top> ハートに火がつく

 


______________________________________________________________________________

 

火をつけるのはいつも、君の戯れの手。

 

「成歩堂」

名前を呼ばれ、ぼくはけだるい身体を動かした。
ぼくの肩を抱こうと伸ばされた御剣の手は空を切る。

「ム」

振り返ってみると、眉間にしわを寄せた御剣の顔。ぼくはそれに気がつかない振りして笑う。

「何?」
「寒い。こっちへ来い」
「じゃあ、服着たら?」

笑顔のままそう返すと、御剣は眉間のしわをもっと深くしてぼくを睨む。
勢いよく身体を起こし、床に落ちていたセーターを手に取る。そしてそれを頭からかぶった。
脱ぎ捨てられて一晩中ほっとかれたセーターは冷たくて、ひやっとした感覚にぼくは身をすくめた。
でもそれはすぐに体温で温かくなる。ズボンをはいて、ベッドに寄りかかり床に座った。
この場所はベッドに横たわったままの御剣からは手が届かない。
ぼくはそれがわかっているんだけど、あえてそうした。 御剣は低血圧で、身体がうまく動かないらしい。
起きあがる様子もなく、指先でぼくの尖った髪をいじる。
かと思ったら、いきなり妙なことを言い出した。

「成歩堂。恐竜がなぜ絶滅したか知ってるか?」
「はぁ?」
「知っているのかと聞いている」

振り返って御剣の顔を見る。御剣は裸の肩を隠すようにシーツに包まったまま、ぼくに問いかけた。
ぼくは眉を寄せて首を振る。

「……知らないけど」
「隕石が衝突したと言うのが一番有力な説だ」
「ふーん」
「他にもウィルスが蔓延した、地球の重力の増加によりその巨大な体重を維持して生きていく ことが
できなかった、などと様々な説があるが真相は未だわかっていない」
「はぁ…」

だから?と喉もとまででかかったけど、ぼくはそれをこらえた。

「最初の隕石衝突説を詳しく説明すると、それによって約1年間、厳しい冬の時代が訪れた。
その時に恐竜及びすべての生物の約7割が死滅したと言われている」
「へぇ」
「寒さと言うのは侮ってはならない。生物を絶滅までに追い込むこともあるのだ。
……わかったか?成歩堂」
「はい…」

いきなり始まった御剣の授業に、何なんだと思いつつも返事をする。
少しだけ首を傾けて、御剣の顔をのぞこうとしたら。

「だから成歩堂。こっちへ来い」

(それを言いたいだけだったのかよ!?)

ぐい、と肩を後ろから掴まれる。ぼくはそれを丁寧に退けて、姿勢を反転させた。
そしてベッドに 両腕をついて、横たわったままの御剣を見つめる。
にやにやと笑う御剣はそれでも手を伸ばしてぼくに触ろうとする。今度は少し乱暴にそれを押し返した。

「ほんと、君って素直じゃないよね」
「そうか?」

会話をしつつも、御剣の手は執拗にぼくの肩を撫でる。

「昨日、さんざん触っただろ…」
「うム。だが、まだ足りていないようだ」

別にぼくだって、スキンシップが嫌いなわけじゃない。でもそれは適度な、と言う言葉が頭につく。
───それに、御剣の手は正直言って苦手だ。

「ム。それは聞き捨てならんな。なぜだ?」

あきらかに御剣の口調が変わった。肩に置かれた手に力がこもる。

「………証言を拒否します」

また姿勢を反転させて、ぼくは御剣に背を向けた。御剣は手を伸ばしてぼくの背中に触れる。
そしてセーターをぐいぐいと引っ張ってきた。

「……成歩堂。答えろ」
「触るなって言ってるだろ?」
「成歩堂」

今度はセーターじゃなく、直接肌に触ってきた。御剣の指がぼくの耳を撫でる。
頬に触る。冷え性のくせに、ぼくに触れる奴の指はどうしてこんなに熱いんだろう。
……いや、熱いのは触れられているぼく自身の方なのかもしれない。

「気付いてない?…君、手のひらはすごく素直だよ」
「ム?」

小声で呟きすぎて、御剣の耳まで届かなかったようだ。

(わかってないなぁ……)

ぼくは右手で御剣の手をあしらう。それをすかさず、握られてしまう。
こうして指を繋ぐだけで、流れ込んでくる。伝わってくる。
御剣の欲望に流されないよう、ぼくは手を引き抜いた。
身体の奥底でくすぶり始めた欲望を無視して、ぼくは低い声で御剣に告げる。

「触ったら御剣……死ぬよ?」

ぼくの脅しの言葉に、御剣はついに手を引っ込めた。やれやれ、と背中をベッドにつけてぼくはため息をつく。
御剣は何も言わない。大方、冷たくあしらわれて拗ねているのだろう。
ぎし、と音を立ててベッドがきしんだ。ただ御剣が寝返りをうっただけなんだろうけど…
その音がなぜだかとても切なげに響いて、ぼくの胸が痛んだ。

(さすがに言い過ぎたかな……)

甘いとは思いつつ、バレない程度に首を回してみる。
ぼくの視界に御剣の沈黙している姿が 入るか入らないか……微妙なところまで、顔が移動した時。

「いてっ!」

思い切り髪を引っ張られて、ぼくの身体はのけぞる。首が後ろに曲がり、真上を向かされた。
文句を言う間もなく、近づく御剣の顔。重なる唇。
御剣の舌がぼくの歯をなぞった。舌を絡ませようとすると、一瞬で逃げていく。
目が合うと、御剣はいつもの意地の悪い顔で笑う。

「…み、御剣ッ!」

開放された唇で、抗議の意味をこめて名前を呼ぶ。それを無視して、御剣の唇はぼくの首筋に移動した。
そしてきつく吸われる。後ろから首を舐められ、身体が疎む。

ぼくの中で何かが弾けた。

(ああ……)

だから触るなって言ったのに。


ぼくはため息をひとつ、つく。
立ち上がり、一気に着ていた服を脱ぎ捨てた。
ぼくのいきなりの行動に目を丸くしていた御剣の身体の上に覆いかぶさるように移動する。
背をかがめて、軽く唇を触れさせた。何が何だかわからない、といった表情で御剣がぼくを見つめ返す。

「成歩堂?」
「寒い。あっためてよ」

ぼくを抱きしめようとした御剣の手をとって、ぺろりと舐める。
自分のペースを乱されて動揺してる様子の奴の首筋に舌を這わせ、身体を隠しているシーツを剥ぎとった。

責任とってよ?
火をつけたのは君なんだからね。
ぼくが満足するまで逃がさないよ、御剣。

「な、成歩堂……」

まだ何かを言おうとする唇に顔を近づけると、御剣はキスされるのかと勘違いして ぎゅっと目を閉じた。
ぼくは笑いながら、目を閉じた奴の鼻をおもいっきりつまんでやった。

 

●   
・.

 

















______________________________________________________________________________
これはミツナルですよ?
襲う受けミタンは見かけたことがあるのですが、襲う受けナルは見たことがなかったので。
これが私の精一杯のラブラブです(うう…なかなか難しい、甘い話って)。
リクしてくださった方々、本当にありがとうございました。
こんな感じの二人ですが、これからもよろしくお願いします!
________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________
top> ハートに火がつく