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「貴様の顔など、見たくない!」

バン、と大きな音を立てて御剣は机を叩いた。
一緒に買ったテーブルの上を、ぼくの使ってた箸がころころと音もなく転がっていった。


・.



「………………」
「………………」

かちゃかちゃと、聞こえるのは食器のぶつかり合う音。
御剣はぼくに背中を向けたまま、食器を洗っている。ぼくは頬杖をついたまま、ため息をこぼした。

(あーあ…)

ぼくと奴が一緒の部屋に暮らし初めて2ヶ月がすぎた。
いつも裁判所やら警察署やらで顔を合わせてはいるものの、二人きりで会う時間が限られて
いたため、こういうことになったのだ。

───
こういうことに、なったのだけれど。

その恋人は不機嫌オーラをまったく隠さずに、ぼくを背中を向けて食事の後片付けをしている。
一緒に暮らしてわかったことといえば、自分が思った以上に子供っぽいということ。
そして御剣も、ぼくに負けず劣らずに子供じみた男だということだ。

(えーと、今日は何でこうなったんだっけ……)

通り過ぎた会話を頭の中で巻き戻してみても、思い出せないくらいくだらないことが喧嘩の
原因だったような気がする。 別にどっちが悪いとか、そういうわけじゃないんだろうけど。
でもくだらない原因だからこそ、謝るタイミングというのもが難しいわけで。
背を向けたままの恋人の背中を見つめて、思う。

───プライドが高く言葉下手なこの男の方から、謝罪の言葉を聞けるとは思えない。

しばらく考え込んだ後、ぼくは立ち上がった。台所に立つ御剣の後ろまで足を進める。
御剣はぼくの気配を無視したまま、食器を洗い続けていた。

「!」

ぼくは奴の身体に手を回し、その腕できつく抱きしめた。
御剣は身体を強張らせたものの、振りほどこうとはしなかった。でも、手は止めない。
その素直じゃない御剣の反応に苦笑しつつ、唇を耳元に寄せる。
そして小声で囁く。

「…!!?」
「ぼくの顔なんて、見たくないんだろ?」

凄い勢いで振り向いた御剣にニヤニヤしながらそう返すと、御剣は顔を赤くして顔を元に戻した。
ぼくは片手だけ下のほうに運ぶ。そして服の上からそっと、御剣のものに触れた。
それはまだ柔らかく、微かな弾力をぼくの手に返す。
楽しくなったぼくは手のひらや指を使ってそれをいじり始めた。
御剣は無言のまま作業をやめない。

(………ほんと素直じゃないな、コイツ)

ちゅ、と微かな音を立てて御剣の耳に口付けた。それでもまだ、御剣は振り向こうとしない。
唇を開き、耳朶に吸い付く。手は止めないまま。
優しく噛んで、舌で舐めて。唇をとがらせて軽く息を吹きかけると、御剣の身体が揺れた。
片手を動かして、身体に指を滑らせる。

「謝る気になった…?」

御剣の心中を確かめるべく、耳元で囁いてみた。
でも、返ってきたのはシンクに当たり流れていく水音だけ。

(やっぱコイツ、素直じゃない………)

なんだか馬鹿馬鹿しくなってしまって、ぼくは手を動かして御剣の身体を解放した。
テレビでも見ようと台所を離れリビングに向かおうとすると、背後から蛇口をひねる音が聞こえた。
片づけが終わったのか、と何気なく振り向こうとすると。

───いたっ!!」

突然抱きかかえられ、そのまま床に押し倒される。
その勢いで後頭部やら肩やら背中やらを 強かに打ってしまい、ぼくは悲鳴を上げた。
驚いて御剣の顔を見つめる。 奴は無表情のまま、濡れたままの手でぼくを一度、抱きしめた。
腹部にきつく力を込められて、 驚きと相成って呼吸が止まりかける。
離れたかと思うと、抵抗する間もなく御剣の指が ぼくのシャツのボタンを外していく。
ぼくは汗をかきながら手を掴み抗議した。

「ままま、待った!!……ぼくの顔見たくないんだろ!?」
「そうだな」

しばらく考え込んだ後、御剣はぼくの手をとり身体を起こした。
あっという間に後ろを向かされ、床に手をつかされる格好となった。
そして後ろからがっちりと腰を掴まれる。

「では、こうしようか」
「いッ…異議ありッ!!」

情けないと思いながらも、よつばいのまま逃れようとぼくは必死に両手両足を暴れさせた。
片足をつかまれ、逃げるに逃げられない状況になってやっと、ぼくは御剣と顔を合わせた。
さっきまでは短い眉を寄せ激怒していたはずの恋人は、ぼくと目が合うと唇を歪ませニヤリと笑った。

「だっ……だいたい!!ぼくと君は喧嘩してるんだぞ!?ぼくはただ…」
「フム。───すまなかった」

どうしても聞きたかった言葉を、いとも簡単に吐き出した御剣は、その唇でぼくの口を 塞いできた。
先程の行動を後悔しても、もう遅い。
このまま流されるのは悔しくて、ぼくは御剣の肩を叩き長い口付けから逃れた。
身体を起こすその前に腰を掴まれ、また御剣の前で膝をつく格好となってしまった。

「こんなかっこでするのは嫌なんだって!!」

衣類に手が掛かり、ほぼ半泣きで投げつけた言葉に御剣の手が一瞬だけ止まる。

───そうか。ではこうしよう」

同じような台詞の後、ぐるりと身体を反転させられる。
正面から顔を合わせることとなり、御剣はとても近い距離まで顔を近づけて笑った。

「君は本当に、見つめ合ってするのが好きだな」
「ち、違う!!」

あっというまに着ているシャツを剥がれ、肌を触られてしまう。
自分の行動の迂闊さを呪いながらも、ぼくは最後の悪あがきをした。
そんなことを言っても、この暴走男が止まらないとわかっていても。

「お前の顔なんて、見たくない!」


●   
・.

 

















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藪をつついてミタンを出したなるほどくんのお話。
一度火がついた検事は最強です。怖いです。そしてかなりの馬鹿です。
もしも同棲したら、なるほどくんが料理して、ミタンが後片付けするイメージ。

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