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「すまない、成歩堂」

12月24日。聖なる夜、クリスマスイブ。私の目の前には恋人が座っている。
特徴的な髪型に特徴的な眉。しかしそれは、不機嫌そうに歪められていて。

「すまない、成歩堂。悪かった。頼む、許してくれ」

もうすでに何度も口にした、謝罪と懇願にも成歩堂は表情を少しも変えなかった。途方に暮れた私は思わず俯いて小さく溜息を漏らす。相手の耳には届かない、とても小さな溜息を。
その時になってようやく成歩堂は横目でちらりと私をうかがう。

「いいよいいよ、クリスマスなんて平日だし大したイベントでもないしね」
「いや、だが、約束をしたのは私なのだ。そしてそれを破ったのも私だ。すまなかった」

成歩堂の言葉に全く異議はなかった。クリスマスなんてキリスト教徒でもない私たちが騒ぐほどのものではない。ただのイベントだ。
しかし私はすかさず反論を返した。成歩堂の顔には白々しいほどの笑みが浮かび、彼の怒りが本物であると言うことを私に知らせていたからだ。


クリスマスなんて関係ない、と思ってはいるが町中にクリスマスソングが絶え間なく流れるこの季節。まるで日本中が浮かれ狂っているように陽気な雰囲気に包まれる。そんな日に、一番大切な恋人と共に過ごしたいと思うのは普通のことだと思う。
だから私たちは仕事の後に約束し、ささやかながら共に過ごせる幸運を祝うつもりだったのだ。しかし、クリスマスだからなのか犯罪は通常よりも数が増え、私は彼との約束に数時間の大遅刻をしてしまった。
待たされた成歩堂は私が事故にあったのかと心配し、寒空の中ただひたすら立ち続けるという苦行のようなイブを過ごしたのだった。


「すまない、成歩堂。悪かった。頼む、許してくれ」

私はまた先程と同じ台詞を口にした。成歩堂はもう怒ってないって、と言って笑うものの黒い瞳が笑っていなかった。
部屋の主である私は床に正座し、客である彼が一人ソファを占領している。
待ち合わせ場所から私の自宅までの道のりの一時間と、この部屋に入ってからの三十分間。成歩堂は笑顔で私を怒り続けていた。謝っても謝っても彼の表情は嘘くさい笑顔で固められたままだった。いい加減、足が痛い。

「もう何度も謝っているだろう……一体何が不満なのだ」

ついつい、本音中の本音を落としてしまった。ぴくりと成歩堂の眉が反応する。

「じゃあ、ぼくが不満に思っていること全部ぶちまけようか?」

表情は相変わらず笑顔のままだ。だが、明らかに敵意と挑発が見て取れる。

「謝る立場なのになんでそんなに偉そうなんだよ。大体お前はいつもぼくを下に見すぎだ」
「そんなことはない」
「そんなことあるよ」
「そんなことないと言っているだろう」

何ともくだらない言い合いだ。辟易する。
私の心の中に浮かんだ感情を、法廷で常に証人を観察する弁護士である彼が見逃すはずがなかった。浮かべていた笑顔が一気に消えた。

「何でそんな態度なんだよ。せっかくのクリスマスなのに」

イベントなどどうでもいいというくせに、私が少しでもつまらない表情をしたら責めるのか。
その矛盾と、いつまでたっても機嫌を直さない彼の態度に私もついに切れた。
折り曲げていた足を伸ばし立ち上がる。ソファに座ったままの成歩堂は私を見上げて睨みつけてきた。そんな彼に私は微笑みを与えた。

「そうだな。せっかくだからクリスマスらしいことでもするか」
「ちょっ…」

後ろ手に回した成歩堂の両腕をひとまとめにして、彼の首元からネクタイを奪った。そして手首を括る。バランスを崩した成歩堂の上に乗り、ソファの上にうつ伏せにさせた。

「何だよこれ!」

狼狽した成歩堂が吠える。服を着たままで後背位の格好をさせた。腰を突き出す格好に成歩堂が身を捩って逃れようとする。

「やめろよ、何するんだよ!もうお前の顔なんて見たくない!」

怒りの感情のまま乱暴な言葉を吐き出した彼に、私はまたひとつ微笑みを与えた。冷酷で無慈悲な微笑みを。私にうつ伏せにされた彼にそれが見えるはずもなかったが。

「ならば顔を見なければいい」

そう囁き、私は解けてただの布の紐となった自分のタイを手に取った。そして彼の両目を覆い、後ろできつく縛る。視界と身体の自由を奪われた成歩堂は激しく首を振って抵抗した。

「馬鹿じゃないかお前。いいから外せよ!」
「……今夜はクリスマスだ。君も楽しんでくれ」

そう言いながら曲線を描く腰のラインをいやらしく撫でた。そして、布の上からいつも私の欲望を受け止める彼のそこの部分を親指で押した。







ぐちゅぐちゅと成歩堂のそこははしたない音を立てる。過剰に塗されたローションが彼の身体をぬめぬめとさせていた。光沢がまた一段といやらしかった。
仰向けの状態の彼に足を大きく開かせ、中指と薬指を揃えて出し入れをする。何かを掻き出すように、もしくは押し込むように。緩やかに抜き差しを繰り返したことと、ローションを塗りたくったおかげで成歩堂の狭いその部分は私の指をもっともっとと奥へ呼び込む。
私は右手の指を彼の中に挿入しながら左手で彼の上半身を嬲っていた。窪んでる鎖骨を、胸を手の平で撫でる。私の指の動きどおりに形を変える乳首が憎たらしくなり、少し強めに摘むと成歩堂の身体が面白いくらいに跳ね上がった。

「いやだ、御剣…ッ…」

肩で息をしながらも成歩堂は首を振る。なかなか強情な男だ。

「あっ、あ、うぁっ、っ!」

ゆっくりだった指のピストン運動のスピードを一気に上げた。中を抉るような動きに成歩堂は堪らず声を漏らす。私は指を飲み込むそこを見つめながら、彼の息づく中心に顔を寄せた。

「や、だ…ぁッ!」

目隠しをされていても何をされているのか、自分がどのような格好をしているのかは想像がつくのだろう。閉じてそこを守ろうとした両足の腿を肩で阻んだ。誰も触れることのない、日の光も当たらない内腿に口付けて跡を残した。ひとつ、ふたつ……みっつ目をつけてから唇を離す。
そして、天を突くように立つ彼のペニスを口に含んだ。
舌で先端をこねながらも、挿入した指の動きは止めない。揃えていた指を今度はバラバラに動かし、捻り、抉る。私の手の甲を温まったローションが垂れていくのがわかる。

「あっ……ああっ……」

喘ぐ度にびくびくと身体を痙攣させて、成歩堂は私に身体を弄られている。視界を覆われたことで身体への直接的な刺激に過敏なのだろうか。いつもよりもペニスが硬い。私はそれを自分の口内で感じた。
膝の裏に手を添え、そこが見えやすいようにさらに両足を開かせる。目が使えない成歩堂はほんの少しの動きにも恐怖や不安を感じているようで、それだけで身体は強張る。挿入させた指がきゅっと締め付けられた。
──そろそろ頃合だろうか。
ローションで濡れそぼったそこから指を引き抜き、自分の性器と彼のそこが重なるように身体の位置を変えた。力の抜け切った成歩堂の身体は簡単に私を受け入れる体勢を取った。
すでに滲んでいた透明の液を亀頭に擦り付けてから、そこに宛がった。

──っ、あ!」

襲い掛かる衝撃に成歩堂は悲鳴を上げた。自分を守ろうと暴れる彼の両足を腕で抱え込んで、一気に挿入させる。

「痛っ…」

性急な結合に悲痛な声が上がる。だが私は自分を止めることができなかった。少しでも奥まで犯したくて、体重を掛けて彼の身体を折り曲げる。結合部分が晒された。懸命に口を開く成歩堂の小さなそこが、愛おしい。成歩堂はそんなところを凝視されていることには気付かず、異物に早く馴染もうと浅い呼吸を整えている。
それを待ってやる余裕はない。素早く腰を引き、すぐに成歩堂の身体全体が揺さぶられる程に突き上げる。液を垂らした成歩堂のペニスが揺れた。そのままがむしゃらに突き上げる。ただ、ひたすら本能の赴くままに。

「あっ!あっ、あっ」

小刻みに震える成歩堂の声。煽られる。欲しくて欲しくて、堪らなくなる。いつもはひたかくしにしている劣情が顔を出す。

「御剣ッ…」

荒い息を紡ぎながら成歩堂が喘いだ。助けを乞うように私を呼ぶ。彼の中を荒らすものの正体は私だというのに。

「ああっ、…みつるぎ、っあ、あ!」

二人同時に揺れながらも、必死に成歩堂は私の名前を呼ぶ。足が腰に絡み始める。意識か無意識か、更なる奥に誘う肉の壁の収縮。

「…みつるぎ、…っ!」

成歩堂の口から零れるのは意味を成さない言葉の切れ端と。──私の名前だった。成歩堂は涙混じりの声で何度も何度も私の名を呼んだ。
この世にはもうそれしか存在しないというように。
過剰な愛おしさに胸が喜び痛んだ瞬間、熱い迸りが私の中から流れ落ちていくのを感じた。








目隠しを取ってやったのに、成歩堂は恐ろしい目で私を睨んできた。お礼を言うどころか更に新たな要求をする。

「手、はずせ」

最初は怒り抵抗していた彼だが、陥落はとてもあっさりとしたものだった。その結果に満足した私は上機嫌でクリスマスの残り少ない夜を楽しむつもりだったのだが……どうやら彼にそのつもりはないらしい。
簡単に外してしまっては面白くない。そう思った私はあることを思いついた。放った精液で汚れたペニスを彼の目の前に突きつけ、なるべく優しい微笑みを浮かべて条件をつける。

「綺麗にしたら外してやろう」

自分では解くことのできない成歩堂に拒否権はない。更にきつく睨んできたが、私の崩れない笑みを見て観念したのだろう。不機嫌な表情を浮かべつつ、前に立つ私に向き合った。
しかし、手が使えない。
成歩堂は勃起する私のペニスを含もうと、口を開きそれを必死に目で追う。その姿に興奮を覚えた。ぞくぞくと背中が波打つ。
我慢ができなくなった私は彼の後頭部に手の平を回し、彼の口をそこに導いてやった。成歩堂はやっと与えられたペニスに食いつき、一気に根元まで口内に納めてしまった。

「いやしい男だ……」

私は額に汗を浮かべながら唇の端を吊り上げた。
先程まで装着していたゴムの味がするのか、ただ単に悔しいのか。顔を歪めて成歩堂は私のペニスを愛撫し始めた。

「んっ…」
「随分と上手くなったな」

そう誉めてやり、後ろの髪を撫でる。手で自分の身体を支えられない成歩堂は私の股間に顔を埋めていた。顔を離そうとしても上手くできないらしい。しかし、息苦しそうに喘ぎながらも成歩堂は私を離さない。
支えてやるつもりで彼の頭に手を添えたのに。私の中の悪魔は欲深かった。
成歩堂の後頭部を押さえ込み、更に深く咥えさせた。

「ん…、んんッ!」

無理に頭を振ろうとして成歩堂は暴れた。篭る声で何かを訴えかけてくる。
それが、舌の動きが激しくなる理由となった。唾液と口の中の肉と、舌と。全てが彼に飲まれて私は、息を吐き出した。体内から激しい快楽の塊がせり上がってくる。
息継ぎに顔を背けようとした成歩堂の頭を力一杯自分に押さえつけ、囁いた。見上げた成歩堂の真っ黒な瞳と真正面から目が合う。

──メリークリスマス」

そして、欲望に塗れた己の白い液体を彼の中へと全て吐き出した。








二度射精し、心地よい疲労感が全身を包んでいる。
このまま寝てしまおうか。そんなことを考え、セックスの相手である成歩堂の肩を抱こうとした。しかし、その身体は頑なに私の腕の中に落ちてこようとはしなかった。
腕の拘束はもうないはずだ。理由を見つけようと上半身を起こし、隣で横たわる成歩堂の顔を覗き込んだ

「…………」
「……成歩堂」

無言。そして、寄越された視線。それを見て私は一気に目が覚めた。
成歩堂は怒っていた。いや、激怒していた。私はすぐにそれを悟った。

「成歩堂……」

心臓は早鐘のように打ち付けるのに、言葉が上手く出てこなかった。
コンクリートのように固まりきった喉から絞り出すようにして出てきたのは。

「すまない、成歩堂」

とても簡潔な謝罪の言葉だった。
私の手を振り払おうとする彼を何とか宥め、向かい合う格好を取らせ、謝り続ける。
数時間前と同じことがまた行われ始めた。ふりだしに戻った。そんな気持ちだった。

「………すまない、成歩堂」

私は必死だった。クリスマスに遅刻した上に彼を犯し、しかも彼は私にプレゼントまで用意してくれていたらしい。今夜、私が彼にプレゼントしたものといえば……彼の唇の端が薄っすらと白く汚れているのを見て、罪悪感に思わず項垂れた。
もう、頭を下げること以外何一つできない。

「私に何か出来ることはないだろうか?お詫びといっては何だが、今は何も用意できない」

思いつきで言った言葉だが、成歩堂はぴくりと反応した。黒目が空中を泳いでいる。それは法廷でもよく見せる、彼が何か名案を思いついた時の癖だった。

「そうだね。じゃあ、今夜はぼくに付き合ってもらおうかな」

そう言って成歩堂は今夜、初めて微笑んだ。嘘くさい笑顔ではない。本当に、本当に幸せそうな顔で。
その顔のまま頬にキスをされて、私はほっと胸を撫で下ろしていた。

その後、あのようなことが自分を待っていることなど考えもしないで。






 

 

 

 

 

 

 

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「クリスマスメリー」の前の話です(続きはリバなのでご注意!)。
精液で乾杯をする検事は変態という名の紳士っぽくて、
結構お気に入りです。


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