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ああ、駄目だ。
思い切って、身体を起こしてみる。 『今夜、ヒマか?またモデルと合コンすんだけど、お前もどう?』 (知らないよ、お前の彼女のことなんて) 話題といえば、女の子のことばかり。能天気な内容に、思わず笑みがこぼれた。 「…………事件の影にヤッパリ矢張、か」 ため息混じりに呟く。いつも冗談で、友人たちと交わしていた言葉。 (……それならば、堂々としたまえ) 脳裏に、ふと浮かぶ声。目を開けて声の主を探してみても、見えるのは暗闇だけだ。 「……異議あり!……その必要は、ない…」 同じ台詞が口に出せるほど、はっきりと蘇る。忘れたくても、忘れられないあの時間。 「裁判でものを言うのは………証拠品、だけ……」 自分の声に、かぶる少年の声。思い出の、記憶に残る、あいつの声。 (君じゃないのだろう?ぼくの封筒を盗んだのは…) そう言った彼の瞳は、澄んでいた。 (人を信じること…依頼人を、ただ信じて弁護すること) それはあいつに教わった。 ───9歳の、御剣怜侍に。 「………違う」 救うのはぼくじゃない。ぼくの中にある、揺るがない信頼。それと。 (矢張政志は、高日美佳を殺していない) たったひとつの真実。それだけが、奴を救う。 「異議あり!」 右手の指で天井を突きつけみた。15年前の、御剣のように。 そしていつの間にか、ぼくは眠りに落ちていた。 ・. 夢の中には三人がいて。 大げさな仕草で、しゃべる矢張。その様子を、眉間にしわを寄せて見守る御剣。 ・. 次の日。 「・・・・なるほどくん!」 名前を呼ばれ、顔を上げるとそこには所長が立っていた。 「ふう。なんとか、間にあったわね。どうかしら? 初めての法廷は……」 所長の声が、寝不足のぼくの頭に響く。優しく、力強く。 ───そうだ、ぼくは一人じゃない。
「・・・・ぼく、あいつの力になってやりたいんです。助けてやりたい・・・・」 そう呟いたぼくを、千尋さんは励ますように軽く、肩を叩いてくれた。
この後。 ……それはもう少しだけ、先の話だ。
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1-1、前日・ビビるなるほどでした。 へたれながらも頑張る姿には涙が出ます。 カツラがぶつかって青筋たてる姿もキュンとします。 「たしか、首を絞められたんじゃなかったかなあ・・・・?」 「それ、独り言よね?」「自分の首でも絞めるんですね」 とボッケボケなところも大好きです。 |
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