top>うら> 決戦前夜、雨 |
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何度も訪れた、あるホテルの前で。 「現場巡りかね、弁護人」 いつもだったら法廷でしか呼ばない呼び方で、皮肉交じりに御剣はそう言った。 「イトノコさんは?」 ぼくの指摘に、御剣は首を振って謝罪した。 「あ、雨?」 突然、頬に水を感じて目を上げた。 「雨……ひどくなるようだな」 そう短く言って、御剣は通りへと向かった。タクシーを拾うつもりなんだろう。 「成歩堂!」 名前を呼ばれ、顔を上げるとタクシーを止めることに成功した御剣が手招きをしている。 「あ、すみません、先にホテルバンドー前までお願いします」 慌てて行き先を訂正すると、御剣は鋭い視線を向けた。運転手は軽く頷き、車を発進させた。 「ぼく、事務所に戻るよ」 ため息混じりに呟く。 「もう12時を回るぞ」 彼の気遣いが過剰に思えて、思わずおざなりの態度で返してしまった。 「運転手。ホテルには向かわなくて結構だ」 そして自分の自宅へ向かうよう指示した。その高圧的な態度に、ぼくは憮然として抗議した。 「御剣!勝手なことするなよ…」 有無を言わせない御剣の物言いに、ぼくは口を閉ざすことしか出来なかった。
扉の前で足を止める。 先に中に入っていた御剣は眉をひそめてぼくを振り返った。 「だからと言って何で君の部屋に来なくちゃいけないんだ」 彼の言い分はわかった。いや、最初からわかっていた。 何度も来た事のある、御剣の部屋。 「先にシャワーを浴びるといい」 雨に濡れたのは御剣も同じだ。 乱暴にネクタイを緩め、スーツのジャケットをソファに投げつける。 「成歩堂」 冷たく言い放ち、振り返る。 「これ以上私を苛立たせるな」 ぐい、と腕を引かれた。そしてそのまま唇を押し当てられる。 「なら…君が温めろよ」 ぼくが、風邪を引かないように。 「……あ……っ……み、つる…ぎ…」 シャツを脱がされて、すべてが彼の前にさらけ出されて。 息が上がったまま、御剣が身体を離す。 「……………………んッ!」 すぐ入り口で、御剣は腰を止めた。眉をしかめ、苦しげに呟く。 「……力を抜け、成歩堂」 意識して力んでいるわけじゃない。言われるとおりに力を抜こうとしても、できない。 「ちょ…待っ、…………い、痛ッ……御剣っ!!」 焦っているのか、御剣は無理に腰を打ちつけようとする。 「あッ」 びくりと身体が揺れる。 「ああっ!……っ…ん、ん、ん、んっ……!」 荒々しく、そして休みなく突き刺される、御剣自身。 「成歩堂……」 彼が名前を呼ぶ。この時…この瞬間だけは、御剣しかいない。 「……っ!なるほど…ッ!!」 大きな振動の後、御剣がぼくの名前を呼んだ。切なげに、いとおしむように。
気がつけば、部屋に響いているのは降り続ける雨の音だけだった。 「早く寝ないと、明日がつらいな…」 意地悪く言われて、顔が赤らむ。 「明日君が負けたら、理由は今夜のせいにしてくれも構わないが」 すぐ側に横たわる男に、びしりと指を突きつける。 「被告は無実だ。無実なら、ぼくがどうなったって無罪判決になるに決まってる」 余裕の笑みを浮かべて、御剣は言う。 「明日の法廷を楽しみにしてろよ」 負けじと言い返し、ぼくも笑みを返す。そして、そっと目を閉じる。
宣戦布告の握手ならぬ、キスを交わした。
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最初は無意味に怒るなるほどくん。 そんな彼にちゅーをかますみったんの度胸に乾杯★ 私がもっとも好きなのが、やっぱ弁護士と検事って間柄。 もっとこう、張り詰めた感じの二人がそれでもイチャイチャしてるのがいいなあ。 |
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