top> 愛の言の葉 |
______________________________________________________________________________ |
||||
|
某月 某日 午後7時 成歩堂法律事務所 現場を巡り、留置所と警察署を何度も往復し、裁判所で検事にいびられて… 「ああ、疲れたー」 ソファーに沈み込むように座ると、ひょこりと横の方から除く人影。 目が合うとにこにこっと微笑む少女。 「おかえりー!なるほどくん」 両手を胸の前で組み合わせて、真宵ちゃんは笑う。 彼女が笑うと、ついついぼくまで微笑んでしまう。 「あ、真宵ちゃん、コーヒー入れて」 キッチンへと引っ込んだ背中に、声を掛ける。 「うちの妹をこき使っているようね」 突然、頭の上から第三者の声が降ってきた。驚いてぼくは数十センチ飛び上がる。 「失礼な態度ね、なるほどくん。久しぶり」 眉をしかめた後、表情を変えにっこりと笑う。 肩をすくめて笑う姿は、確かに所長のものだ。 「今日の裁判も、相変わらずハッタリ言ってたわね。感心するわ、その度胸」 首を傾げて笑う仕草も、生前と全く変わらない。違うのは、装束のような格好と髪型だけ。 「本当に、死んでしまったんですか…?」 自分でも間抜けな質問だと思った。でも、どうして信じられなかった。 「今更何を言っているのよ」 腕を組んで、少し笑う。その様子に、ぼくは言葉を失くしてしまった。 「千尋さん。どうして、そんな風に笑えるんですか?」 溢れそうになった涙の代わりに、ぼくは言葉を吐き出した。千尋さんが驚いてぼくを見つめ返す。 「どうしていつも、ぼくを置いていってしまうんですか?」 ぼくは俯いたまま感情を吐き出す。 「そうやって、一人で先に進んでしまって…」 涙で喉が詰まった。片手で口を覆い、ぼくは言葉を止めさせる。 「なるほどくん。あなた、何か誤解してない?」 ふと、静かな声が響いた。ぼくはその問い掛けが理解できなくて、顔を上げた。 「何をですか……?」 しっかりとした口調に問い詰められ、ぼくは黙る。 「会いたい人にも会えなくなって……ただ見ていることしかできないなんて」 澄んだ目でぼくを見る。 「あの日…ぼくが早くここに戻っていれば」 唇をゆっくりと動かして、ぼくは呟いた。ぼくの言葉に、千尋さんは目を閉じて首を振る。 「何でも一人でできると思ってたの…馬鹿よね」 そして、自嘲の笑みを浮かべながら一人呟く。 「あの夜。あなたを待っていればよかった。怖いと思ったのなら、素直にそう言えばよかった」 小中と会う決断を、彼女は一人でした。こんなにも近くにいたぼくに何も告げないで。 「守ってほしい……そう言えなかったのよ。どうしても」 そう呟く姿がどうしようもなく、愛しい。 「こんなこと、今更言っても困らせるだけでしょ?」 ぼくの表情から読み取ったのだろう。口元を緩ませて千尋さんは笑った。 「でも……どうしても、会いたかったのよ。あなたに」 そしてそれは、泣き笑いのような表情に変わる。 「……真宵ちゃんは、今はどうなってるんですか?」 髪形、格好。これは千尋さんじゃない。真宵ちゃんのもの。 「なるほどくん、駄目」 伸ばした手は、言葉だけで拒絶されてしまう。 「千尋さん」 一度名前を呼ぶと、彼女は微かに身体を揺らした。 「千尋さん……ぼくに触れられるの、嫌ですか?」 彼女が顔を横に振ると、耳に掛かっていた髪がともに揺れた。 「…………本当は、触ってほしい」 そして泣きそうな声で、そう言う。ぼくは堪らなくなって、両手で千尋さんの肩を掴んだ。 「でも、触らないで」 はっきりとした拒絶。届かない指。 「ごめんなさい……」 声を震わせて、彼女は謝った。ぼくは唇をかみ締める。これを緩めたら…泣いてしまう。 「……好きです、千尋さん」 呟きながら指に髪を絡ませた。でも千尋さんは逃げなかった。 こんなに近くにいても、ぼくたちは触れ合うことすらできない。 「……なるほどくん」 目を閉じて、ぼくは告白する。 もうすぐ彼女は消え、代わりに真宵ちゃんが戻ってくる。 そう祈りながら、ぼくは彼女の髪を握り締めていた。 「なるほどくん……ごめんね」 しばらくして、ふわりと落ちてくる呟き。 彼女に届くように、愛の言の葉を思い浮かべながら。
●
|
______________________________________________________________________________
もうどうしようもない恋愛です。せ、切なぁ! 私はどうも、少し弱い千尋さんが好きなようです。 弱さをこっそり告白する姿にものすごく萌えるのです。 なるほどくんは21歳の時にわあああん!と盛大に泣いてますが、それはもうこの際無視で。 ナルマヨのマヨちゃんとは別の人ということで!これでなるほど君に片思いしてたら可哀想過ぎるよ。 |
top> 愛の言の葉
|