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思っていたよりも早く審議が終わり、空いた時間をどこでつぶそうか悩みつつ 「一人か?成歩堂は?」 何気なくした質問に、真宵くんは挨拶もしないで噛み付くような勢いで答えた。 「ごめんなさい」 脈略もなく謝られて、私の反応は少しばかり遅れた。 「さっきの、嘘です。本当はなるほどくんを待ってるんです」 両手を胸の前で合わせ、彼女は言った。首から掛けている勾玉が小さく揺れる。 「さっきまで一緒に裁判に出てたんだけど、もういいって追い出されちゃって」 そう言うと、真宵くんしょんぼりと肩を落とす。ますます落ち込んでしまったようだ。 「……まぁ、そう気を落とさないでくれたまえ。 成歩堂だって別に悪気があったわけじゃなかろう」 世間話すら苦手な自分が、女性を慰めるうまい方法を知るわけがない。 「彼も審議中は気が立っているからな。本心からそう思っているわけではないだろう」 落ち込んでいる彼女を少しでも元気づけるため、私は内心汗をかきながら言葉を続けた。 「あ!またやっちゃった!」 真宵くんの素っ頓狂な声に、私は驚いて彼女を見返した。 「携帯トノサマンゲーム!いいでしょ、これ。出たばっかりなんですよー」 一瞬、目の前でちょこちょこ動くトノサマンに目を奪われた後。 「…そうか…で、そのゲームは…?」 遊べるかも、と思っただけです!と付け加え、真宵くんは頬を膨らませた。 「怒られるかなぁ…」 ものすごく小さな呟きを落とす。 「ま、真宵くん…」 この時間帯、廊下を歩く人間は大して多くない。しかし…いないとも言い切れない。 「話なら、他の場所で聞くが」 真宵くんは相変わらず落ち込んでいて、私の言葉は全く耳に届いていないようだ。 「ま…」 突然、名前を呼ばれる。私は身を硬くして、彼女を見返した。 「なるほどくんの好きなものを与えてごまかすっていうのはどう? どうしようもないとこを考え付くのだな、と皮肉を返そうとした。 眉を上下に動かし、手にしたゲームをもてあそびつつ、頭を小さく傾げる彼女。 「ネクタイはいつも一緒のだし。こだわりなさそう…ねぇ、御剣検事!考えてよー」 くるくると表情を変え考え込む姿があまりにも可愛らしくて、私は思わず笑ってしまった。 「なに?」 いや、と片手を振って答える。私のその行動に彼女の表情がまた変化した。 「あー御剣検事、あたしのこと馬鹿にしてる?」 眉を吊り上げて怒った後、唇を尖らせて視線を逸らす。その拗ねたような横顔が、とても愛しい。 「真宵くん。トノサマングッズはどうだろうか?」 「何がいいかなーあたし、ストラップ欲しいなぁ」 つられて微笑みかけた、私の顔を振り返って。 「御剣検事…売ってるお店、知りません?明日、一緒に行きませんか?」 今度は眉を下げて、私を見つめる。 「……知らないことはないが」 彼女は両手を顔の前で合わせ、祈るように懇願した。 「…定時に終わらせるよう、努力しよう」 いつのまにか目の前に男が立っていた。腰に手を当て、前かがみの姿勢で私たちを覗き込む。 「終わったの?早かったね」 ぱっと立ち上がって真宵くんはにこにこっと笑った。 「真宵ちゃん、ぼく怒ってるんだよ?法廷にあんなもの持ち込んで…」 遅れて立ち上がった私を振り返り、真宵くんは微笑んだ。私は軽く頷いてみせる。 「何?なんか隠してないか?」 ううん、と真宵くんはけろっとして首を振る。私は無言で彼を見つめるだけだ。 「二人で何、話してたんだよ!」 私と真宵くんはほぼ同時に、そう答えた。私たちの反応に目を丸くした後。 「何だよ!二人してさ!」 駄々をこねる子供の様な彼に、私たち二人は視線を合わせて笑った。と、その時。 「御剣検事!こんなとこにいたッスか!」 野太い声が割り込んできた。視線を転じると、大きな体を揺らして糸鋸刑事が近づいてくる。 「明日の裁判のことで、すぐに警察署にきてほしいッス!」 軽く頷いてみせて、私は歩き出した。 「御剣!」 三人の声が、同時に私を呼ぶ。私はゆっくりと振り返った。 「また明日ね!」 二人の男に挟まれる形となっていた一人の少女が、手を振って笑った。
「糸鋸刑事」 突然、名を呼ばれ糸鋸刑事はびくりと身体を揺らす。 「真宵くんは、かわいいと思わないか?」 目を丸くした糸鋸刑事を無視して、私は言葉を続ける。 「今でも十分かわいいと思うが、会えば会うほどかわいくなるとは思わないか?」 私の発言に驚いた糸鋸刑事は赤信号に気づくのが遅れ、そしてブレーキを踏むのも遅れ。 「………糸鋸刑事」 前のめりの姿勢のまま、私は彼に次の給料査定について覚悟するよう告げたのだった。
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ミツマヨというか、真宵ちゃんを過剰に甘やかすミタンというか。 スティービー・ワンダーの曲が元ネタ。親バカの歌で、素敵なんです。 |
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