04.キスがその答え
あの日からやたらと目につく。
裁判所の廊下で少女と共に談笑する姿。
警察局の資料室の閲覧記録。
新聞の小さな記事。
検事局内に日々蔓延する些細な噂話にまで。
あの姿。あの名前。全てが私を揺さ振る。
あの声。あの瞳。全てが苛ついて堪らないのに。
幼い頃の記憶と言えば、重苦しいものしか持っていない。
それだけではないはずなのに、何を思い返しても思い出は黒く塗り潰されるのだ。
幼い私の横にはいつも父がいた。
私は父の背中を見て、父を目指していた。
ある日突然、その父がとても近い場所で亡くなった。
私の起こした行動で亡くなった。
忌まわしい叫び声は悪夢という形で何度も再現され、罪悪感は日に日に増すばかり。
優しい思い出も嬉しかった出来事も。全てが飲み込まれていく。
だから私は封印した。
昔の記憶。昔の友達。昔、抱いていた夢。
それなのに、あの男は私の目の前に現れたのだ。
青いスーツに金色のバッジを輝かせて。
そして私を敗北させた。
覆しようもない状況をたった一人で覆した。
あの日から、やたらと目につくのだ。
あの姿。あの名前。あの声。あの瞳。
苛立つ。憎い。嫌でも目につく。
「……なに」
恐れを知らない強気な瞳。
間近でそれが揺れていた。動揺を持って私を見ていた。
「御剣、なに」
「……口を閉じろ」
「んっ」
裁判所の階段。
エレベーターのおかげで使用頻度が低く、人気の全くない場所で。
成歩堂を壁に押し付け唇を奪った。
押し返そうとする両腕を解放した頃には、お互いの息は上がりきっていた。
しかしお互いに引くことはせず至近距離で見つめ合う。
あの日からやたらと目についた。
検事の私と弁護士の彼が法廷で再会した日から。
彼の存在が。
―――違う。
見つめる内にひとつの答えが閃いた。
彼を見ていていたのは。彼を探していたのは。
彼の方ではなく私の方だったのだ。
キスをして、初めてそれに気が付いた。
同時に。何故こんなにも彼が気になるのか。
その理由にも。