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『…で、できたの?この前に教えた…』 受話器の向こうで、お姉ちゃんが笑ったのがわかった。 何気ない会話のひとつひとつが、あたしの宝物だから。 ・. 「すごーい!」 久々に届いた荷物を開けて、思わず笑みがこぼれる。 『もしもし?』 ついつい声が大きくなってしまった。慌てて、辺りを見回す。 「今、話しても平気?」 あたしの申し出に、お姉ちゃんはきっぱりとこう答えた。 『駄目よ。あなたまだ中学生でしょ。一人で里から出たことないでしょう?』 こういうときのお姉ちゃんはおばさまよりも厳しい。 「…じゃあ、今度はいつ会える?」 取り繕うように言って、一人笑う。お姉ちゃんの沈黙に、乾いた笑い声が吸い込まれていく。 『ごめんね…』 思わず声が詰まる。 『お姉ちゃんのこと、嫌いにならないでね』 切れた電話を、あたしはしばらく握っていた。 ・. 「わ!真宵ちゃんの携帯すごーい!」 クラスメイトたちは、あたしの携帯を物珍しそうに観察している。 「もう古いからすぐ充電切れちゃうんだ」 首を横に振り、笑顔で返す。 「お姉ちゃんに初めてもらったものなの、それ」 大事な大事な、宝物。あたしとお姉ちゃんと繋ぐ、唯一の─── ・. (……どうしよっかなぁ) 左手でカバン、右手で携帯を持ち、ひとりにらめっこする。 お姉ちゃんと話したいけど…忙しいって言ってたし。 (また邪魔するのも悪いよね……でも…でもなぁ……) お姉ちゃんの疲れた声を思い出した。 「あ!!??」 手が滑った。いや、携帯電話が滑った。いやいや、そんなことはどうでもいい。 「嘘っ!!」 甲高い音とともに、後ろの蓋があらぬ方向に飛んでいった。 「………嘘ぉ……」 あたしは涙をこらえるのが精一杯で、数分間しゃがみこんだまま立つ事ができなかった。 ・. 『はい、星影法律事務所ですが』 どきどきしながらしばらく待っていると、血相変えたお姉ちゃんの声が受話器から聞こえた。 『真宵!?どうしたの、ここに電話なんて…!』 気が緩んで、涙声になる。ますますお姉ちゃんは慌てたようだ。 『どうしたの、落ち着いて話なさい』 壊れちゃったの、と最後まで言えなかった。でもお姉ちゃんには伝わったようだ。 『なんだ、そんなこと?』 思わず大きな声で反論する。 「あたし、これがないと一人になっちゃうもん…お姉ちゃんにもらった、大事なものなんだもん…」 堪えていても、涙がこぼれてしまう。ぼろぼろになった携帯電話を握り締めながら、あたしは泣いた。 『……真宵』 しばらく黙っていたお姉ちゃんが、静かにあたしの名前を呼んだ。 携帯電話が壊れて、お姉ちゃんにも嫌われてしまったら───?
『わかった。今週末、一緒に携帯見に行こう。一人でこっちまで出てこれるわね?』 お姉ちゃんは、そう言うと声を和らげた。 『真宵。あのね、携帯なんていくらでも買ってあげるから』 携帯電話。それはあたしの宝物。 ───だから、また電話してもいい?
『当たり前でしょ?』
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綾里姉妹は好きです。微笑ましい。 でも今後の千尋さんのこと考えると悲しい。残酷ですよ、タクシュー。 折り畳みじゃないのが珍しい、といってますがなるほどくんもモロヘイヤも 折り畳みの携帯じゃなかったな…この時代はその形リバイバルブームなんでしょうか。 (逆裁が2001年のゲームだからだろうけどさ…) |
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