「……んッ…あ、…」
この場に仰ぐわない、濡れた声が響く。
私が腰の動きを早めると、それに答えるように成歩堂が声を漏らす。
己の欲望を包みうごめく内膜と、その彼の吐息に寒気がした。
欲しい欲しい欲しい
君が欲しい 全て欲しい
欲しくて欲しくておかしくなりそうだ……成歩堂。
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「では弁護人、出番だ…せいぜい笑わせてくれたまえ」
ふん、と鼻を鳴らすと成歩堂は弁護人席から鋭い視線を私に投げつけた。
私はそれに気がついたのにもかかわらず、口を歪める……笑わずにいられるだろうか。
この状況、楽しくてしょうがない。
「先程、証人は……」
成歩堂はしばらく考え込んだ後、口を開いた。
冷静な顔を装ってはいるが内心は動揺しているのだろう。時々、黒目が考え込むように上を向く。
私は彼の弁護の言葉を頭に入れつつも、目は成歩堂の身体を観察し始めた。
証人を睨みつけその先の真実を暴きだす力強い瞳。
天才的な閃きで言葉を紡ぐ、その唇。
目を伏せ、書類を叩くその仕草。
───見るだけで欲情する。
「裁判長。見ていただきたいものがある」
「御剣検事、それはなんですか…?」
私は一枚の紙を取り出し、優雅に微笑んでみせる。
それは成歩堂の手には渡らなかった、新しい証拠品のひとつ。
彼はその事実を知ると、大げさに口を開いて驚く。その様子に、思わず喉の奥から笑いが漏れる。
「…ふむ。これはきわめて重大な証拠品ですな。ここで判決を下すことは出来ません」
裁判長は私の提出した証拠品に目を通した後、裁判の一時中断を告げた。
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「御剣」
成歩堂はそう言った後、黙って私を睨む。
裁判所のとある一室。私と成歩堂は向かい合ってソファに腰をおろしていた。
私は両手を上げ肩をすくめる。すると彼は持っていた鞄を乱暴に投げつけてきた。
「とぼけるなよ!毎回毎回毎回!セコいことしやがって!」
私の口元に浮かぶ笑みを見て成歩堂はますます眉を吊り上げる。
「いいから!早く資料くれよ!」
「そう怒るな」
差し出した書類に、成歩堂が手を伸ばす。そしてそれが成歩堂の手に渡った瞬間。
「…!?…うわっ!」
私は彼の手首を掴み、引き寄せる。
いきなり腕を引っ張られ、成歩堂はバランスを崩し間にあった小さな机に膝をぶつけてしまった。
非難の声を上げようとした成歩堂の頬を掴み。
「んんっ!」
唇を塞いで黙らせる。成歩堂の手から書類が落ち、ばらばらと床に散らばった。
「みっ…御剣ッ、なに…!?」
腕を使い、身体を離そうともがく成歩堂をさらに強い力で引き寄せる。
「すまない………止まらないようだ」
「なっ…!」
怒鳴りかけた成歩堂の口を再び塞ぐ。
法廷で彼と対峙する張り詰めた空気は、性行為のそれと似ている。
精悍な表情で演説をする彼の身体を引き倒し、このまま汚してしまいたい。
そんな狂気じみた感情を隠したまま法廷に立てるほど、私は人間ができていなかったようだ。
唾液と舌で彼の口内を散々犯した後、やっと私は唇を離す。
息がうまくできなかった成歩堂は苦しげに顔を歪ませ、鼻先に迫る私の顔を睨みつけた。
私はそんな彼の身体を解放することなくさらに両腕に抱え込んだ。
もがいた成歩堂の両手まで抱きこみ抵抗を封じる。耳元に唇を寄せ、低くこう告げた。
「君を抱きたい…でないと、法廷で君を犯してしまいそうだ」
「ッ!……ふざけるな!…君がそんなこと、言うなんて…ッ!」
耳に熱い吐息と卑猥な言葉を流し込まれ、成歩堂の身体が強張る。
そして涙まじりの言葉で私を罵った。
確かに、こんな自分は自分でも軽蔑する。
私は法廷に命をかけて立っている。その裁判に全てをかけ、ゆだねる。
その合間にこんな貪欲に彼を求めるなんて…不謹慎極まりない。
───でも、それほどに私は。
「君が欲しい」
「あっ…い、やだッ!御剣ッ!」
姿勢をかえ、私は成歩堂の身をソファに押し付ける。そして覆いかぶさるようにして彼を犯し始めた。
キスを貪り、力でねじ伏せ、涙の浮かぶ顔を見つめたまま愛撫する。
「……くッ!」
きちんとしめられていたベルトを外し、下半身を露出させる。
蛍光灯に照らされた明るい控え室に無防備な姿を晒され、羞恥心を感じたのか成歩堂は
歯を食いしばって呻いた。私は彼の意思を無視して右の手のひらで彼自身を握り締めた。
私をきつく睨みつけていた彼の瞳が、一瞬だけ揺らぐ。
「やっ…いやだって、御剣、こんな所で…ッ!」
振り上げられた成歩堂の右手をかわし、自分の身体を下方にずらす。そして口を開きそれを含んだ。
びくんと身体を震わせた成歩堂は、唇を噛んで声を抑える。
腕を伸ばし、私の髪を掴み必死に引き離そうとしていた。しかしその力はみるみるうちに弱っていく。
それとは逆に次第に立ち上がり硬くなっていくそれがいとおしくて、私は我を忘れて舌と唇を動かした。
「…あああッ!!」
頭の後ろに回されていた彼の手が、私の髪に強くしがみついた瞬間。
悲鳴のような声を上げ、成歩堂は硬くなった先端から白い液体を吐き出した。
私はそれを全て口で受け止めて、飲み込む。
成歩堂の目がぼんやりと空をさまよった後、私の顔に再び戻ってきた。
口元を緩めその姿を観察していた私に気がつくと、不快感を露に睨みつけてきた。
そして足を動かし、無理矢理剥かれた衣類を元に戻そうとする。
私は口元に笑みを浮かべたまま彼の動きを制止した。成歩堂の目が驚きに見開く。
「自分だけ満足して終えるつもりか?」
私の表情に成歩堂は怯えたように弱々しく、首を振った。
ソファの上に投げ出されていた身体を反転させ逃げようとする。
その腰を掴み自分の身体を彼の上に乗せると、彼が息を飲んだ音が聞こえた。
「御剣……頼む、やめてくれ……アッ!」
涙ながらに懇願した彼の後ろに指を触れされると、成歩堂は嫌々と首を振る。
一回達したことで彼の身体の力はほとんど抜けているようだった。
言葉だけで抵抗する姿は、私の加虐心をさらに加熱させる。
法廷ではあんなに堂々とした彼が、鋭い視線で弁論を行う彼が、指を真っ直ぐに差し真実を探し出す彼が。
今、私の前で泣きながら抵抗を繰り返している。
私の仕草、私の言葉、私の身体。私の全てが彼を蹂躙する、この瞬間。
───君が欲しい 全て欲しい。
「んんッ…!」
指を中に侵入させると、成歩堂は苦しげな声を発する。
空いた手を前方に回し、柔らかくなっていた彼自身を同時に刺激した。
丹念に解きほぐすように入り口を撫で、次に指を差し込んで内部を掻き回す。
その動作を繰り返すうちに成歩堂の身体は緩やかに解けていった。
濡れない代わりに自分の唾液を使い、時々発せられる甘い声を確かめながら、
私はしばらくその部分をいたぶり続けた。
そろそろ自分の限界を感じた私は、指をそこから引き抜くと身体を動かし成歩堂の浮かせていた腰に
自分の下半身を重ねた。そして張り詰めたものを外に取り出し、手を添え彼の後ろにあてがう。
うつ伏せになっている成歩堂の喉がひくりと鳴った。 ……しかし、私はそのまま動こうとはしなかった。
「みつるぎ…?」
腰を少しだけ揺らし、成歩堂は私の名を呼んだ。それに答えずに私は、猛ったものを彼の後ろに擦り付ける。
成歩堂の全身が震えた。けれども私はそうしただけで、決して腰を押し出そうとはしなかった。
なかなか中に入ろうとしない私にしびれを切らした成歩堂は、泣きそうな声で懇願した。
「何で…ッ…いいからっ…はや、く…」
「早く…?…早く、何だ?」
「…ッ、あっ…」
入り口を突付く様にして刺激してやると、成歩堂はまた切なげな声を上げた。
尖った髪を左右に振り、秘部を私に曝け出したまま。
それでも私は動こうとはしなかった。
後ろから犯す格好を成歩堂にさせたまま、口元に笑いを浮かべる。
彼を全て自分のものにするために、彼を自分の意のままにするために。
言葉はあくまで優しく、卑猥な姿勢は崩させないまま。私は彼にこう問うた。
「成歩堂…どうして欲しいか言ってみたまえ」
「い、やだ、…そんなこと…っ」
何度身体を重ねても、両足を開かされ犯されても、成歩堂の自尊心は決して無くならなかった。
どんな快感にも流されずに、強い光を放つその瞳が愛しい。
───けれどもそれを壊す快楽も、貪欲な私は欲しがっていた。
上体を少しだけ前に傾け、彼の背中へと問い掛ける。
「……この部屋の鍵は、君がかけたのだろうか?」
「!?…な、…き、君がかけたんじゃないのかッ…」
「…どうだっただろう?」
乱された白いシャツを脱がずに、下半身のみを曝け出している成歩堂は声を詰まらせた。
彼の首筋に自分の吐く息が触れるよう、上半身を折り曲げた。そしてさらに声を低くして囁く。
「裁判所の控え室で…こんな格好をして。……今、あの扉を開けられたら大変なことになるな」
「い…やだ、…黙れッ!」
あまりの屈辱に崩れ落ちそうになる成歩堂の身体を両腕で支える。
動物的な格好を恥じた成歩堂は、身体を揺らしてどうにか逃れようとした。だが、私はそれを許さなかった。
上半身を密着させると成歩堂の背中が反る。さらに腰だけ突き出す姿勢になり、
自分の行動が逆効果だとやっと気付いたのだろう。成歩堂は四つ這いの格好のまま沈黙した。
「成歩堂…どうして欲しいのか?」
そして私は、もう一度同じ質問を彼にした。
追い詰められた彼は、きっと私の望み通りの答えを返してくれるはずだ。
彼の息を吐く音がこの部屋に響く。
しばらくして蚊の泣くような、とてもとても小さな声で成歩堂はこう言った。
「御剣、御剣が欲しい…」
その言葉を聞いた私はやっと、腰を押し彼の中に自分の欲望を突き刺した。
熱くて柔らかい内膜が私自身を包み、絡みつく。寒気がする。 ───それと同時に。
成歩堂を全て支配できたことに言いようのない達成感を感じ、ただそれだけで果てそうになった。
身体だけでは足りない。身体も、心も、そして言葉すら操る。
私は一心不乱に腰を動かした。私の動きにあわせて成歩堂の身体は揺れ、艶かしい声を吐き出す。
私の身体が彼を支配している。彼の乱れる姿を目の前にしても、まだ足りない。
君が欲しくてたまらない。 ……欲しくて欲しくておかしくなりそうだ。
「あッ…!あッ!御剣、みつるぎっ…!」
二人の人間の肉が、激しく当たる音。それが何度も部屋に響く。
後ろから激しく突かれ、成歩堂は声を上げ私の名を呼んだ。
この場がどこか、私と彼がどのような立場なのか。今の成歩堂には考える余裕もないだろう。
私は腰を引き、さらに激しく彼の身体を貫いた。
声を抑えることなく、成歩堂は甘い声を吐き出してそれを受け止める。
そしてまた名前を何度も呼び、私を求めて泣いていた。
彼の口から私の名前がこぼれる度に、快感が胸を浸していく。
「成歩堂…」
「あっ…!…んッ!…み、つるぎ…っ」
私の呼び掛けに答えたことを誉めるように最奥を突いてやると、成歩堂はまた甘い声を上げた。
もっと、もっとだ。
私をもっと欲しがってくれ。
このまま、君もおかしくなってくれ。
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