苦しい。息が。胸が。
御剣の吐き出す息がいつもより近い気がする。顔をあげなくてもすぐ上に御剣は、いる。眉をしかめて何故か苦しそうにして。額に浮かべた汗も拭わずに。
「……まだ余裕があるようだな」
こちらの視線に気付いた御剣が愉快そうに笑う。そんなわけないだろ、と言い終えるどころか言い始める前に身体を揺すられて唇を噛む。
御剣はぼくの両膝を抱え込んで、上から体重を掛けて押さえ込む。脱ぎかけの青いズボンは太股の辺りで止められていて拘束の役目を果たしていた。
互いの間にぼくの曲げた足があるせいで挿入は浅くなると思えた。が、そんなことはなくいつも以上に深く穿たれていた。結合の場所は見えなくても、体内に潜むとある場所を御剣に擦られているという感覚がそれを示していた。御剣が動く度に発せられる卑猥な水音に合わせ、じんわりとした鈍く甘い痛みのような快楽がぼくを襲う。
「やっだ…も…」
プライドを守るために否定の言葉を吐いても無駄なことだ。
御剣の体重によって、ぼくの腹と青い布に挟まれる性器は与えられてもいない刺激を上手に拾って熱く固くなっていた。擦れる、御剣の動きで、自分のそれが。
堪らなく気持ちがよかった。もっともっと動いてほしい。潰すようにしてくれてもいいから、もっと。
思ってはいても、実際に口に出すことはできなかったけれど。
でも御剣は全てを見透かしているのかもしれない。勃起した性器で直接ぼくの中を好きに荒らし回る御剣には。
「あッ、…は、ぁ…」
まただ。また、前立腺を擦られて腰の辺りがぞわりとした。御剣がほんのわずかに眉をしかめた。自分では意識していないけれど、きつくしてしまったのだろう。御剣が前に言っていた。ぼくが泣いたり、怒鳴ったり……えーと、その、感じていたりすると。御剣のソレを締めてしまうそうだ。
そのきつい感覚と腹の上で勃起する性器と。結合部から零れて背中の方にまで滴るローションで、今のぼくが一体どういう状態なのか御剣にはやっぱりバレているのだろう。わかってはいても、それを素直に与えてくれないのが御剣怜侍という男だ。だからぼくはほとんど半泣きになってすすり泣くような声を漏らすことしかできない。
もっとちょうだい、とかいっぱいして、とか言うべきなんだろうか?御剣とこうなってから、密かな悩みでもある。自分がまさか受け入れる側に回るなんて考えてもみなかったから、今まで見てきた本や映像を真似してみようと思ったことがない。第一、ぼくはそんなキャラじゃない。それに男だ。
「セックスの最中に考え事か?───本当に君は仕方がないな」
え、と一言だけ返したぼくがその瞬間に見たのは御剣の酷薄とも言える笑みだった。
襲う衝撃。御剣が状態を更に低くしてきたのだ。膝を抱えた状態で押し潰された。両手で押し返すのに、床に手をつく御剣の身体は少しも上がってはくれなかった。
「あ、あああっあ、あ、…んッ!!」
身体を丸められた状態で激しく突かれ、よくわからない声が出る。それでもぼくのそこはローションを滴らせながらも御剣を飲み込んでは吐き出すことを繰り返した。その動きに伴い自分のそこが何とも言えない音を発しているのに気付き、恥ずかしくて死にそうになった。
だめ、と思う間もなく体内の温度が急激に上がりそのまま爆発した。腹と、青い布が濡れる感触。射精してしまった───触られてもいないのに、御剣に犯されている状態で。
身体が高ぶったのと同時に感情も高ぶっていた。涙が惜しげもなく溢れ、頬を汚していった。自分のあまりの情けなさに顔が赤らんだ。
「成歩堂……」
今の自分は誰にも、御剣にも見られたくないのに、どこにも逃げ場はない。だからぼくはみっともなく泣きつつも名を呼んだ相手を見上げることしかできなかった。
目が合った、と思ったら逸らされていた。気のせいか?と思った矢先に御剣は体重を更に掛けてきた。折り曲げられた身体と受け入れているそこが悲鳴を上げる。もう限界だ。
「ぁ、っ…」
喘ぎすらろくに上げれない。
呻きながら、こちらに近付いてくる御剣を見ていた。熱に浮かされた眼差し。そこから溢れる、純粋な愛しさ。それは紛れもなく自分に向けられていた。
額に感じる温度。御剣の唇だった。軽く押し当てられたそれはぼくにとろけるほどの恍惚感を与えた。涙がまたひとつ、頬を伝い落ちていく。
苦しい。息が。身体が。胸が。
苦しいんだよ。
君が、好きすぎて。