top>うら> 検事と弁護士

 


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その日、弁護士・成歩堂龍一はすこぶる機嫌がよかった。

頭が面白いくらいよく冴え渡り、矛盾をバンバン叩きつけて、指をビシビシ突き刺して。
自分が揺さぶるにつれて証人は次々と証言を変化させ、ついには自らの罪を告白しはじめた。
目を丸くした裁判長、白目をむいた相手検事……思い出すだけで笑いがこぼれる。
鼻歌交じりにトイレで用を足し、次なる依頼人の元へ向かおうと振り向いた時。
彼と出会った。

・・・

その日、検事・御剣怜侍はきわめて機嫌が悪かった。

万全の準備で証人と打ち合わせをし、刑事に調査結果を聞き、完璧な証拠品を揃えて。
しかし、裁判が始まるやいなや証人の発言はあやふやなものとなり、調査結果に不備が見つかり始め、
ついには証人自ら真犯人だと告白までしたのだ。
目を丸くした裁判長、背中を逸らせて威張る相手弁護士…思い出すだけで腹が立つ。
刑事に散々八つ当たりをし、トイレに足を向けた時。
彼と出会った。

・・・

「御剣!」
「…………」

まさにハツラツ、といった感じの笑顔で成歩堂が手を振る。
私の表情に少しも気付かない様子で、話しかけてきた。

「お疲れ!いやー残念だったね、さっきは」

いや…この男はわかって言っているのだろう。こう見えても、なかなか鋭い奴だ。
わざと、何もなかったような顔で。

(私を馬鹿にしているのだ……)

「まぁ、被告は無実だったってことで。真実は逆転しようもないもんな」

彼の言っていることは正論だ。私は以前の私ではない。
無罪の人間を有罪に追い込むことなど、もうしていない。しかし。だがしかし、だ。

(この男に、裁判で負けるのはものすごい腹ただしい!)

軽い足取りでトイレの出口に向かう、成歩堂の肩を掴んだ。

「えっ…何?」

そのまま個室に連れ込み、背中を壁に押しつけ。
後ろ手にドアを閉め、彼の無防備な顎を掴んで。

「んん…!」

まるで噛み付くように口付けをした。いきなりの行動に、成歩堂はかなり驚いたようだ。
引き剥がされたと同時に、頬を平手で叩かれてしまった。

「……馬鹿!何するんだよ!」
「すまない。欲情しただけだ」
「何だよ、その身もふたもない言い訳は!」
「事実を言ったまでだ」
「こんな……裁判所で!しかもトイレで!見つかったらどうするんだよ!」
「では、静かにしてくれ。見つかったら困るのは、私も同じだ」

呆れて言葉も出ない、といった表情の成歩堂に再び口付けた。
一瞬抵抗した彼だが、その手はやがて力が抜けて、私の背中へと回される。
舌で彼の口内を隅々まで味わう。

「っ……馬鹿…」

口を離すと、腰が砕けたような成歩堂がしがみついてきた。肩に顔を埋め、悔しそうに呟く。

「君、口からなんか出してないか?麻薬物質みたいなものを……」
「失礼な。上手いと思うなら、素直にそう言えばいい」

一呼吸置いて、また唇を合わせようと顔を近づけた瞬間。

「!!」

二人同時に目を合わす。
扉の向こうで、音がした。どうやら、トイレに人が入ってきたらしい。
足音。水の流れる音。

「………………やばい……」

小声で呟く成歩堂の唇に、人差し指で触れる。彼の目がふらふらと泳ぎ、私の目に戻ってきた。
と、同時に。再び唇を奪う。

「…………っ…」

条件反射で目を閉じて、それに答えた成歩堂は身をよじって私の腕を握った。
そのまま人の気配が消えるまで、私は成歩堂の唇をむさぼり続けた。
しばらく、そうしていた後。

───馬鹿ッ!!」

今度はかなり本気で突き飛ばされてしまった。顔を真っ赤にして成歩堂は怒鳴った。
その様子に思わず笑いが零れる。

「………まぁ、否定はしないが」

呟きながら、両手で彼を抱きしめた。そして背中から下に、手を滑らせる。

「み、御剣!?」

顔を寄せ耳たぶに口付ける。舌を出して舐めると、びくりと成歩堂の身体が反応した。

「ちょっと、何考えてんだよ!また誰か来たら……!」
「そうだな」

手を差し入れ、直接素肌を撫でる。びくびくと身体を震わせる彼が愛しい。
ネクタイを緩ませ、隙間から覗いた首筋にキスした。

「君が声を出さなければいい」
「んな無茶な……あっ!」

声を出してしまった後、成歩堂はぐっと口を閉じた。そして、泣きそうな顔で私を見返した。
優しく頬を撫で、微笑んでみせる。腕を取り、私の身体に絡ませた。背中を壁につけさせる。
そして私は愛撫を再開させた。

「んんっ!だ、め……だ…」

声を殺すのに必死で、成歩堂は快感すべてを自分のものにすることが出来ないようだ。
シャツの下から手を入れ、突起をいじる。 首に舌を這わせ、肌の感触を確かめるように舐め上げる。

「ア…ッ…んっ!…御剣、だ、だめ…」

どうしても声が漏れてしまうようだ。
唇をかみ締め、顔を背け、頬を赤くして、理性で身体を押さえようとする成歩堂の姿は
とても扇情的なのだが……
確かに、こんなところを人に見つかったら困る。考えあぐねた私は、ふと目に付いたものを右手で持ち上げる。

「成歩堂………口を開けろ」
「…え…っ?な、んで…」

少しだけ除いた歯に、指を伸ばして親指だけ侵入させる。

「…ぁ……ふ、…」
「なんだ、私の指を舐めるだけで感じてるのか?」
「……!!」

顔を赤くして、成歩堂が私を睨んだ。

「冗談だ」

ふ、と笑って左手を彼の首筋に伸ばす。 身体を微かに震わせ、成歩堂が不安げな顔で私を見上げた。

「これでも咥えていればいい」

彼の赤いネクタイを口元に寄せてやった。まるで犬みたいに扱われて、彼は口を尖らせる。
しかしこのまま事を進めても、成歩堂が声を我慢できないのはわかりきったことだ。
しぶしぶと成歩堂は自分のネクタイに噛み付いた。

「いい子だ」

額に軽く口付ける。 そして、彼の口がきちんとネクタイで封じられていることを確認すると。

───んんんっ!…うっ…」

手加減なしの愛撫をくわえ始める。くぐもった喘ぎ声を上げながら、成歩堂は身をよじった。
そこを追い詰め、彼の両手を頭の上に運び片手で押さえ込む。

「ん、ん───んっ!!」

シャツの下三つのボタンだけ外し、捲し上げて肌を露出させる。

「君の可愛い声が聞けないのが残念だな」

胸に舌を滑らせながらそう呟く。赤い跡を数個つけて、ズボンに手を入れて引き降ろす。
羞恥心に震える成歩堂の、後ろに指を差し込んだ。

──────ッ!!」

性急に事を進められて、痛みからか成歩堂が顔をしかめた。そして口に布を含めたまま、私を睨みつける。
その潤んだ目が、逆効果だとわかっているのかいないのか。

──んんっ!……んっ…」

彼の渇いた入り口に、私の指は思うように入らなかった。
すべりが悪いことに苛立ちを感じた私は、成歩堂の腰を乱暴に持ち上げると無理に指を一本増やした。

「んッ…は…」

顔を上げると、口が緩んでネクタイが落ちそうになっていた。
空いている方の左手の手のひらで口を塞ぐ。息苦しさに成歩堂は眉をしかめて首を振る。

「……声を出さないと約束するか?」

私の意地悪な問いかけに、彼の目が情けなく潤む。
法廷ではいつも、射るような鋭い視線と、自信ありげな様子で熱弁を奮っているというのに……
彼のこのギャップを知るのは、私だけだ。

「しっかりと咥えていろ」

愛しげに髪を撫でる。口を開放してやり、成歩堂が息をついたのと同時に。
自分の露出させた欲望を、彼に突き刺した。

「んんん─────ッ!!」

横を向いて目を閉じて、成歩堂は口にネクタイを含んだまま苦痛に耐えた。
すでに膝下に落ちていたズボンを片足だけ脱がせ、腕で抱え込む。
二人とも立っているため、安定が悪い。私は腰を動かしながら、背を壁につけて彼の体重を受け止める。
気がつくと成歩堂は、自分の口を私の肩に移動させていた。そしてそのまま歯を立てる。

「……そうだ、そのまま私にしがみついていればいい。できるな、成歩堂?」
「あ…っ…」

私が身体を移動させたことで、彼の内部に新たな刺激を与えてしまったらしい。
少しだけ漏れてしまった声を、成歩堂は自分でかみ殺す。そして、数回頷いた。

「…いくぞ」

そう短く告げ、腰を少し落とす。そして、その後。私は激しい律動を開始した。

「………っ……ぁっ……!」

声にならない声を上げて、成歩堂が顔を私の肩に埋める。
耳元に、彼のとても小さな息遣いが届いて私は理性を失ってしまった。
成歩堂の片足が壁にぶつかり、大きな音を立てた。
目に涙をためた成歩堂がその音に身体を震わせても、私は自分の欲望を止めることが出来なかった。

───ッあ、だ、駄目だ、……っ!…」

ただただ彼が愛しくて、欲しくて、感じさせたくて。
私は自分自身の限界が近づいてくるのも構わずに腰を動かし続けた。
えぐる様に動かし、激しく打ちつける。
裁判所の、そしてこの狭い空間で、お互いの性欲をぶつけ合う…
背徳的なこの行為に、自身を咎める意識すらない。私の全てが意味をなくしてしまう。
ただ、目の前の彼が。愛しい彼がいれば。

「み、みつるぎ……あ、あっ!!」
「クッ……!!」

熱に浮かされたような瞳と目が合う。その唇に名前を呼ばれた瞬間。
押し進めた私自身に、弾ける灼熱のような感覚。成歩堂の体内に注ぎ込まれる、私の欲望。
背中に回された手に力がこもったのが感じられた。乱れた息のまま、そっと彼の頬に口付けする。

「み、御剣の………バカ……」

目が合うと、震える手で額を叩かれる。

「見つかったら知らないからな…ぼくは悪くないから、ね……」

熱い息を吐きながら、潤んだ目で成歩堂は言った。
まるで小学4年生の時みたいに言葉で罵られて、私は思わず笑ってしまった。


「大丈夫か」
「…………」

彼は無言のまま、私を睨みつける。白い便器に腰を降ろした姿勢のまま。
私の手によって乱された服はきちんと直されており、ネクタイも前のように結ばれている。
ただ、スーツのジャケットに隠された部分は唾液とシワと歯形で見れたものではないが……

「ここがトイレでよかったな。後始末も楽だ」
「こら!!御剣!!」

笑いながら、ついつい本音を言ってしまった。勢いよく繰り出された成歩堂の右の拳が腹に沈み込んだ。
頬を膨らませたまま成歩堂がドアを開け、外に一歩踏み出した瞬間。彼の足が止まった。
彼の様子に首をかしげながら、背中を押し、自分も外に出る。
するとそこには、硬直した男性が一人。
いつからそこに立っていたのだろうか…その貧相な髪をいじりながら、亜内検事は私たち二人に会釈をした。

「お、お二人ともお揃いで……」
「あ、え、い、いや、ち、違うんです……」
「では、私はこれで失礼する」

動揺する成歩堂と亜内検事を残して、私はトイレの外に出た。
背後から、慌てた様子の成歩堂の言い訳が聞こえてきた。

(馬鹿な男だ……)

下手にする言い訳など、余計に怪しまれるだけだろう?

「弁護士・成歩堂龍一もまだまだだな…」

私はそう一人呟くと、次の法廷の準備のため足早にその場を去った。


●   
・.

 

















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ネークタイ…トイレ…私の趣味を詰め込んだ、お約束アイテムでのお話でした。
亜内さん…いつからいたんでしょうか。確かに個室から検事弁護士出てきたらビビるよな。
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