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「すげぇ!」 矢張の叫びに、御剣は満足そうな笑みを浮かべた。 「なんだ、この本!すっげぇ、ぶあつい!」 彼の小学生らしからぬ発言に、ぼくと矢張はただ感嘆のため息をつくことしかできなかった。 御剣怜侍という奴は、いつも品のよさそうな紺色のブレザーに身を包み、 今日も三人で帰る途中に、御剣の家に遊びに来ているのだ。 「お前、これ全部読んだの?」 そう言うと御剣は嬉しそうに笑った。だけど、すぐ笑みを引っ込めそっぽを向く。 「俺、トイレ行きたい!御剣、貸して」 騒ぎ立てる矢張に、御剣は無言でドアへと歩き出す。 「すぐ戻るから」 御剣の言葉に頷いて返事をする。 (………なに?) 指でつまんで、日にかかげて見る。どうやら、花の形をしたバッチのようだ。 「……レイジ?」 背後から声をかけられ、飛び上がる。 「…君はレイジの友達かね?」 驚きのあまり、声がでない。代わりにぶんぶんと首を縦に振る。 「そうか…こんにちは、レイジの父です」 にこ、と目じりを下げて彼が言った。笑うと怖そうなイメージががらりと崩れる。 「大事なものを忘れてしまってね…取りに帰ってきたんだが」 部屋に入り、その人が机の上を見回す。その瞬間、背中に冷たいものが走る。 数週間前の、あのことを思い出して身がすくんだ。 早く、言わなくては。これを差し出し、彼に渡さなくては… (でも) この人が、ぼくを信じてくれなかったら? (ぼくが盗んだって思われたらどうしよう───) 「…おかしいな…」 心臓の音が大きく聞こえる。言おうとすればするほど、喉に言葉が張り付く。何も言えない。 「君」 突然呼びかけられ、視線がぼくに向いた。驚いてぼくは、手のひらからバッチを落としてしまった。 (───!!) じゅうたんの上を、音もなく転がる金色のバッチ。彼の視線がそれを追い、そして再びぼくへと移動した。 「君が見つけてくれたんだな」 ぽん、と頭に軽く置かれる手のひら。顔を上げると、やさしく微笑んでいるその人がいた。 「お父さん!」 とその時、背後から御剣の声が響く。 「どうしたの?さいばんは?」 両手で涙をぬぐい、御剣たちを振り返る。(見るも珍しい)満面の笑みの御剣。 「忘れ物?」 背中をなでられ、思わず照れ笑いをする。 「お父さんはね、弁護士なんだよ」 ぼくと矢張が声を合わせて問いかける。御剣は得意げに、腕を組んで頷く。 「そのバッチでベンゴシに変身するのか?」 呆れ顔で突っ込もうとする御剣の言葉をさえぎり、父親がにっこりと笑う。 「この六法全書を使って、悪者からみんなを守るんだよ」 矢張が興奮して叫ぶ。ぼくも何度も頷いて、感動の気持ちを彼に伝える。 「ぼくもベンゴシになるのだよ」 御剣はそう言って、父親を見上げた。 「俺もなる!」 口々に叫ぶぼくたちを見て、御剣の父親はにっこり笑いながらこう付け加えた。 「でも、そのためにはこの本を全部読まなければならないんだよ」 その一言で、少年たちの士気が一気に下がる。 「俺…ミラクル仮面になるんだった」 三人が静かになったのを見届けると、御剣の父親はあわただしく職場へと戻っていった。 「すげーな、お前の父親」 「ミツルギ、読み終わったらぼくにも貸してね」 『ろっぽうぜんしょ』を指差して、御剣にそういうと彼は嬉しそうに笑って頷いた。
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信パパは子供をからかって喜んでいるんじゃないんです! ちょっとしたお茶目のつもりで。 怖い写真ばかり、ハイネさんと言い争いしまくってる信さんですが、 すごく優しい人だったらいいなぁ。 |
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