top> プラトニック? |
______________________________________________________________________________ |
||||
あと数センチだけ、手を伸ばして。
そりゃあ、ものすごく会いたがっていたのもぼくのほうだけれども。 「…………」 眉間にしわを寄せて、御剣がぼくをにらむ。そう言われると余計に言葉が出てこない。 「御剣…おまえさぁ、昔なんであんな格好してたんだ?」 首の前で指を動かし、蝶ネクタイを作ってみせる。御剣の眉間のしわがいっそう深くなった。 (や、やばい…) 「………コナン」 消え入りそうな声で御剣が言った。 「コナン…って、昔の漫画の…?」 御剣がこくりと頷くのと、ぼくが吹き出したのはほぼ同時だった。 「!!……笑うな!」 あの頃、ぼくと矢張が夢中になって読んでいた漫画の話を、御剣はただくだらないと横を向いていた。 (ほんと、素直じゃない奴…) 涙を浮かべて笑い転げるぼくを、御剣はしばらく睨みつけた後、あきれた様に口を緩ませた。 「……何だ?」 食い入るように見つめてしまった視線を慌ててはずす。そして頭をかいて、笑う。 「おかしな男だな、君は」 しばらく二人で笑いあう。とりあえず今は、こいつの笑顔が見れるそれだけで。 間近で揺れる君のその髪に──触れる?触れない?
「予想通り成長したなー!!」 うんうん、と何度も頷きながら矢張は笑った。 手酌で日本酒を銚子に注ぎつつ、御剣がじっと矢張を見た。 「何が予想通りなのだ?」 ばちっとウィンクを男二人にかまし矢張は言う。ビールを一口飲み、つられてぼくも笑う。 「小学4年の時以来なのに、君たち二人は全然変わってないよ」 ぼくの言葉に、二人が同時に顔を上げた。 「何言ってんだよ、ナルホド」 酒のつまみやら料理やらが所狭しと並ぶテーブルに両手をつき、ぼくは言葉を失った。 「やべっ!今、何時!?」 一人で耽るぼくを無視して、矢張がいきなり慌てだした。御剣の指し示した時刻に、オーバーに驚き立ち上がる。 「俺、帰るわ!この後カノジョと約束してんだ!御剣、また今度ゆっくりな!」 財布からよれよれの千円札を2枚出してテーブルに置き、それじゃあ足りてないよ、とぼくが突っ込む前に 「み、御剣?」 15年前…マイペースな矢張に振り回されていたことを思い出し、ぼくも笑う。 「本当だね」 ふと、目が合った。御剣は笑みを瞬時に引っ込め、真顔へと戻る。 ほのかに赤く染まる、君のその頬に──触れる?触れない?
(何なんだろう……) 事務所のソファに身を沈め、一人考える。 御剣と二人でいると、なんかおかしい。 「……急に来て、すまない」 そう言って、自身の肩を抱いて事務所の玄関に立っていたのは──
「久し振り、だな」 なぜかはやる心臓を押さえつつ、コーヒーを御剣の前に置いた。 「急にどうしたの」 ぼくの問い掛けに、御剣は顔を上げた。正面から、目が合う。 「仕事の話?」 思わず目を逸らし、コーヒーをすする。 「君と再会して………」 たどたどしく言葉をつむぎだした彼を、ぼくは息を詰めて見つめる。 「あの事件を解決してくれたこと…本当に感謝している。正直、最初は君が憎かった。 不器用な御剣が、言葉を選びながら慎重に心の内を語る。 「でも……でも、君は私を信じてくれた。ありがとう」 彼から貰う言葉をひとつひとつ噛みしめるように、ぼくは頷く。 「どうしてだろう……君に対するわだかまりは、もう残っていないはずだ。 再度、正面から合う目。 不安と、悩みと──あとは何だろう? 「いつも君が、思い出される」 何もない部屋に響く、息を呑む音。それはぼくのものだ。 「御剣………それは、恋じゃないか?」 ぼんやりとそう言ってしまったあと、思いっきり後悔する。 「ご、ごめん!何言ってるんだろう…ぼく。…忘れてくれ!」 顔を伏せ、平常心を取り戻そうと努める。御剣の顔が見れない。 「成歩堂」 数秒間の沈黙の後。 静かに、名前を呼ばれた。 戸惑いながら、顔を上げる。 彼はゆっくりと、手を伸ばす。 御剣の指が、ぼくに──触れた。
●
|
______________________________________________________________________________
恋の始まりの話。恥ずかしいくらい純な二人です。 24歳にもかかわらず、初々初々してます。 指が触れ合うだけでドキドキ…これ以上触ったらパンクしちゃう!みたいなノリで。 成→ビール・御→日本酒・矢→チューハイ なイメージ。この三人って趣味が全く違いそう… |
top> プラトニック?
|