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「時に成歩堂」

ずい、と身体を少し前に進め、御剣は言った。

「何だよ」

御剣にパスポートを返しながら答える。ソファに座る御剣の横には、仰々しいトランク。
矢張の知らせを受けて一時帰国した御剣だが、また海外生活に戻るらしい。
空港まで見送りに行くつもりが断られてしまい、こうしてぼくの事務所で最後の語らいを しているのだった。

「さいころ錠は、今でも見えているのか……?」
「サイコロ錠!?」

真剣な表情で、何を言うかと思えば…思わず爆笑してしまった。

「ム。なぜ笑うのだ」

ぼくの反応に機嫌を損ねたのか、御剣は眉を寄せる。

「さいころって…違うよ、サイコロックだよ」
「サイコ…?……まぁ、いい。質問に答えたまえ」

刺す様な御剣の視線に、ぼくは頭をかいて曖昧な笑みを返した。

御剣に勾玉まで渡したのは、我ながら失敗だったと思った。
理論的な御剣が、非科学的なサイコロックを理解できるかどうか…正直、不安だったんだけど。
ぼくの言葉に、御剣は首を傾げる。どうやらまだ、信じ切れない部分もあるらしい。

「自分の目に見えたのなら、信じないわけにはいかないからな」
「見えても、幻ですませるかと思ったよ」
「君は私のことをどう思っているのだ…そこまで石頭ではない」
「御剣ってほんと、冗談うまいよね」
「…………いつ、私が冗談を言った?」

すごい視線で睨みつけられて、ぼくはへらりと笑う。

「いいから質問に答えたまえ」

そうだねぇ、と呟きながらぼくは冷め切ったお茶に口をつける。
御剣はぼくの態度が気に入らない らしく、組んだ腕の上で指をトントンと動かしていた。

「……見えてる、と言ったら?」
「!」

はっと胸をつかれた様子で、御剣が顔を上げた。わかりやすい、とぼくは心の中で思う。
実際に勾玉を持っていなくても、今の反応を見れば奴がぼくに対して秘密を抱えているのは一目瞭然だ。

「今、別れるとしばらくは会えないからね。…君の秘密を見過ごすわけにはいかないよ」

両手を組み、静かに囁くと御剣がピクリと片眉を上げた。
ぼくの目を見返し、顎を上げ微笑む。

「私のさいころ錠を解除すると…?おもしろい」

肩をすくめ、ソファに寄りかかった。そして目を細める。

「できるものなら、解除したまえ」

・.


「君が隠している事なんて、考えるまでもないよ」

机の上に積み重ねてあった、この前の事件の資料に手を伸ばす。
目的のファイルを見つけ、正面に座る御剣へと指し示してみせた。

「この事だろ」

ぼくが持っているファイルには、穏やかに微笑む女性が写っている。
御剣は驚きもせずにそれと、ぼくの顔を見比べる。

「あやめさんとは、君が思っているような関係じゃない」
「………君が被告になった事件の資料を読んだ。君と彼女は以前…」

ぼくは頷き、それを認めた。
ぼくが恋人と思っていた女性は、実はあやめさんだった。
それはつい最近になってやっと知った、事実。

「確かに、今も彼女のことは大事に想っている」

ぼくの言葉に御剣の肩がピクリと動く。
その鋭い視線が切なげに震えた事も、ぼくは見逃さなかった。

「君はぼくのことをどう思っているの…ぼくはそこまで器用じゃないよ」

でかい図体を持ちながら女性に嫉妬する目の前の恋人が愛しくて、ぼくは笑う。

「今は君が一番大事だよ」

御剣の表情が、一瞬ほっと緩んだ。しかしそれはすぐに引き締められる。

「どう?解除できた?」

机の上に資料を置き、笑いかけると御剣は意外そうな顔でぼくを見た。
どうやら、彼のサイコロックはまだ残っているらしい。でもそれは、ぼくには見えていない。
不思議そうな顔をしてる御剣に向かって、にっこりと笑いかける。

「見えたなんて嘘だよ。事件がないときは、真宵ちゃんに返してるんだ」
「!!貴様は…!」
「淋しいよ。本当は行ってほしくないよ」

かっとなり口を開きかけた御剣を、ぼくは言葉で遮った。

「君の秘密を暴く事より、今は君と少しでも長くいたい」

口元に浮かべていた笑いを引っ込めて、ぼくは静かに言う。
ただ真っ直ぐに、目の前の恋人を見つめながら。

───御剣。君はぼくに何を言ってほしいの?」

  一体、何を暴いてほしいの。

御剣はぼくから目を逸らした。悲しげにまつげを伏せて。

「………君は、誰に対しても優しい。私が側にいなくても、特に何も思わないのではないかと…」
「そんなこと誰も言ってないだろ。……君は淋しくないの?」
「………淋しい。本当はずっと君の側にいたい」

ぼくの問いかけに、御剣は顔を上げた。そしてぼくを見返す瞳が、ゆらりと揺らめいた。
自分で自分の肩を抱き、御剣はぽつりと本音をこぼした。
そっか、と軽く返してぼくは腰を上げた。ブラインドを下ろし、窓からの光を遮る。
次は事務所の扉に足を向け、ノブに手を回し鍵をかけた。
振り返り、にっと笑ってみせる。

「窓も閉めたし、鍵もかけた。真宵ちゃんも今日は休み」
「う、うム…そうか」
「とりあえず、最後に一回しとく?」

がたっと大きな音を立てて、御剣の身体が机に崩れ落ちた。
歩み寄り、したくない?と笑いながら問いかけてみると、御剣は絶句したまま首を振る。
隣に腰掛けたぼくを御剣はきつく抱きしめた。そしてそのまま狭いソファに押し倒される。
間近に迫る顔が少しだけ離れると、次は首筋に熱い唇が押し当てられた。
その肩越しに見える天井を見ながら、ぼくは呟いた。

「……とにかくぼくは」

ネクタイが緩められ、シャツとその隙間から縫うように触れる御剣の歯の感触。
きつく吸われ、それは痣となりぼくに消えない跡を残す。遠くに行ってしまう、御剣の代わりに。

「君が思っている程、強くないから。……ちゃんと、淋しいから」

御剣がゆっくりと身体を起こす。ぼくは手を伸ばし頬に触れ、側に引き寄せる。
触れ合いそうで触れ合わない唇を動かして、ぼくは御剣に告げた。

「…なるべく、帰ってこいよ」
───了解した」

そうしてやっと御剣は、ふっと表情を緩めた。
その表情にぼくは、見えもしない鎖と鍵が音を立てて崩れ去っていくのを感じた。


●   
・.

 

















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ほのぼのギャグで終わらせるつもりが、なんだか切ない感じに。
ミタンがありえないくらいに女々しい!!もっと男らしく嫉妬できないもんかね。

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