「こんにちは。お加減はどうですか?」
「何しに来た」
気を遣ってそう聞いてやったのに、御剣はそう短く返してくるりとぼくに背を向ける。
そしてふらふらと部屋の中に戻ってしまった。
ぼくは少しむくれつつ靴を脱ぎ、続いて部屋の中に入る。
「そういう態度はないんじゃないか?せっかく、お見舞いに来てやったのにさ」
「…うム。すまない」
御剣は素直に謝り、ベッドに腰掛ける。
その様子はいつもの彼とは想像もつかないくらい弱っていた。
ぼくは眉をしかめ、御剣に尋ねる。
「……どうなの、熱は」
「大分、下がった。微熱がまだあるが」
「いいから寝とけよ」
鬼検事と呼ばれる御剣でも、風邪には勝てなかったらしい。
裁判所でイトノコさんにその事を聞いたぼくは、仕事を早めに切り上げ彼のマンションを訪ねた。
昨日今日と仕事を休んでいたおかげで熱も下がり落ち着いた様子だけど、
まだ本調子には戻れないらしい。
乱れた髪とパジャマでぼーっとする御剣に、ぼくは思わず笑ってしまった。
その声を聞きつけ、御剣がぼくを睨む。
「何がおかしい」
「何でもないよ。ほら、早く寝ろって」
苦笑しながらベッドに向かい、御剣の肩を軽く押す。
不機嫌な顔で御剣は横になろうとした。
「わ」
肩に触れた手を掴まれてしまった。 そのまま寝転がった御剣につられ、
バランスを崩したぼくは御剣の上に覆いかぶさるように倒れてしまう。隙をついて御剣が唇を寄せる。
「こらこら」
寸前で顔を背け、ぼくは腕を使って身体を起こした。
「風邪がうつったらどうするんだよ」
「もう治った」
「嘘つけ」
しれっとした顔でそう答えた御剣の額を軽く小突く。
シワが現れかけた眉間を手の平で押さえ、そのまま枕へと押し付ける。
「まぁ、確かに熱は下がったみたいだな」
手の平に感じた彼の熱は、もうすでに穏やかなものだった。
安心して笑いかけると、御剣は拗ねてしまったのかふとんに包り、ぼくから姿を隠してしまった。
「…………もういい。帰れ」
「おやすみ」
ふとんの上からぽんぽんとあやす様に叩く。御剣は何も答えない。
しばらくすると、静かな寝息が聞こえてきた。
(やれやれ………)
ここで彼を置いて帰る程、ぼくも冷たい男ではない。
ベッドに寄りかかり、床に置いてあった雑誌をぱらぱらとめくる。
綺麗好きの御剣にしては珍しく、部屋が片付いていない。
(まぁ、来てよかったかな)
いつのまにか御剣はかぶっていたふとんを剥いで、ぼくに顔を向けてすやすやと眠っていた。
その穏やかな寝顔を見る限り、多少は落ち着いて来ているようではある。
いつもは見られない、子供のような寝顔に思わず笑みがこぼれる。
「……ん…」
唇をそっと近づけて頬に当てると、御剣は微かな声を漏らした。
その様子が可愛くて愛しくて、今度は唇に触れる。
(こいつが弱ってるのって……珍しいよな)
ぼくの中の悪戯心が、ぼくの指を動かす。
パジャマが乱れている露出している首筋を辿った。
身体を持ち上げ、音を立てないように御剣の上に乗る。
「む……?」
うっすらと御剣が目を開いた。そしてぼくの重みに眉をしかめる。
「重いぞ、成歩堂」
「うん?太ったかな…」
とぼけて笑ってみせる。
御剣は身体を動かさないまま(というか動かせないのだけど)、ぼくに問いかける。
「何の真似だ…?」
「こういう真似」
身体をかがめ、口付ける。舌で唇を割り、彼のものと絡ませる。
御剣の舌が答えようと伸ばされた瞬間に唇を離して逃げる。
そして間近で瞳をあわせ、小声で囁く。
「ねぇ、聞いたことない?…汗かくと熱が下がるって」
「もう下がっているが……まぁ、いい」
いつもより少しだけ熱の高い御剣の身体は、ぼくの欲望を過剰に煽る。
両手を御剣の胸に這わせ、ボタンを外して肌を露出させた。
御剣は手を伸ばし、ぼくのネクタイを緩めジャケットを手荒に脱がせる。
目を閉じて口付けを交わし、身体を傾ける。御剣が脱がしやすいように、身をよじって。
ぼくを身体の上に乗せたまま御剣はひじをついて上体を持ち上げ、ぼくの衣類を剥いでいく。
馬乗りになっているぼくのズボンに手を掛けベルトを外している御剣と目が合った。
「妙に嬉しそうだな……珍しい」
「そう? 」
カチャリ、と静かな音を立ててベルトが外れた。
御剣の指がチャックに届く前に、自分で足を動かして全部脱ぎ捨てる。
「……んっ、……」
裸になったぼくは身体を起こし屈め、また御剣に覆いかぶさるような格好に戻る。
息をつく間も与えずに、唇を貪る。
「寒い……?」
「…っ…いや…熱い、くらいだ」
やっと開放してやると、御剣は息を弾ませながら小さな声で答える。
「御剣の身体も熱いよ」
触ってよ、と耳元で囁く。御剣の指がぼくの肌を撫で、後ろに触れた。
そして片方の手は、硬くなったぼく自身をきつく握る。上下に滑り、摩擦が生まれる。
心地よい感触にぼくは背を仰け反らせた。
「あっ…」
激しい力で揉まれ身体がびくりと反応したと同時に、後ろにも指が差し込まれる。
中の感触を確かめるようにかき混ぜ、微かに指が曲げられる。
痛みと共に、ぼくの身体を快感が駆け巡った。
「…くっ!…あ、ああっ…」
「君は…いつもより…」
「んぁ…!…あっ……な、に?」
「いや……」
ベッドのきしむ音が部屋に響き、御剣は上半身を完全に起こした。
ぼくの腰を少し浮かせ、一気に貫く。
「う、ぁッ…!」
あまりの衝撃に、悲鳴のような声が漏れる。
ぼくの身体を抱え込んだまま、御剣は動き出した。その舌を出し、密着したぼくの肌を舐める。
首筋を温かい舌で襲われ、ぼくは身体を震わせた。
「…んっ、…あッ…!」
その甘い感覚から逃れようと、ぼくは無意識に上半身を仰け反らせた。
腰に手を回されたまま、 背中が反る。御剣はそれに構わずに、激しくぼくを突き上げる。
「んぁっ、あっ、あっ、や…っ、あッ!」
腰を引き気味にして後ろに手をついていたぼくは、激しい律動に自分の身体を
支えられなくなってくる。崩れかけた時、御剣の腕がぼくの身体を強い力で引き寄せた。
「ん…」
与えられた口付けを、ぼくは目を閉じて受け止めた。
御剣の熱い舌をもっと欲したぼくは、震える腕で彼の首にしがみつく。
それを待っていたかのように、御剣は再度激しく動き始めた。
「あッ!…ぅ…んッ」
声を漏らすのが恥ずかしくて、ぼくは御剣の首にしがみついてそれに耐えた。
それでも御剣の動きは治まらない。それどころか、余計激しさを増していく。
「…クッ……あッ!」
呻くようなこの声が、彼の情欲を煽ることになってしまうのはわかっている。
それでもぼくは唇を噛んで、嫌々するように首を振り、声を漏らすまいと御剣の肩に顔を埋めた。
御剣はそのことに気付いているのか、突き上げながらも指でぼくの胸を撫で回す。
ぼくの固くなったものを握り、擦る。
無意識に身体が反応して、ぼくは濡れた息を吐き出す。
その息が御剣の背中に触れたとき。
「成歩堂…っ」
「あ…っ!」
激しい勢いで腰を引いた御剣が、それを前に押し出したと同時に体重を掛けてきた。
ぼくの身体は後ろに傾き、ベッドに寝かされる格好となった。
息をつく間もなく、足を大きく抱えあげられて。
「あああッ…!」
一番奥まで、一気に犯される。
今までと違った角度で内部を刺激され、ぼくはもう声を耐えることができなかった。
間近にあった髪を掴んで襲い来る衝撃にただ、喘ぐ。
「あッ…アッ!」
「……くッ…あ、成歩堂ッ!」
ぼくが絶頂を迎え身を強張らせると同時に、中にいた御剣のものを締め上げてしまった。
二人、悲鳴のような声を上げてその欲望を吐き出していく。
流れていく液体の感触に身を震わせつつ、ぼくたちは荒い呼吸のまま軽い口付けをした。
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御剣は熱い身体のままぼくを抱き寄せ、優しく抱く。
ぼくは彼の頭に手を伸ばし、その細い髪を梳く様になでてやった。
しばらくそうした後、彼の顔を両手で包み正面から目を合わせる。
「さっき、何言いかけたんだよ」
「ム…?ああ、よく覚えてるな」
「気になるじゃないか」
御剣の裸の肩を叩きつつ睨むと、目が合った御剣は柔らかな笑みを浮かべ、
ぼくの唇に触れた。
「君の中も熱く感じただけだ」
「やばい…うつったかな?」
自分の手で額に触ろうとしたら、手首を掴まれてしまった。
そのままベッドに押し付けられ、その上に御剣が身体を移動させてきた。
そして、いつもの意地の悪い顔でニヤリと笑う。
「もう一度確かめてやろうか」
「君こそ熱、また出てない?…身体がすごく熱いよ」
汗をかいてすっかりよくなった様子の御剣は、唇を歪めてぼくを見下ろしている。
ぼくが笑いながらそう返すと、御剣の手がぼくの胸にゆっくりと触れた。
そのくすぐったい感覚に身をよじりつつ、彼の腕を掴み自分の腕の中に引き寄せる。
そしてぼくたちは裸のまま抱き合い、唇を肌に滑らせ、お互いの身体の熱の伝わる場所を探り合った。
再び絡み合い、相手の熱を確かめるように。
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