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君がここに来なくても、それはここにあって。
「おはよう」 三学期の始業式の朝。ぼくは息を切らせて、教室へと駆け込んだ。 「…あれ」 予想外の出来事に、思わず声が漏れる。 「ねえ、御剣は今日まだ来てないの?」 そう答えると、女の子は席を離れ友達のところに行ってしまった。 (ゲーム返す約束してたのになぁ……) 「なるほど!おはよ!」 能天気な声に振り返ると、そこには矢張がいた。 「おはよう」 話をさえぎられたことを少しも気にかけない様子で、矢張は笑顔で首を振る。 「知らない。あいつ、まだ来てないの?珍しいな」 矢張が話し始めた矢先、先生が教室へと入ってきた。 「御剣怜侍くんは、お家の事情で転校することになりました」 にわかに教室がざわめく。 (……御剣が…転校……?) 突然知った事実に、ぼくは誰とも言葉を交わすことができなかった。 「急なことだったので、みんなにあいさつができませんでしたが…」 視線を斜め前に移す。 彼の机だけが、そこにあった。 「先生」 つい、立ち上がってしまった。みんなの視線を感じながらもおずおずと言葉を続ける。 「だって、まだ机もあるのに……」 小さく返事をするだけで精一杯だった。 (…なんで…?) 机があるのに、なんで御剣はいないんだろう?
「あいつも、みずくせえよなー何も言わないなんてさ」 運ぼうとした机の中には、まだ御剣の物が残っていたままだった。 「俺たち、友達なのになぁ…」 両手を入れて、何も入っていないことを確認する。 「ダメだよ、矢張。ちゃんと捨てなきゃ」 茶色の机に、頬をぺったりとつけて矢張がぽつりと言う。 「ここに御剣いなくなっちゃうじゃん」 ぼくたちにとって、教室は世界のすべてだった。 ひやりとした感触は、いつもと変わらないはずなのに。 「ミツルギ、いなくなっちゃったね…」 途端に、涙が溢れてくる。 みんなの視線が気になるけど。 「泣くなよぉ、なるほど。俺まで泣きたくなるじゃねぇかよぉ」 泣きながら、ぼくたちは机を教室から運び出した。
準備室から戻ると、教室は何もなかったかのようにざわめきを取り戻していた。 「なるほど」 後ろから、矢張が声をかける。 「わかってるよ」 口を曲げ、笑顔を作る。
君がここに来なくても、それはここにあって。 机はもうない。 そして御剣は、ぼくたちの目の前から消えた。
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みったん、失踪しました。 泣き虫ななるほど君とヤハリ。 学級裁判後、クラスの子達とは和解したんでしょうか? (あそこまで大勢で責められたら、もう和解も何もできない気が…) |
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