「や、ああッ、…っ」
御剣の手によってそれは奥まで入れられてしまった。ローションの滑りを借りて侵入してきた無機質なものに中を擦られる感触は想像以上に刺激的だった。御剣は器用に玩具を操り前立腺を刺激してくる。振動を始めたそれがそこを通るたびに、わっとした快楽が広がってぼくの両足を跳ね上げる。
そんなことになっているから当然、縛られた性器もひどいことになっていた。透明の先走りの液が雫となっていくつも零れ落ち、赤いリボンの色を変えていた。でもぼくはそんなことに意識を向けられるはずもなく、ただただ解放を願っていた。
こんな、こんなの。
「御剣、これ、解いて…!」
イキたくてもイケない。それは本当に辛かった。ひっきりなしに込み上げてくる感覚と、それを無理にせき止められる拘束。どこにも行き場のない苦しみに苛まれ、ぼくはぶるぶると首を横に振って懇願した。
「もう少し我慢しろ」
下半身に被さる御剣はぼくの言葉に煽られたのだろう、返答もおざなりに更に玩具の刺激を強くした。ヴィンとくぐもった音が自分の中から聞こえる。脳を攪拌されるようなその動きにぼくはさらに悶えた。でも、どこにも……逃げられない。
「頼む、みつるぎ、も、やだぁ!」
両手は自由なのだから、自分で解こうと思えばできた。でも、今のこの場でぼくを解放できるのは御剣だけなのだ。気付けばぼくは自分を捨て、そう哀願していた。
「ひ、あああっ!」
突然、無理矢理こじ開けられた場所から玩具が退いた。細かく振動したまま表面にあった無数の凹凸が中を擦り、あまりの刺激に死んでしまうかと思った。一度でも出してしまえば楽なのに。射精したいという衝動は増幅していくばかりなのに、それは御剣の手に巻かれたリボンに止められている。
あまりのことに泣きたくもないのに涙がぼろぼろと零れ落ちた。それを舌で舐め取る御剣の舌にまで反応してしまい、もう何がなんだかわからない。
咥えていた物が抜け、物足りなさからかそこがひくひくと痙攣を繰り返す。御剣が無言で亀頭を押し付けた。次の物を見つけたそこは吸い付くように御剣のペニスを受け入れた。
「アッ、あ、あつ、い、御剣、…!」
先程の玩具とは全然違う。思わぬ熱さに悲鳴を上げてしまった。じりじりと入り込んでくる御剣は、熱くて熱くて、マグマのように熱くて。ぼくを、溶かしてしまう。
「君の方が……熱い」
ぼくの太腿に自分の腰を押し付け、御剣が呻くように言う。最後まで入ったのだろう。と思ったら御剣は腰を上下に揺すり始めた。規則的に動く玩具とはまったく違う、でたらめだけど激しい突き上げにぼくは簡単に翻弄されてしまう。
「あっ、あ、あ!だめ、だ、も、だめ…!」
本当に、限界だった。
ひっきりなしに込み上げてくる射精感。更に御剣が突き上げてくる。どくどくと血液が流れ、ただただ解放を望んでいるのに、無理にせき止められたことでぼくの理性は焼き千切れそうだった。何を言っているかもわからない。両手で顔を覆い、子供のように泣き喚いて限界を告げる。
ぼくの両脇に置かれていた御剣の手が動いて、赤いリボンに触れた。そして、ようやくぼくは解放されたのだった。
「あっあっあっ」
全部が解けるまでを待つ余裕なんてなかった。締め付けが緩んだ次の瞬間に、ぼくのそれは白い液体を吐き出していた。びくんびくんと跳ねながら、断続的に自分の腹を汚していく。あまりの開放感と安堵に唇から気の抜けた声が漏れる。
「フッ……そんなに我慢していたのか」
一部始終を観察していた御剣は、そんな言葉を投げ付けてくる。罵りたいのに声がうまく出ない。喉がひくりと鳴って、新たな涙が頬に零れ落ちた。
「だ、って…」
胸を上下させ、何とか声を作り出す。とくりと、残滓なのか先端からまたひとつ雫が溢れ出た。御剣がそれを面白そうに自分の指に擦り付け、唇の端を吊り上げた。
「私より先に達くとは、お仕置きが必要だな」
ぼくが目を見開くと同時に、いまだ敏感なぼくの身体に御剣が更に深さを求めてきた。射精で狭まっていた中を再度限界にまで広げられ、思わず目を閉じてしまう。
「───あッ!!」
玩具なんか比にもならない。御剣は何の言葉もなく、何度も何度も繰り返し繰り返し腰を打ち付けてくる。赤いリボンが絡まったままの性器が腹の上で弾む。もう、過ぎる快楽でまた迫ってくる射精までもが恐ろしく感じた。自分が何を口走っているかもわからない。嫌だ、嫌だと泣きじゃくっていたかもしれない。
腕で顔を隠し、意味のない言葉を繋ぎ、ぼくはただひたすら御剣からの責め苦に耐えた。膨らんだ先端が中に行き当たるのを感じ、瞬間、弾けた。
「あ…あ…」
体内が一瞬で熱くなる。中で、御剣が脈動する。御剣が出したものが流し込まれる。ぼくはただそれを受け止めるだけだ。
腹の上でリボンやら精液やら体液やらが、ぐちゃぐちゃになっている。多分ぼくももう一度射精したのだと思う。見る余裕はないけれど。
ヒドい。出てきた言葉はそれだけだった。溜めていた精液を出し、気分的にはすっきりするはずなのに……縛られ、焦らされ、玩具を突っ込まれ、逃げたくなるほどに攻めたてられて。あまりにもひどい仕打ちだと思った。
御剣はしばらく俯きのまま静止していた。中で感じていた鼓動が弱まり、やがて消える。そうしてからやっと御剣はぼくの上から退いた。力を失った御剣が抜け、後を追うようにして出された精液が零れ落ち内腿を汚した。御剣が顔を上げる。二人の視線が合った。額に汗を浮かべた御剣は、こう呟いた。
「間に合った、な」
それは、謝罪の言葉ではなかった。意味がわからなくてぼくは何も言い返せない。御剣は背後の壁にかけてあった時計を見、満足そうに微笑んだ。側に置いてあったティッシュに手を伸ばし、こちらにも何回か寄越す。とりあえずそれを自分を拭いながら、自分も時計を見つめてみた。
短針と長針がちょうど、重なり合っている。いや、少しずれているようにも見える。十二時……日付が変わったところか。
そう考えを廻らせるうちに、思い当たることがあってぼくは御剣に視線を移動させた。御剣は自分の後始末を終えていて、ほとんど何もできていないぼくの下半身に眉を寄せた。代わりにティッシュで拭い、どろどろになった赤いリボンを指先で摘み、ゴミ箱に捨てる。こちらの態勢も整ったところでぼくは、恐る恐る確認してみた。
「お前……さっき時間気にしてた?」
「ああ。君の日が終わりそうだったからな。終わってしまっては意味がない」
あれだけ馬鹿にしていた7月6日を、そんな風に言い訳に使うなんて……ヒドい。ヒドすぎる。ただ単にお前がやりたかっただけだろう、というどうにか言葉を飲み込んで、ぼくは御剣に背中を向けてベッドに倒れこんだ。
「シャワーを浴びないのか?」
「疲れた。明日にする」
御剣が背後で動く音がして、やがて部屋を出て行く。シャワーを浴びに行ったのだろう。ぼくは激しい怒りと後悔と羞恥の中で、ある日付を呪文のように唱えていた。
3月2日。3月2日。絶対覚えてろよ。
真宵ちゃんの法則によると、御剣の日は3月2日だ。もう過ぎてしまっているけど、次の3月2日は絶対に逃さない。今日されたことを全部やり返す。
ぼくの決意なんて全く知らない御剣は、今頃上機嫌で汗を流していることだろう。どんな絶望的な状況でも決して諦めることなく、食らいついてくる男。悪魔のような信念。御剣は以前、ぼくをそのように形容したのだ。
このままで終わるぼくじゃない。覚悟してろよ、と心の中だけで呟くとぼくはもう一度御剣の日を記憶の中に刻み込んだ。
7月6日はなるほどくんの日!タイトルもオチもやる気が足りてなくてすみません。
代わりにエロに縛りと玩具を入れました。
二兎追うものは一兎も得られなかった気もするけど!
なるほどくんをいっぱい喘がせて私は嬉しかったです!
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