top> いとしのれいじ

 

 
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うとうとと生温いような空気と思考のなか、額に触れる誰かの温度。
ぼくは現実半分、夢半分の世界を行ったり来たりしていた。
毛布の上に投げ出した手足は重く、さっきまで繋がっていた部分の熱は少しだけ引いたものの、
未だ熱を持っていて痛い。ぼくは閉じていた目を開いて右側を見た。
仰向けになったまま、身体は動かさずに視線だけを動かして。

「何してるんだよ……」

問い掛けた声が掠れてしまっていた。さっき散々喚いたせいだろう。
何だか悔しくなって口を閉じ中を湿らせる。

「泣かせすぎたようだな。……いや、喜ばせすぎたの間違いか?」

自分だけ上半身を起こし、横たわるぼくの額を撫でる御剣は、手を止めずにそう言って笑った。
ムカついたぼくは誰のせいだと思ってるんだよ、と反発しかけたけどやめる。
それじゃあまるで認めたみたいじゃないか。ぼくが、御剣に抱かれて喜んで泣いたなんてことを。
御剣のその台詞は流す事に決めたぼくはゆっくりと息を吸い込む。
そして今度は声が掠れないよう、普段のままの声を発するため腹に少しだけ力を入れてもう一度言う。

「何してるんだよ」

御剣は答えずにもう一度ぼくの額を撫でた。
乾いた髪の間を人の指が抵抗なく通り抜ける感触は、何だかとても心地がよい。
けれども、こうしてずっと撫でられているのはまるで自分が子ども扱いを受けているように思えて
何だか居心地が悪い。
やめてほしい─── という意を込めて顔をほんの少し傾けて、じろりと御剣を睨む。
優しく撫でる手はそのままに御剣はにやりと笑い返してきた。ぼくの意思は全く通じていないらしい。
嫌よ嫌よも好きのうち、なんて一体誰が言い出したんだろう。
きっとコイツみたいな自分勝手な奴が言い出したに違いない。
拒否の言葉を繰り返してみても御剣はやめないだろう。
悩んだぼくはやめろという言葉ではなく、からかうような口調でもう一度質問してみる。

「なぁ、そんなことして楽しいか?」
「ああ。とても楽しい」

何の臆面もなくそう返されて思わず目を見開いてしまった。そんなぼくを見て御剣は笑う。
いつものように皮肉たっぷりの笑みで。そして呟いた。

「熱は、下がったようだな」
「おかげさまで」

ぼくは再びまぶたを下ろして短く答える。
その言葉が二人の間に拗ねたみたいに響いて、ぼくは慌てて口をつぐむ。
そのまま御剣を見上げたけど、御剣は特に何も思わなかったらしい。
ぼくの髪の上を御剣の指が音もなく滑った。

ああそうか、先週までビリジアンと表現された顔色になるまでの大風邪を患っていたぼくの体温を
測るために、君はぼくの額を撫でているんだな。

一瞬、そうとぼけようと口を開きかけたけどぼくは何も言わなかった。
何も言わずにまぶたに力を込める。
もしも、 真面目な顔でそれは違うと切り替えされてしまったら。
私が君の髪を撫でるのは、成歩堂、それは君を……
自分の脳内で御剣の答えとその声を作り上げ、すぐに打ち消す。考えただけで恥ずかしくて死ぬ。
うう、と小声で唸ったぼくの頭を御剣の手は相変わらず撫でていた。

───
まぁいいや。
こうして二人きりになるのは約一年振りのことなんだから、しばらく好きにさせてあげよう。

そうなんだ、ぼくと御剣が二人きりになるのは本当に久し振りの事で。
ベッドの上で、お互いに裸で、数日前は研修で遠く海外にいた御剣が、横たわるぼくの髪を優しく撫でている。
そう事実を並べた瞬間、何だか身体をくすぐられたような気分になる。
研修という名目で御剣が日本を離れたのはもう随分前のことだ。
真宵ちゃんが誘拐された、王都楼真悟の裁判で向き合ったのを最後に御剣は
海外へと旅立ってしまった。
でも今こうしてぼくと一緒にいるのは、最近起こったある事件のおかげだ。
葉桜院を舞台にした殺人事件……それに巻き込まれたぼくは真冬の川に落ちるという一生に
一度あるかないか(普通に生きていれば多分ないだろう)の経験をした。
その場にいた矢張が機転を利かし、海外にいる御剣を呼びつけ彼は即座に駆け付けぼくは
奴にバッジを託し急場を凌ぎ、裁判は無事、無罪判決で幕を閉じた。

「成歩堂……」

いきなり声が降ってきてぼくははっと我に返る。
事件の思い出をさ迷っていた思考は、御剣の声によって再び現実へと引き戻された。
額の上の手が止まる。
と思ったら頬に手が触れ唇が重なってさらに舌で割られて、きつく吸い上げられる。
手のひらが額から胸に移動してまた動き始める。
さっきまでの優しい動きとは違って、今度はひどく手荒に。

「ん……」

ぼくは目を閉じたまま、小さく声を漏らしてそれを受け止めた。
早速二回目か、コイツってなかなか体力あるよな、明日は特に急ぎの仕事もないし少しぐらい
遅刻したって構わないだろう、でも真宵ちゃんは怒るだろうけどさ ───
ぼくがそう考えているうちにも御剣の手は止まらなかった。
平坦な胸を下り腹を通り過ぎ、今は右の腿を撫で回している。
ぼくは、目をきつく閉じて与えられる快感を神経で追う。暗く落ちた視界の向こうに、御剣が動く気配。
敏感な部分を狙う指、温かい舌。深く濃い、丹念な愛撫に次第に息が短くなっていく。

その時、ふいに、ぽつりと。

息継ぎをしようと唇を動かした後、汗ばんだ頬に落ちる水滴を感じた。
汗か、と思考をぼんやりとさせつつもぼくは悟った。行為中に相手の汗を感じるのは特に珍しいことでもない。
そう思った途端にまた、一粒が降る。ぼくは目を閉じて御剣の手の動きに集中しようとした。
しかしそれは全く止まる気配がない。
降り出したばかりの雨のように、ぽつぽつと時間の間隔をあけてぼくの身体に落とされていく。
汗にしては量が多い、ような……?
不思議に思ったぼくは喘ぎながらも閉じていた目をわずかに開く。

「!」

ぼくを見下ろす御剣の顔に、ぼくは飛び上がるくらいに驚いた。
快楽にぼやけてしまった視界に必死に目を凝らす。

「ちょ、ちょっと待っ…た!」

慌てて制止の声を上げる。けれども御剣は待たない。
足の間に手を差し込まれ、普段は他人に触られることのない腿の内側を掴まれた。
もう片方の手でさらに何かを掴もうとする。
ぼくは必死になって自由な右手で強く、御剣の背中を叩く。しかし御剣は止まらない。

「やめ、っ……と、とまれって……ッ!」

御剣はぼくの声を無視したまま─── 目じりから大量の涙を零しながらもぼくを抱こうとする。
足首を持たれて高く持ち上げられて、間に御剣の身体が割り込んできて。
手首を掴まれてベッドに押し付けられて、胸に御剣の涙が落ちてきて。
思わぬものを目にした混乱と、無理矢理組み敷かれた動揺がごっちゃになってパニックになる。
自分の中で感情の針がぐんと勢いよく振れたのを感じた。
全ての感情が沸点を越して怒りと衝動に変わる。

「こ、のっ…バカッ!…待てって、言ってんだろ!!」

そう叫んで思いきり足を暴れさせた。
御剣の手が離れやっと自由を取り戻した右足を、御剣の裸の肩に当てた後思いきり踏み降ろした。
ぼくの足の力を受けて御剣の上半身が傾く。
そこにすかさず力を加えて蹴って、その身をようやくぼくから遠ざけた。
そして間髪入れずに横たわっていた自分の身体を起こした。大きく動いたことでぜいぜいと喉が鳴る。
御剣は蹴られた肩を自分の手で押さえながら、上半身を元の位置に戻してきた。
その目は据わっていてとても恐ろしい。
一瞬怯みかけたものの、その目の端に未だ残る涙の気配に気を取り直して尋ねた。

「何で、泣いてるんだよ」

御剣は何も言わなかった。顔を俯かせて自分の身体を抱きしめる。
この光景はどこかで見たことがある。 記憶を辿るまでもない。
あの時、殺人事件の容疑者として逮捕された御剣の弁護をするために訪れたぼくが留置所で見たものだ。
理由はあっても言いたがらない、固い拒絶の意志の。

「御剣。何で泣いてるんだ?」

ぼくはもう一度問い掛けた。 その拒絶に食い下がるぼくじゃない。
それは奴にだってわかっているはず。
御剣は困惑したように眉を寄せると、ぼくを見つめ小声で呟いた。

「……汗だ」
「あせぇ?」

ぼくはわざとらしく片方の眉を吊り上げてみる。嫌味ったらしく語尾を上げるのもわざとだ。
御剣の瞳に一瞬で怒りの色が灯る。けれどもぼくが見返すうちにそれはさっと逸らされてしまった。

「汗には見えませんけどね?」
「わざとらしく敬語を使うな、馬鹿者」

頬を濡らしながら説教されても怖くも何ともない。

「みーつーるーぎー」

おどけた口調で呼び掛けつつ頬を軽く叩く。
しかしぼくはその直後にぎょっとして自分の腕を引っ込めてしまった。
ぼくが頬に触れたのが原因なのか何なのかわからないけれど、御剣の細い目からまた
ぼろぼろと新しい涙が零れ始めたからだ。
御剣にとってもそれは予想外のことだったらしい。ぎょっとしたように顔を強張らせて素早く横を向く。

─── どう見ても泣いてるように見えるんだけど?

そう言いかけて止める。からかう口調で言っても逆効果になるだけだろう。
御剣は頬を濡らす涙を自分で拭くことなく、じっと壁の一点を睨みつけていた。
まるで涙など流れていないという風に堂々と。その様子に思わず苦笑が漏れた。
ほんと、素直じゃないというか逆に潔いというか。

「なぁ、御剣ってば」
「……矢張から連絡をもらって、君の命が危ないと聞いて」

呆れるように呼び掛けるとようやく言葉が返ってきた。
涙で多少の震えはあるものの、御剣の声は意外としっかりしていた。

矢張が、ぼくのピンチを悟って御剣を呼び付けてくれた事。それはとても感謝している。
奴の連絡を受けて御剣は緊急帰国してきたのだから。
ジェット機をチャーターするという行き過ぎたギャグにも思えるような、そして周囲の度肝を抜く方法で。
御剣をそこまでさせた矢張の電話……それは一体どのようなものだったんだろう。
まあ、想像し難いものではないけれど。

「あいつぼくが死んだとか言ったんだろ、どうせ。……で?」

あの人騒がせで迷惑ばかり掛けてくる親友の顔を思い出して、思わずげんなりとしてしまった。
会話を促すために御剣に向き直ると、御剣はまた貝のように口を閉じてしまっていた。
視線で続きを要求してみても再び口を開く気配はない。

「御剣、言えよ」

ぼくはため息混じりに言う。今度は握り締めた拳に自分の手を重ねて。
……このままじゃぼくが泣かせたみたいじゃないか。
はぁとまた息をつこうとしたその時、捕まえていた御剣の拳がぐるりと回転した。
逃げる間もなく手のひらを掴み返される。
加減なく込められる力と手の甲に食い込む爪に、痛いよと突っ込もうとした。
けれどもぼくは突っ込めなかった。

「き、君が……っ」

潰れた声で御剣は言った。

「君が、し、死んでしまったかと、おもっ……」

顔の横にある髪が下方に流れて御剣の表情を隠す。けれど嗚咽と声までは隠せない。
御剣はぼくの手を強く握り締め、苦しげに、そして小刻みに息を吸い込みながら泣き出したのだった。

びっくりしたのはぼくの方だ。だって、だってあの御剣が。

誰よりもプライドが高くて弱みを見せることが嫌いでいつでも他人を見下したような仕草や表情をする御剣が。
泣いている。ぼくの前で。まるで、子供みたいに肩を震わせて。
白い肌にはらはらと舞い落ちる涙を見ながらぼくは少しずれたことを考えていた。
子供みたいにって思ったけれど、九歳の御剣だってこんな風に泣かなかった。
そう考えてから気が付いた。ぼくが泣いている御剣を見るのは今が初めてのことなんだ、と。

「おい、泣くなよ御剣………」
「………」

ぼくはかなり参ってしまって、そう声を掛ける。
すると御剣はぎゅっと唇を噛みしめた。 流れ落ちる涙をどうにか止めようと。
よく見ると、噛みしめた唇は血の巡りが悪くなって色が変わっていた。
それでも御剣は止めようとしない。
唇を噛みしめて俯いて視線を一点に集中させて涙を堪える。
やっぱり子供みたいだ、と少し笑いそうになったけれどぼくは笑わなかった。
慰めようにも何を言ったらいいかわからない。
ぼくは空いている方の手を持ち上げて後頭部をかきながら呟いた。

「何も泣くことないだろ?ぼくは無事だったわけだし」
「………」

涙を堪えるのに必死な御剣にはぼくの声もちゃんと届かないだろう。
と思っていたらとても小さなうムが返ってきた。
なだめる為に手を伸ばしたら、その方向からもにゅっと手が伸びてきて手首を掴む。
そしてそのまま強引に引き寄せられて、御剣の裸の胸に顔を思いきり押し付けられている
格好となってしまった。捕らえられていた手から御剣の手が離れ、ぼくの背中に回り、首の後ろに移動して。
二人の距離が一気に縮まる。唇が御剣の肩に当たり、呼吸がちゃんとできない。
それでもお構いなしに御剣は強くぼくを抱きしめる。

「おい、苦しいって、御剣……」

拳を持ち上げ乱暴に叩こうとして─── ぼくは気が付いた。
御剣はまだ泣いていた。
ぼくを抱きしめ、ぼくの無事を確かめるように、今ここにちゃんとあるぼくの体温を喜ぶように。
ぼくの身体に自分の手をきつく回して、湧き上がる嗚咽を喉の奥で噛みしめるようにして、すすり泣きながら。

「……成歩堂、無事で……」

その呟きの最後の、よかったという言葉は言葉になっていなかった。
肩の上がひんやりと冷たい。ぼくの肩に頬をつけて御剣が泣いているせいだ。

仕事をほっぽり出してジェット機をチャーターして飛んで帰ってきたって聞いた時は何て大げさな、
そして何て金遣いの荒い男なんだと思わず苦笑してしまったけれど。
それは御剣の中で、ぼくの命はお金よりも仕事よりももっと価値のある物だということで。
プライドが高くて弱い部分を見せるのが大嫌いな御剣が、こうして涙を惜しげもなく流すほどに
ぼくを心配していたということで。
わかっていたはずなのに、どうしてさっきまでわからなかったんだろう。

ぼくは拳を作っていた右手を解いて彼の冷えた背中へと回す。
そしてあやす様にぽんぽんと軽く撫でてやる。

「御剣、泣くなー」
「泣いてなどいない」

震える声でそう言い返す恋人が、とても愛しくて可愛いと思った。
きっとこんな胸板の厚い、目つきの悪い男を可愛いと思うのはぼくだけだろうけど。
目を閉じて肌に当たる御剣のわずかな鼓動に耳を澄まして。
言葉を切って丁寧に、ぼくは言う。

「心配掛けて、ごめん」
「……謝るのが遅いぞ」

やっぱり可愛くない。
返された鼻声に多少はムッとしたものの、それはすぐに解けていく。
身体を離して、今度は御剣の目を覗き込む。
端正に整った顔が情けない泣き顔になってるのを正面から見て、可笑しいような切ないような気分になった。

「でも、来てくれて嬉しかった。助かった。ありがとう、御剣」

そう言い終えると、また二人の距離を詰めてキスをする。
しばらくして目を開くと、御剣の目もぼくをじっと見つめていた。
ようやく涙の粒が消えたのを見てぼくは唇を緩めた。そして笑いながら言う。

「もし君が死に掛けたら、ぼくもジェット機をチャーターして君のもとに駆けつけてやるよ」

ぼくの言葉に御剣の表情がぴくりと変化し始める。
情けなく下がりきっていた眉が持ち上がり、唇が緩やかに弧を描き出して。
フン、と鼻でぼくを笑うと御剣は腕を組む。

「そんな金が君にあるのか?」
「いや、ないけどさ。……心意気?」
「心意気で海を越えるというのか。呆れるほどに馬鹿だな、君は」

すっかり口と意地の悪さを取り戻した御剣に気を悪くすることなくぼくは、伸ばした手で
御剣の身体を抱きしめた。そのまま体重を掛けてベッドの上に御剣を押し倒す。
その身体の上に自分を運んで腰を曲げた。

「じゃあ、いつでも駆けつけれるようずっと君の側にいるからさ」

言われた台詞と、ふいを付かれたような口付けと。
御剣は面を食らった様子で目を見開きぼくを見上げた。
ぼくはその表情を見、満足げに微笑むと舌と指を使って横たわる御剣の身体を愛撫し始めた。

「君にしては珍しく格好のいい台詞だな……」

吐息混じりに御剣は答えた。
ぼくは息の上がった御剣にもう一度口付けすると、手を後ろに運んで相手の熱を確かめる。
そしてそれに指を添え自分の腰を持ち上げた。

「気障な台詞は似合わないって言いたいんだろ、どうせ」

ふてくされるようにそう言い捨てると、上げた腰を御剣に向かって落とした。












散々中を抉られて突き上げられて……ぼくはぐったりとベッドの上に横たわっていた。
一回目が終わった時と状況は変わっていない。
ベッドに寝そべるぼく、その隣に座り髪を撫でてくる御剣。

でも、繋がってた部分は前よりももっと痛いし、腰も手も足も重りを付けられたようで自由が利かない。
自信と威厳といつもの勢いを取り戻した御剣を目だけで見上げて呟く。

「さっきまで散々泣いてたくせに……覚えてろよ」

この先ずっとあれをネタにからかってやると復讐を誓った瞬間、視線を落とした御剣と目が合った。
ぼくの呟きが聞こえたのか、御剣は余裕の笑みをぼくに向けた。

「私の上で君も、散々泣いていたように見えたが?」
「あーうるさいうるさい」

こんなことになるならあのまま一人で泣かせておけばよかった。
そう思ってももう後の祭りだ。

「…………寝る」

悔しいけれど体力が思考についていかない。
これはふて寝じゃないぞ、疲れたから寝るだけなんだぞ、と最後に念押ししたかったけれど、
もうどうしようもないくらいにまぶたが重かった。 ごろりと寝返りをうち隣りにいる御剣に背を向けた。
裸の肩が寒いと思ったけれど、毛布を探すことすら億劫で。と思っていたらふわりと温かい布が降ってきた。
それと同時にこめかみ辺りに口付けをされた気配。
そして、少し遅れて降ってくる囁き。

「明後日には……また日本を発たなければならない」

どうせぼくの顔を見て言えないから、いま言ってるんだろ。
言うだけで寂しくて泣いちゃいそうなんだろこのヘタレめ、と思いつつぼくは布に包まりながら言葉を返す。
思ったこととはまるで矛盾した言葉を。

「……ああじゃあ金貯めとかないとな」

ジェット機のために、離れていく君のために。

毛布の中で呟いた言葉だし、眠気が勝っているこの状態ではちゃんと発音できたかも定かじゃないけれど。
御剣の耳にはちゃんと届いたのだろう、ふっと優しく笑う音が聞こえた。
続いて触れる、布越しの体温。
隠れるぼくの身体に頬を寄せて御剣は小さく囁いた。

「いつでも私の元に駆けつけられるようジェット機を一台、君にプレゼントしようか」

さすが天才御剣検事、気障な台詞は完璧だなぁ。
それが聞けなくなるのは本当に、本当に寂しいよ。

─── そう冗談ぽく言って、ヤツをからかったつもりだったんだけど。
御剣は何も言わなかった。代わりにまた優しい口付けが落ちてきた。

「私も、……」

最後の言葉は聞こえない。
何て言ったか気になって気になって、起き上がって問い詰めようと思ったけれど、
どうしてもやっぱりまぶたが重くてぼくはそのまま眠りに落ちた。




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・.

 

















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10万hit企画、ミツナルでラブラブ話でした。
タイトルも恥ずかしければ中身も恥ずかしい。
推奨BGMはいとしのエリーで。
抱き合う辺りからイントロが流れる感じで(笑)

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