据え膳喰わぬは男の恥だ」
据え膳を食わさなければそれも男の恥になるのだろうか。なんてどうでもいいことを考えながら御剣の唇を軽く噛んだ。
それを合図にしてお互いの唇を舌で弄り合う。上品な顔のつくりの割に口が大きいのも、唇が少し硬いのも。歯列をなぞった後に中の粘膜をれろれろと舐めるのも昔と変わらない奴の癖だ。懐かしいと思う間に、その癖にすっかり慣らされていたぼくの身体は徐々に体温を上げていく。
「──っ」
肌蹴られたシャツの中に御剣の手が触れた。小さな乳首を軽く引っ掻かれただけで声が詰まった。
「フム……八年ぶりだが感度がいいな。自分で触っていたのか?」
「そんなわけ、ないだろ…っ」
そう言い返すものの声が上擦る。八年も間が空いていたのだから、他の誰かとということは考えないのか。そう言い返して余裕を見せたいとは思うものの、そんな事実もなく、何だか悔しく思う。
御剣の両手に促されてぼくの身体は上へと進み、ソファに横たわる御剣のちょうど唇の辺りに上半身がくるようになっていた。御剣の舌が片方の乳首を捕える。ぬるりとした感触に全体を包まれて、笑ってしまうくらいに肩が震えた。
「ん、ん、…ぁ…っ」
身体を支える腕の力が抜けて、ソファの肘置きにかじりつく。でもそうすると御剣にますます近くなって、舌だけじゃなく指でも弄られ始めた。
特に役割のない男の乳首は柔らかい。御剣の舌と指の気まぐれな動きに容易に遊ばれてしまう。こりこりと指で捻られれば芯が生まれるように硬くなり、舌で優しく撫でられればぴんと尖る。その動きにいちいち甘い声を零しながらぼくは、腰を無意識に上下させていた。御剣の身体に自分の高ぶりを擦り付けるようにして。
「そこ、ばっかり、弄るなよ…ッ」
「すまない。君があまりにも可愛いから止まらなくなってしまった」
こういうところも全く変わっていない。それは嬉しい発見のはずなのに、男の矜持を揺るがされているようであまり嬉しくなかった。悔しくなって、膝で軽く御剣の股間に触れた。
「なあ、これ、弄ってほしい? ……お前こそ、このままでいいの?」
膝だからそんなに丁寧には触れない。でもその雑さがいいらしく、御剣の澄ました顔がわずかに歪む。それはもちろん苦痛ではなく快楽だ。
熱の篭った三白眼がぼくを睨み付けてきた。その視線に、法廷に立っていた時を思い出す。
向かい合う席からぶつけられるそれに煽られる。高揚する。弁護人席から遠ざかってすでに八年が過ぎ、様々な記憶は時間と共に薄れてきている。それなのに。
ぞくり、ぞくりと背中を這い上がる快感。楽しいとか、そんなことを言ってられる状況じゃないのにただただ心が躍り出す。
それはとても、とても久々の感覚だった。
肩に残っていた青いジャケットや白いベスト、シャツを脱ぎ捨てる。御剣のフリルもためらいなく解く。現れた首筋を舌で舐めれば微かに汗の味がした。
局長となり、眼鏡を掛けたせいで風貌も落ち着いついていた御剣が、額に汗を付着させて獣のような視線で服を脱いだぼくを見ていた。中に潜む欲が、それが、他の何ものでもない自分を求めていると思うとぞくぞくする。
御剣のスラックスを下げると一部分が盛り上がり、熱くなっている下着が現れた。指を這わせる。柔らかく、硬く張り詰めるその感触に昔の記憶が蘇った。疼く。見たい。自分も所有している、別に珍しくもないそれにそんなことを思う自分が不思議だ。他人のものなんて触るどころか見たくもないのに。
「──…ッ、見る、だけか? 久し振りで怖いのか」
「まさか。どうやっていじめてやろうか考えているところだよ」
早く触れと素直に言えばいいものを、そんな風にしか言えない御剣に笑い掛ける。形勢逆転だ。
「触ってほしい? 舐めてほしい?」
そう言いながら竿を握り、吐息を感じる位置に引き寄せる。もちろんわざとだ。御剣は一瞥で答えただけだけど、手の中のものは素直にひくりと反応してみせた。形はグロテスクでも、御剣のこんな顔が見られるのならばぼくは抵抗なく咥えることだってできる。
「なあってば」
でも、どうしてほしいのかと御剣自身に言わせないと面白くない。そう言葉で急かし、握る手に力を込めた。御剣の眉が歪む。
「……無論、両方だ」
「欲張りだな。そういうお前、嫌いじゃないよ」
おねだりとまではいかなかったけれどまあ良しとしてやろう。元々そうするつもりだったのだ、躊躇いなく口を開き咥えようとすると。
「待て」
短い命令がそれを遮った。何だよと目線を向けると姿勢を変えるように言われた。
狭いソファの上だ。大人が二人、寝転べる場所はない。だから、必然的に御剣の身体の上にぼくが乗ることになる。
「……さすがにこの格好は恥ずかしいんだけど」
御剣に促されるまま身体を動かして行けば、御剣の頭とぼくの頭が交互になった。いわゆるシックスナインの姿勢だ。御剣のペニスは目の前にあって舐めやすいけれど、同時にぼくのそれも御剣の顔の前にぶら下がっていることになる。見られている、という事実は気持ちをそわそわさせた。
「──いいから早く舐めろ」
言うが早いが、ぬるりとした感触が自分に触れた。舌に違いない。亀頭に、竿に、御剣の指を感じる。人差し指でなぞり上げているのだろう。
「い…っ、言われなく、ても…!」
せっかくぼくが優位に立ちかけていたのに、このままでは逆転されてしまう。悔しくて、目前でそそりたつ御剣のものに勢いよくしゃぶりついた。
手のひらで擦りながら舌を上から下へ、下から上へ忙しなく動かす。もう片方の手で柔らかい陰嚢を揉みながら。亀頭の先に滲む苦味を感じつつも口内ですっぽり包んでちゅうちゅうと吸い上げた。
御剣の手が尻の丸みを撫でている。会陰を舐められればどうしようもないもどかしさに息が詰まった。その間に陰茎を掴まれて扱かれて、勝負でもないのに負けた気分になって喉の奥まで御剣を咥え込んだ。
「んぅッ!」
それまでぼくの腿やら尻やらを弄んでいた手が、違う場所に移動した。御剣以外の誰にも見せたことのない場所。そこを、指で押される。揉まれる。そっと、力を込められて横に広げられた。
「ん、んっ、ぅ…」
御剣の指が、舌が、何をしているかが、見なくてもわかる。恥ずかしいけれどそこに快楽が潜むことを知っているぼくは、咥えた御剣を激しく吸い上げることでその羞恥に耐えた。
縁を広げようとそっと舐めるのがわかる。尖らせた舌で抉るのがわかる。御剣を受け入れるために、御剣によって、慣らされていく。恥ずかしい。恥ずかしい。恥ずかしい、けれど、息が上がって、腰を揺り動かしてしまう。もう待てないと、物欲しげに。
「はぁ、ぁ、…み、つるぎ…」
再び姿勢を変える。
ぼくはソファの背凭れに片足を掛け、御剣がその間に膝をつく。身体はもう蕩け切っていて、腰が抱えられて御剣の上に乗せられるだけで期待に背中が震えた。身体を開いて寝そべることに抵抗を無くしているなんて、自分でも信じられなかった。
御剣が。額に汗を浮かべた御剣が、上を向くペニスに手を添えてこちらを見つめる御剣が、欲しくて欲しくてたまらない。
「んっ」
先走りでぬるぬるした亀頭が穴の上を通過する。御剣は根元を持って、先端で穴に滴る唾液を掻き混ぜるような動作を繰り返した。音が大きくなるように、わざと派手に。
くちゅくちゅとしばらく音を鳴らした後にぐいっと押し入ろうとした。しかし、身を硬くするぼくをあざ笑うかのようにそれは抜けてしまった。ぼくからは見えないけれど、咥え込もうと口を開いたそこが心許なげにひくひくとうごめくのがわかる。
わずかに入る素振りを見せたかと思えば引き、またぐちゅぐちゅと擦り合わされる。あまりにももどかしいそれに唇を噛んだ。
「あっ…いや…だ…」
はやく、と先をねだるぼくを御剣は薄く微笑みながら見下ろす。悔しい、もう形勢逆転も何もない、けれどそれよりも、はやく、はやく、はやく。
耐え切れずに両手で尻を掴んだ。そして自ら左右に広げて沈む場所はここだと教える。広がる縁にも中にも、御剣の唾液が塗られている。そのせいでぼくのそこは卑猥に濡れそぼっているに違いない。
こんな風に自らねだるなんて、恥ずかしくて死にそうだ。そう思うのに、それ以上に早く、目の前の男に来てほしくて堪らなかった。
「そんなに我慢できないのか」
「何年、待ったと思ってるんだよ…!」
恥ずかしさで声が上擦る。酷い仕打ちを受けていると思うのに、涙声で懇願するぼくは本当に浅ましい。それでも。自己嫌悪も恥も全部捨てて、ぼくは叫んだ。
「いいから、くれよッ! 御剣、みつるぎ…っ!」
ずずずっ、と膨れ上がった御剣のペニスが埋められた。止まることなく、一気に奥まで。とんでもなく狭い場所に太いものを捩じ込まれて、苦しいはずなのに痛みは全く感じなかった。他人に身体を広げられる未知の感覚。触れることのない場所を突かれて、ぞくりと背中が波打った。
「あっ、あっあぁっ…」
「イッたか」
放たれる精液を留めることなんてもはや無理だ。御剣の目の前でぼくのペニスから白濁液が溢れた。少し角度を緩めたペニスがそれでもぽたぽたと精液を零す様を見て御剣は薄く笑う。
「堪え性がないのは相変らずだな、成歩堂」
「……っ、ん、ぁ」
うるさい、と言いたいのに言葉が出てこない。待ち望んでいたものを与えられた喜びに喘ぐことしかできない。細めた目の端から落ちていく涙を御剣の舌が舐め取った。
涙がなくなった後は唇で優しく触れられて、身体を抱き締められた。距離が縮まったせいで結合は深くなる。でも、接する肌の部分が増えたことでほっと息をつくことができた。
「泣くほど嬉しいのか」
「待って、たんだよ……だから、しょうがないだろ…っ」
答えられる余裕も出てきた。相変らず苦しくて堪らないけれど、何とか口を動かす。それを聞いた御剣の瞳がふっと細くなった。
「……成歩堂」
ぽつり、とぼくの呼び掛けと共に落ちてきたのは御剣の汗だった。透明の一粒が組み敷かれたぼくの肌に落ちる。見つめる内に、ぽつり、ぽつりと。二粒、三粒と。思わず目を見開いて相手を見上げる。
「──…どう」
再び落ちてきた呼び掛けと、汗と、視線。
御剣の目が。目だけじゃない、御剣の、御剣が持つものの全てが。欲しがっていた。ぼくを。
そうわかった途端、悔しさも恥ずかしさも全て飛んでいった。ぼくばかり欲しがっていたと思ったらそれは大間違いだ。ぼくを抱く側の御剣もきっと、欲しくて、欲しくて欲しくて。
「御剣……」
そう呼び返して、馴染むのを待っていた御剣の腰に両足を絡ませる。両手は御剣の広い背中に回した。姿勢が苦しくなるのも構わずに抱き締め返して、耳元で囁く。
お前がほしい、と。
「待ったのは、私の方だ…ッ」
「ひぃ、あッ!」
ずるずるずる、と奥の奥の方まで御剣が入ってくる。そして、そこから激しいピストン運動を始める。ごりごりと体内の触れたことのない場所を思い切り擦り上げられた。脳が痺れるような感覚に悲鳴を上げる。
壊されてしまう気がして怖くて、無意識に御剣の背中に回した両手に力が篭る。両足は肩に掛けられ、腰が浮き上がったところを潰すように揺すられた。何度も、何度も。
「君が、再び、這い上がってくるのを、私は…っ」
「やっ、あ、あっ、あっ」
体内で暴れ回るものに抗う術はない。それでもぼくは、御剣の言葉に必死に耳を傾けた。成歩堂、成歩堂、成歩堂。欲しくて求めて愛しくて、堪らないと言ったように何度も繰り返されるだけの己の名を。
腕を剥がされて引き上げられ、ソファに腰掛けた御剣の上に乗せられる。全てが繋がったままの動作だ。浅くなったり深くなったりする挿入にいちいち息を詰まらせながら、ぼくは改めて御剣と向かい合う。遠慮なく入り込んできた舌にこちらも躊躇いなく絡ませて、お互いの唾液を混ぜ合うようにして深く深く口付けた。
「ぼく、だって…、…」
少しだけ中断された律動の隙を狙って囁く。だがすぐに声が途切れてしまった。
御剣の腕はぼくの腰に、ぼくの腕は御剣の首に回されている。その安心感に涙が出そうだ。圧迫されている下半身に御剣の存在を感じる。遠く離れていたこれを、もう二度と取り戻せないと思っていたこれを、ぼくは。
「成歩堂……」
俯いてしまったぼくの唇を御剣の唇が下から奪う。先程とは違いただの触れるだけのキスだ。たったそれだけのキスに、ぼくは背中を押されて唇の端を持ち上げた。
「長く待たせて、悪かったな」
「八年の遅刻だ。矢張を笑えんな」
「あいつと一緒にするなよ」
ようやく素直に言えたと思ったら、そんな風に返される。思わず笑ってしまった。
「──なぁ。続き、してくれよ。御剣の全部が欲しい」
ぼくよりも細くて色の薄い髪に指を梳かせてねだる。神経質にも見える三白眼がぼくを見据え、不敵に微笑んだ。
「私も君が欲しい。余すところなく、全てを差し出してくれ」
「こんなことまでさせて、ぼくがお前に許してない場所なんてあると思ってる?」
確かに、と言って御剣は笑う。その顔に自分の頬を摺り寄せて目を閉じた。
「成歩堂……」
身体をぎゅうと抱き締められて、ゆさゆさと上下に動かされる。ぼくの体重が掛かっているせいで結合部からは湿った音がより一層大きく響いた。一度放ったはずのぼくのペニスは再び血液を集め、二人の間で反り返って互いの腹を叩いていた。
膝を掴まれて大きく足を広げさせられた。ぬちゃぬちゃと激しく音を立てて御剣のペニスを飲み込んでいるその場所が、空気と御剣の視線に晒されてとても恥ずかしい。それなのに隠すことも忘れて、ぼくは腕を御剣の首に縋りつかせた。
そして最後の懇願をする。
「みつるぎ、御剣、奥に、…奥に、くれ…っ」
「ああ、受け止めてくれ、成歩堂……ッ!」
言われた言葉と与えられる律動に身が竦み、全身が緊張する。結果的に中に入り込んだ御剣を締め付けることとなり、ぼくの身体は余計と強張った。その抵抗を押し上げるようにして、御剣のペニスが更に膨張していく。
「あっ、あっ、イク、御剣、御剣…!」
絶頂を迎える時ですら呼ぶのは相手の名前だ。恥ずかしいと思っても口をついてしまうのだからしょうがない。ごりっと中を思い切り抉られて思わず目を閉じた。爪先が反り返る。わっとした浮遊感は一瞬で、後はそれに身を任せるだけだ。
「成歩堂、成歩堂、成歩堂……っ」
脱力した身体を力強い腕で抱き留められる。何度も繰り返される名前と体内の温かさに、御剣の射精を知った。
体内に残る見えない熱が、ただ愛おしい。この姿勢のせいでぼくが身体を持ち上げれば大半は零れ落ちてしまうだろう。それが何だか惜しくて、汗で濡れる御剣の身体にもう一度抱きついた。
ぼくも汗をかいているし、おまけに精液が腹の上にべったりと零れている。それなのに御剣は嫌がることなく抱き返してきた。
「………るぎ」
「ム?」
照れくさくて、からかってやろうと口を開いたのに、どうしても言葉が出てこなかった。こちらを見つめる御剣の髪は乱れ、眼鏡を掛けていた時とは全く違う雰囲気だ。──それは八年前と何ら変わりない。
やっと追い付いたと思う反面、ずっと隣にいてくれたのだとも思う。
長く時を開けた恋人の身体をこの手に抱いて。再び取り戻した弁護士の資格とバッジを思い浮かべながら。ぼくは囁いた。
「待っててくれてありがとう、御剣」
なるほどくんおかえり!おかえり!待ってたよ!という気持ちでフライングミツナル^O^
5がほんと楽しみです!
うらのindexへ戻る