「んんっ……!」
彼の目が大きく開かれる。
わずかに開いていた口に突然、性器を捻り込まれたからだ。
息苦しさにもがいても上半身に私の身体が乗っているこの状態では逃れることはできない。
ふくらはぎに激しい痛みを感じた。衣類の上から爪を立てられてようだ。
非難をこめた瞳で成歩堂は私を下から睨み付ける。
私は小さな声で再度、謝罪の言葉を呟いた。彼の口内に自分の性器を突き立てたまま。
そして、そのまま。
「……んぅ!んっ…ッ…!」
ゆっくりと抜き差しを始める。
両手で彼の顔を包み込んで固定し、身体の重みで手足の抵抗を封じ込め。
成歩堂は唇の隙間から唾液とくぐもった声を零しながら私のものを咥え込んだ。
柔らかな粘膜と温かい唾液に包まれ、次第に性器が硬くなっていくのを自分でも感じた。
相手は同性にもかかわらず、いつしかそれに混乱する気持ちも嫌悪する感情も消え失せてしまう。
「っ…!」
目測を誤ったのか、腰の動きに夢中になりすぎたのか。
ふいに顔を傾けた成歩堂の口から隆起した性器がはずれて彼の汗ばんだ頬を擦った。
湿った先端が彼の顔面を滑って汚す。
私の体液と成歩堂の唾液で濡れた棒を顔に擦り付けられ、眉をしかめて成歩堂はそれを嫌がった。
わずかに開かれた双眸から潤んだ黒目が私を捕らえた。が、その次の瞬間に逸らされる。
そして成歩堂は両目を固く瞑り、唇を閉じてしまった。
「成歩堂……」
名を呼びかけたのは、ほぼ無意識にしたことだった。
尖った黒髪に指を差し入れる。ただそれだけで彼の身体は強張りを増した。
強固に閉じられた瞳は決して開かれることなく、それはまるで私という存在全てを
拒否しているように見え。
髪に絡めていた指に力を込める。
容赦ない力に引っ張られ、成歩堂は目を閉じたまま顔を私から背けた。
それでもおさまらない髪を掴む指の力に、成歩堂はわずかに唇を動かす。
「や、め……」
その隙を狙って、私は頑なに開こうとしない唇に腰を押し付けた。
こじ開けるようにして再び自分のものを咥えさせる。
「んッ……!!」
突然の無遠慮な侵入に成歩堂が歯を閉じようとしていることに気付いた私は、
髪を掴んだ手に力を込める。
頭皮を引っ張られる痛みと口内を犯される苦しみで成歩堂は何も抵抗ができなくなってしまった。
かわりに今度は目を閉じることなく、苦痛を与える私を強い瞳で睨みつける。
私は再び腰を動かし始めた。その度に成歩堂の顔が苦しげに歪んだ。
見慣れた親友の顔が振動と共に揺れる。
それでも成歩堂は私から視線を外さなかった。あの射るような黒い瞳で私を捕らえる。
さらに煽られる欲望。同時に感じる何とも言えない罪悪感、背徳感。
身体の奥底から湧き上がる快感に全てを委ねようと目を閉じた、その時に。
「そこまでだぜ、ボウヤ」
第三者の声が突然割り込んできた。私は目を開き、顔を向けてその相手を睨む。
「それで終わりじゃねぇだろ……?アンタ、童貞か?」
「黙れ」
からかう言葉を短く切り捨て、私は成歩堂に再度向き合った。
息が上がり、弱々しく咳き込む彼の姿に胸が痛んだ。
唇の端を濡らす唾液を右手の指の腹で拭き取ってやり、左手で両足の間を撫でる。
「!……み、御剣?」
問い掛けを発した唇に自分のものを重ね、言葉を奪う。
ゴドー検事に何を飲まされたのか……意識の朦朧とした成歩堂の抵抗は信じられない程に弱く、
私がわずかでも力を込めるだけで彼の身体はやすやすと押さえ込まれてしまう。
私は舌で彼の口内を丹念に探りつつ、下半身を愛撫する力を強めていった。
日の光のない事務所に響くのはベルトを外す音、衣服が擦れる音。
「やめてくれ……」
拒否の言葉が胸をつく。
朦朧としつつも、私が今から何をしようとしてるのか察しがついたのだろう。
逃れようとせりあがる肩を掴み、それを阻む。成歩堂は逃げ場をなくし両足を動かして必死にもがく。
私は彼の内腿を掴んで開かせようとして、やめた。
手のひら全部を腿に当てて思い切り力を込める。
「…なん、で、いやだ…っ!」
涙混じりの抗議を無視して、膝の裏側に両手を移動させる。
腰だけを高く上げる格好になり、成歩堂はその体勢を首を振って拒否した。
私は上半身を倒し、彼の両足を自分の肩の上に乗せた。逃げ打つ身体を抱きしめる。
さらに強張りを増した彼の身体をきつく強く。視界の隅に時々映る、赤い三本線から彼を守るために。
「成歩堂……力を抜け、成歩堂」
唇に当たる肌に何度も口付けても、成歩堂は嫌々と首を振るだけで決して身体の力を
抜くことはしなかった。時間をかけても彼の身体は解けないだろう。
私は彼の首筋から顔を外すと、両手を使って動けないようにして腰を掴む。
そして、ぴったりと彼の後ろに自分自身を突き付けた。
「成歩堂……」
静かに名前を呼ぶと同時に。
「───あ!」
ほんの少し先端を突き入れた瞬間、成歩堂が目を見開いた。
彼の身体を揺らし、内部の抵抗を無視して自分のものを押し込み始めた。
成歩堂の爪が腕に食い込む。ゆっくりと、けれども確実に私は腰を押し進める。
その度に成歩堂は首を激しく左右に振った。
両足を滅茶苦茶に暴れさせ、私の身体の下から逃れようと試みる。
私はさらに体重をかけ、自分の重みで彼の抵抗を封じ込めた。
腰を掴んだ手に再度力を込めようとしてやめる。
これよりもさらにひどい痛みを彼は今、感じているのだから。
「いッ……た、い、…やめろっ…みつ……アッ!」
無理矢理身体に捻り込まれた肉棒に圧迫されて、成歩堂は言葉をうまく発することができないらしい。
非難する言葉を無視して上半身をさらに倒し、自分の腰を成歩堂に擦り付ける。
挿入した感触は女性とさほど変わりがないように思えた。ただ、入り口が狭くちぎれそうなほど痛い。
背を仰け反らせ、浅い呼吸を繰り返す成歩堂の首筋に唇を寄せる。
そして何度も名前を囁いた。
「……成歩堂。すまない……少し、我慢してくれ」
「……み、つるぎ……」
ほとんど声にならない声で成歩堂は私の呼び掛けに答えた。
瞳からは涙が溢れ、汗と交じり合い頬を汚している。
その涙を拭うつもりで舌先を使って舐め上げると、それを刺激に感じたのか
成歩堂の身体がびくりと震えた。
それと同時に私のものも締め上げられる。
「成歩堂……動くぞ」
耳元でそう宣言しても今の彼には理解できないだろう。
私は答えを待たずにすぐ、腰を後ろに引いた。
「ひ、……ぁ……」
喘ぎとも悲鳴ともつかない声で成歩堂は鳴いた。
低く押し殺した声は初めて聞いたものだった。
女性の艶かしい声とは全く違うものの、それはどこか私の中の雄を呼び起こすように響いて。
もっと聞きたくなってまた欲望を突き入れる。今度は少し乱暴に。
「───あ、アッ!」
すると成歩堂はまた声を上げた。高く細い声で。
内面を擦り上げるようにして腰を引く。
成歩堂が息を吐き出すのを見計らってまた、乱暴に腰を押し出す。
身体を大きく揺り動かされ、成歩堂の声も揺れた。
私が腰を引き、そして押し出す度に成歩堂は泣いて喘ぐ。
腕に食い込んでいた指先は縋るものに変化し、私の背中にきつく回された。
痛みを与えているのは他の誰でもない私自身なのに、それを理解する余裕は彼には全くないのだろう。
ただ、目の前にある私の身体に必死にしがみつく。
そんな成歩堂の様子に理性がバラバラと崩れていく。快楽がすべてを覆い隠してしまう。
「あっ…みつるぎ、みつるぎ…っ…」
絶えず響く泣き声と、欲望を包む熱い内部。
彼の吐き出す息が耳元を掠り、途切れ途切れに呼ばれるのは自分の名前。
お互いに汗ばむ身体、それに必死に絡んでくる腕。
何もかもが飲まれていく。
一定のリズムになっていた腰の動きは徐々に激しさを増し、私はただ本能のまま彼を突き上げた。
「クッ……男でも喘ぐんだな」
いきなり投げ込まれた男の言葉に一瞬で我に返る。
成歩堂に熱の杭を刺したまま首だけ振り向かせると、ゴドー検事は所長の椅子に
腰掛けたまま私たちを見ていた。かっとなった私は左手で口を覆い成歩堂の声を遮る。
呼吸の通り道を塞がれ、成歩堂は首を振ってそれに抵抗した。
私はそのまま腰の動きを再開させる。
「んんぅ…!ん、ぐ……っ!」
呻くような声を上げて成歩堂は泣く。口に当てていた手の甲が涙で濡れても私は彼を解放しない。
第三者に彼の声を聞かせるのがどうしても嫌だった。
肩に掛けていた彼の足を外し、自分と彼の身体をぴったりと重ねた。
他者の目から彼を隠すようにして思い切り抱きしめる。
手を成歩堂の口から離し、その代わりに唇を重ねた。
それでも漏れるわずかな声に嫉妬して舌を強引に差し込む。
散々口内を弄んだ後にやっと唇を離すと、成歩堂は顔を横に背けた。
「んっ……ん、や、いやだっ……」
「成歩堂……」
自分を拒否する声も聞きたくなくて、離してもまたすぐに唇を重ねる。
汗ばむ額を撫で、赤く色づく耳朶をいじり。
私が愛撫をするたびに成歩堂は眉をしかめて顔を歪める。
そんな彼に罰を与えるようにして、また突き上げる。
ゴドー検事の視線から自分の背中で成歩堂を隠したまま。
「あっ、あっ、あ、あ、……痛っ…い…!」
自由を失った成歩堂はただ声だけで意思を伝える。
無理に押さえ込まれて、乱暴に犯されて。可哀相に、と思いつつも私は動きを止めなかった。
長い間押し込めていた感情がこの異常な空間と行為によって枷が外れてしまう。
ずっと大切な親友と思っていた。
ずっと一番の側にいるのだと。
しかし彼が救うのは私だけではなく。
彼が大事だと思うのは、私の存在だけではない。
あやめという女性の姿が脳裏に浮かぶ。
私はそれを打ち消すために、思い切り腰を押し出した。
濡れた音を響かせて成歩堂は私を飲み込む。
そのまま押して、引いて。押して、また引いて。その度に成歩堂は泣いて喘ぐ。
苦しくて喘いでいるだろうに、それがなぜか快感にむせび泣いている様に見えて。
「成歩堂……成歩堂……」
私はいつしか全てを忘れて、激しい勢いで彼を突き上げていた。
二人が繋がっている部分を見つめて確かめた後、湿った唇に食らいついて。
成歩堂はくぐもった声を発しながら私の舌を受け入れていた。
唇を外し、そのまま彼の肩に自分の顔を埋める。
耳元すぐ近くで響く小刻みに零れる声に達してしまいそうなくらいの快感を感じた。
「………だ、成歩堂…」
そしてとても小さな声で呟く。
「好き、だ……成歩堂、成歩堂……っ!」
第三者には聞こえないよう、彼の耳元で。
胸を狂わす感情を、必死に閉じこめていた、その一言を。
何度も何度も、たったそれだけを繰り返し何度も。 ───好きだ、と。
内部を侵食する熱に感覚を翻弄され、きっと彼には届いていない。
それをわかっていても私は幾度となく囁き続けた。
「好きだ、すまない、すまな…い、成歩堂…!」
そして時々、思い出したように謝罪の言葉を口にして。
自分を彼の中に沈みこませ、乱暴に擦り付けて快感を貪って。
これ以上自分から離れていかないようきつく、きつくきつく抱きしめて。
「───ッ、…クッ!」
「ん、ん、あ………ああッ!!」
苦しくて切なげな、ふたつの声が重なった。
素早く腰を引いて成歩堂の内部から自身を取り除くと、それとほぼ同時に私は精を解き放った。
密着していた身体を急激に離されて心許ないのか、微かに震える成歩堂の身体。
それに私は白い液体を振り掛けていく。
赤く色づいた肌に点々と散らばる精液。短い呼吸を繰り返す成歩堂の腹をゆっくりと伝う。
私はその様子を放心状態で見つめていた。
「……満足したかい?」
明らかに蔑む声が耳に届く。
私は顔を上げてその声の方向に視線を向けた。
汗で湿った自分の髪が俯かせていた視界から退き、忘れ去っていた人影を再び甦らせた。
「ずっと大事にしていた親友を犯した気分はどうだ?」
ゴドー検事は愉快そうに唇を歪めた。
目の前で起こった事を心底楽しんでいる。そんな風に見えた。
しかし私はその狂った様子に怒りの感情を生むことすらしなかった。
ただ、深い罪悪感に何も考えられない。
目の前に横たわる成歩堂の顔は涙と汗で、身体は私の精液に汚されている。
先程まで私の欲望を全て飲み込んでいた場所は赤く濡れていた。
何より、朦朧とした様子で視線を空中に彷徨わせる成歩堂の表情が痛かった。
───私は彼の動けない時を見計らって、こんなひどいことをしてしまったのだ。
「クッ……ボウヤ、泣くのはまだ早いぜ?」
ぎし、と椅子が音を立てた。ゴドー検事は呆然とする私に笑いかける。
「オレに脅されたという言い訳ができるのも今だけだ」
そう言ってゴドー検事は手にしていたカップをこちら側に差し出した。
私はぼんやりとその白いカップと赤い三本線を見つめていた。
ゴドー検事は静かな声で私に問い掛ける。
「一回で終わらせていいのか?」
その声は何の感情も含んでなくて。
言葉の内容も今置かれている状況も何もかもわからなくなってしまう。
視線を男から外し下方に落とすと、そこには成歩堂がいた。
かけられた精液もそのままに、手足を投げ出しソファに横たわっていた。
明日になれば彼はその胸に金色のバッジをつけ、法廷に立つのだろう。
大切な彼女を救うために。
「……あッ!」
両足首を掴み開かせて、再び硬くなり始めていた欲望を埋め込むと成歩堂は声を上げた。
びくりと身体を震わせ、力の入らない手で私の腕に縋る。
その反応が嬉しくてまた腰を動かす。
私の動き全てに成歩堂は反応し喘ぎ、私はその唇に吸い寄せられるようにして唇を彼のものに重ねた。
舌を触れ合わせながらも腰を動かす。
ただ、成歩堂の存在だけをこの身体に感じるために。
そして、 成歩堂の身体に私だけの感触を与えるために。
このまま抱き合って自分の精を全て彼の中に注ぎ込んで溶け合ってしまえばいい。
明日の法廷が幕を開けるまでに。何度でも何度でも、彼が私のものになるまで。
「……大丈夫だ、成歩堂」
そう彼の耳元で囁く。
君の姿は、あの男の目に届かぬようにするから。
君を誰よりも、思っているのはこの私なのだから。
これから時間を掛けて、その証拠を君に示してあげよう。
喘ぐ彼の姿が次第にぼやけていく。視界の隅にいた、第三者の存在すらも。
長い夜が始まろうとしていた。
●
・.
|