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これは由々しき事態である。


成歩堂法律事務所は、これ以上ないほど緊迫した空気に包まれている。
ソファに腰をかけているのは成人男性1名、未成年2名。
長い黒髪の少女は、俯いたまま唇をかみ締めている。隣には、それを心配そうに見つめている幼い少女。
そしてそんな二人の様子を神妙な顔で見守っている男。

「……それでどうなったの」
「真宵さまが抗議したんです。そうしましたら…」
「係官の人がうるさいって言ってきて、追い出されたの!」
「真宵ちゃんと春美ちゃんだけが?」
「そうなの!でも御剣検事は怒られなかったの!」

くぅっ!と真宵ちゃんは両手の拳を握る。春美ちゃんも悲しそうに眉毛を下げて、ぼくを見た。


事の起こりは、数時間前。ぼくにおつかいを頼まれた二人は、裁判所で御剣と出会った。
御剣と真宵ちゃんの共通の話題と言ったら、例のあれしかない。
真宵ちゃんが手に入れたばかりの、トノサマンカード(しかもレアカード)を御剣に
自慢したのが間違いだったのだ。
滅多に見ることのないレアカードを目の前にして、御剣のテンションは一気に上がった。
それにつられて真宵ちゃんも、大声を上げて御剣と取引をはじめた。

……しかし、カードのトレードをするには場所が悪すぎた。

騒がしいと周りに注意され、真宵ちゃんたちは裁判所から追い出されることとなってしまった。
その時、何の間違いかレアカードが御剣の手に渡ってしまったらしい。
裁判所から追い出され、レアカードを御剣に奪われ……真宵ちゃんは失意のまま、事務所に
戻ってきたのだった。

「悔しい!悔しいよ、なるほどくん!」
「わたくしもくやしいです…」

少女たちの悲しげな表情に、ぼくはあるひとつの決意をした。
両手を伸ばし、二人の頭を同時に撫でた。そして勢いよく立ち上がる。

「真宵ちゃん、春美ちゃん。行くよ」
「え、なるほどくん?!」
「どこに行くのですか?」

目を丸くして二人はぼくを見上げた。ぼくはニヤリと笑って宣言した。

「討ち入りだよ」

 

 

12月14日 午後5時 警察署

「アンタたち、どうしたッス!?」

日曜だというのに、3人揃って現れたぼくたちをイトノコ刑事は驚いて呼び止めた。

「討ち入りです!」
「ハァ?」

真宵ちゃんと春美ちゃんが、声を合わせ勇んで答えるとイトノコさんはもっと目を丸くした。

「イトノコさん、御剣はここに来てるって聞いたんですけど」
「なんか資料を見に来てるはずッスけど…」

簡単に事情を説明すると、イトノコさんの目が次第につり上がっていった。

「それはひどいッス!自分も討ち入りに参加するッス!」

御剣に忠誠を誓っているとはいえ、彼も警察官だ。この事実を放っておく事が出来ないらしい。
47人には全く足りてないけど、ぼくたちは4人で目を合わせ、誓う。

「これより突入いたす!」

 

 

12月14日 午後5時15分 警察署 資料室

「御剣検事―!御剣検事はどこだー!」

真宵ちゃんが御剣の名前を連呼しながら、資料室のドアを開けた。しかしそこには誰もいない。

「逃げたッスね!」
「卑怯な奴!」

歯軋りをする真宵ちゃんとイトノコさんの横をすり抜け、春美ちゃんが中にあったテーブルを調べ始めた。
散乱する資料を丹念に観察した後。

「なるほどくん!」

側に合った椅子に触れ、春美ちゃんは声を上げる。

「まだあたたかいです!近くにいるはずですわ!」
「でかした、春美ちゃん!」

矢張の真似をして、ぼくはぐっと親指を立ててみせた。そしてイトノコさんを振り返る。

「イトノコさん!他に御剣が行きそうな場所は?」
「そうッスねぇ…休憩室でお茶飲んでるかもしれないッス!」
「休憩室だね!」

彼の台詞を聞くやいなや、ぼくたちは資料室から走り出て休憩室へと向かった。

 

 

12月14日 午後5時25分 警察署 休憩室

ハッタリで有名な弁護士、図体のでかい刑事、妙な格好をした少女二人が勢いよく休憩室に
走りこんできて、その場にいた人々はぎょっとして振り返った。
しかし、その中に目標としている人物は見当たらない。

「あのフリルは人目を引くはず!探せぇ〜」
「はいッス!」

被害者である、カードを奪われた真宵ちゃんは一番張り切っていた。
まるでいつもの御剣のように、あごでイトノコさんを使い始めた。
イトノコさんも何の疑問のなく命令に従ってる所を見ると、彼は人に使われる事が
一番似合っているのかも しれない…

「なるほどくん、どうかしたのですか?」

一人考え込んでいたぼくを、春美ちゃんが気遣わしげに見上げていた。
笑顔を作って見つめ返した。

「何でもないよ。春美ちゃん、疲れてない?」
「いえ、大丈夫です。それにしても、日曜だというのに、みなさんお仕事たいへんそうですね」
「まぁ、事件に日曜は関係ないからね」

そう広くもない休憩室を、イトノコさんと真宵ちゃんが走り回っている。
どうやら聞き込みをしているらしい。しばらくして、真宵ちゃんが鼻息を荒くしてぼくたちの元に駆け寄ってきた。

「御剣検事、ここでお茶飲んでまた資料室に戻ったんだって!行くよ、二人とも!」
「ハイ、真宵さま!」
「待って、イトノコさんは…」

二人はぼくの言葉を全く無視して、走りはじめた。どうやら彼のことはすっかり忘れているようだ。
ぼくは未だに一人で聞き込みを続けている様子のイトノコさんに心の中で敬礼をして、その場を離れた。

 

 

12月14日 午後5時40分 警察署 資料室

「御剣検事、発見!!」
「もう逃げられませんわ!」
「何だ、君たちは」

ぼくが少し遅れて資料室に到着すると、霊媒師二人に詰め寄られて困惑した様子の御剣がいた。
ぼくに気がつくと、眉間にしわを寄せて問いかけた。

「どういうことだ、成歩堂」
「討ち入りだよ」

ぼくの返事に御剣の眉間のしわはより一層深くなった。

「あたしのカード、返してもらいます!」
「ああ」

真宵ちゃんに手を差し出され、御剣はやっと理解したらしい。胸のポケットを探り、一枚のカードを取り出した。

「すまなかった」
「やったー!やったよ、はみちゃん!」
「おめでとうございます、真宵さま!」

御剣としては、ただカードを預かっていただけのつもりなのだろう。オーバーに喜ばれて、また眉をひそめた。
お詫びとして御剣から千円札を一枚受け取ると、二人は笑いながら賑やかに資料室から出て行った。

「……何の真似だ、成歩堂」
「うん、まあ、今日暇だったしね」

なかなか楽しかったよ、と言って笑いかけると御剣は呆れたように首を振った。

「イトノコさんにもお礼言っといてね」
「彼にまで迷惑をかけたのか…」

独り言のように呟いて、御剣は手招きをする。ぼくは何も考えず、椅子に座る彼の前まで進んだ。

「わぁっ!」

いきなり腕を強く引かれて、御剣の膝の上に座るような格好になってしまった。
思わぬ事態にぼくはじたばたと暴れた。しかし、御剣はいつの間にかぼくの腰にがっちりと腕を回していて
逃げることが出来ない。

「何するんだよ、御剣!」
「知ってるか、成歩堂」

ぺろりと後ろから耳を舐められた。寒気が走り、ぼくは身体を揺らした。

「…討ち入りをした47人の義士は、その後自ら命を絶ったのだよ」
「そっ…それと、これが…何の関係が…っ」
「今回の討ち入りは成功したが、たった一人の犠牲者を出してしまったのだな」
「ちょ…待てよ、それってぼくのこと!?」

答える代わりに御剣はぼくの頬に手を当て、無理矢理後ろに向かせてキスをしてきた。
必死でもがいてそれを外す。

「い、異議あり!…なんだよ、それっ!」
「今度は君一人で討ち入りに来るといい」

やっと離してくれたと思ったら、一度立たされる。
くるりと姿勢を反転されて、再び引き寄せられた。バランスを崩したぼくは、御剣に抱きつく。
そしてそのまま抱えられ、椅子の上で抱き合う格好にされてしまった。
すかさずネクタイが緩められる。忍び込んできた手の冷たさに、思わず身体が震えてしまった。
目が合ったので睨んでやると、御剣は楽しそうに微笑んだ。

「あまり大きな声を出すと、人が来るぞ」
「…っ、…み、御剣の馬鹿!」

そう言ってぼくはこれ以上声を出さないために、御剣の肩に思いっきり噛み付いた。
心の中で、ひとつの新しい決意をしながら。

 

(次に復讐するときは絶対、ぼくが君を泣かしてやる!)

 

●   
・.

 

















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討ちいれ〜集え、47人の勇士達〜に参加した時のものです。
お題は復讐。
最後に無理矢理、お題を出した感じですが

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