きみの不安材料はぼくが全部潰していく。最後にぼくは御剣を手に入れる。
 それって、なんかわくわくしない?

 そう言って彼は笑う。不思議と落ち着いた黒い瞳を私に向けて。ふてぶてしい笑みを綺麗にはり付けて私を見た後。視線を動かし、自信満々に前だけを見据える。
 私は透明の壁に遮られた小さな部屋で呆然と彼を見つめていた。
 殺人事件の容疑者として捕らえられた私は全てに対しての意力を失っていた。
 湖面の向こうに派手な赤色を見つけた時、ほっとしたような不思議な感覚に包まれたのをよく覚えている。手錠を自分に掛けられた時でさえ安堵に心が震えたと言ったら皆は笑うだろうか?
 ただひたすらに努力してきた。それこそ血の吐くような努力を。しかし、それも全て無駄だったのかもしれない。毎日、一日が早く過ぎることのみを願っていた。汚れた人生に早く決着がつけばいいと。
 検事生活を師の教え通り従順に過ごしてきた結果、私は悪名高い検事となっていた。そして最後には、自ら殺人を犯したということになっていた。栄光と称賛の果てに手に入れたのは、警官や看守の好奇心と侮蔑の感情が篭った視線のみ。
 幼い頃に不可抗力とはいえ犯した罪に目を瞑り、さらに手を汚し続けてきた私への報いなのか───
 私は留置所の中でそう悟った。そして、諦めた。もう本当に何もかもを。自分自身の命でさえも。

 しかし彼は違う。恐れるものなどまるで何一つないように、常に勇敢なのだ。

 絶望に腑抜けてしまった私の前に、彼は魔法のように現れた。隣に奇妙な格好の少女を連れて。胸に輝く金色のバッジを付け。
 情けなくも檻の中に閉じ込められてしまった私に躊躇もせずに手を伸ばす。私の手はもう血に濡れてしまったというのに。

「御剣。……ぼくにやらせてくれないか、きみの弁護を」