top>うら> 夜ほえるけもの

 


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「君にあげたいものがある」

ぼくはキスで御剣の言葉を遮った。

「…何?それはぼくとのキスより、大事なものなの?」

唇を離して、笑う。御剣はその質問に答えなかった。そして今度は、御剣からのキス。
離す。またする。触れる。キスする。何度もキスを重ねる。
御剣の唇から透明な液が流れ落ちていた。ぼくはそれを舌を出して舐めてあげた。

「犬か君は」

それは余計に彼の口元を濡らす結果となり、御剣は眉をしかめる。
その様子がおかしくて、 笑いながらわん、と返すと御剣は苦笑してまたキスをしてくれた。
そしてそのまま二人ベッドに倒れこむ。

………この時はまだ、奴の企みをぼくは知る由もなかった。



聞き覚えのない音が耳元で聞こえて、ぼくはうっすら目を開けた。

「起きたか」

目の前には、愛しい恋人。ぼくは身体を起こそうとしてそのまま固まってしまった。
自分の目に映ったものが信じ切れなくて。

「……これは何?御剣」

辛うじて口を開き、質問する。首を拘束する違和感。そして身体の上を這う鎖。
その先は、御剣の右手に握られている。これはどう見ても……

「犬の首輪を買ってな。やっぱり君には青い方がよかったか?」
「いやいやいやいや」

ぶんぶんと首を振って、意地悪く笑う御剣を睨みつける。
両手で外そうともがいても、首輪は全然外れない。ご丁寧に鍵までかけてあるみたいだ。

「人が寝てるときにこんなイタズラするなんて───怒るよ?外して」

少しきつく言ったつもりなのに、御剣は全然気にしない様子で笑った。

「人にお願いするときはもう少し可愛く言ったらどうだ?」
「……馬鹿なこと言うな」
「それに」

ぐいっと強く鎖をひかれて、ぼくは上体を前のめりにさせた。御剣はぼくの背中を指でなぞる。
くすぐったさと快感が入り混じった感覚に、ぼくは身をよじる。

「これはこれで、興奮しないか?」

耳元で囁かれて、ぼくは目を閉じた。 ────ああ、まただ。
こうしていっつも、御剣はぼくを自分の思い通りにする。
早くも反応し始めた自分の下半身を恨めしく思いながら、ぼくは御剣に唇を寄せた。

「……わかったよ、御剣」

観念したぼくの台詞を御剣は当然のことの様に受け止めた。
そしてにやりと笑いこう言った。

「この場合、私は君のご主人様になると思うが?」



「……っふ」
「零すな」

御剣に唇を指で拭われる。ぼくは息を整えて、再び顔を埋めた。

「せっかくの餌なのだからな」

その上から御剣の手のひらがぼくの頭を押さえつける。片手でぼくを繋ぐ、鎖の先を握りながら。
何が餌だよ、と突っ込みたかったけれどぼくの口は御剣のものでいっぱいだ。
かわりにきつく吸ってみせる。
突然、御剣は両腕でぼくの頭を抱え込んで上下させた。
深くくわえ込む結果となり、それは喉奥を刺激する。ぼくは首を振ってそれを嫌がる。
が、ろくな抵抗もできずに無駄に終わる。

「……クッ!」

短い言葉を吐いて、御剣はぼくの口内で果てた。ぼくはその白い液体をすべて飲み込むこととなってしまった。
喉ごしの悪すぎるそれに眉をしかめていると、御剣が唇を歪めて問いかけてくる。

「うまいか?」
「まずいよ」

本物の犬だってもっといいものを食べてるだろう。ぼくは憮然として言い返した。
ベッドに腰掛ける御剣の前に座り込んで、本当に犬になった気分だ。
悔しく思いつつも右手を彼に差し出した。
御剣はしばらく考え込んだ後、そっとぼくの手をとる。その行動に驚いたのはぼくの方だ。

「何してんだよ、鍵ちょうだいよ。これ外すからさ」
「なんだ。お手をしてくれたのかと」

にやりと笑った御剣の膝を、遠慮なく殴らせてもらった。御剣はそれでも笑顔をやめない。
……それはそれで、とても怖いんだけど。

「君にごほうびをあげよう。龍一」
「!!」

いきなり名前で呼ばれて、顔が赤くなる。

「何で急に下の名前で呼ぶんだよ!」
「だって君は私の犬なのだから」
「!!!」

しれっとした顔で答えられて、思わずぼくは脱力する。

(なんて恐ろしい男なんだ、こいつは!!)

「よしよし、龍一」

御剣はにやにやしながらぼくの名前を呼んだ。両手で頭を何度も撫でられる。
あまりの屈辱にぼくは、御剣の手を振り払い立ち上がろうとした。

「…ッ!!」
「龍一、主人の言うことが聞けないのか?」

鎖を引っ張られ、バランスを崩す。
座ってる御剣に抱きつく格好となってしまったぼくは、それでも逃れようとした。
すると今度は容赦ない力で鎖を引かれた。 その勢いで身体は傾き、ベッドへと倒れこむ。

「仕方がない。しつけの時間だ」
「な……御剣ッ!」

逃れようとうつ伏せになった途端、上に乗られてぼくは動けなくなってしまった。
御剣の指がぼくの後ろに触れる。

「御剣…!やめろ!…いや、だッ!」

それに怯んだ瞬間、御剣のもう一つの手はぼく自身に触れた。そして強く握り締められる。
激しくもまれて声が詰まる。

「……あまり大きな声で鳴くな、龍一」

あまりのことに涙が出てくる。ぼくは声をこらえ、唇を噛み締めた。
両手両足を下についたまま、身体をいじくられる。首を鎖に繋がれたまま。

「……っく、ん…っ!!」
「いいこだな、龍一」

ぼくは目をつぶってその屈辱に耐えた。やがて両腕は身体を支えられなくなる。
腰だけを高く上げた格好が嫌で、ぼくは御剣の下から逃れようとした。

「んっ…あ、…や、やだっ…!」

それでも御剣はやめなかった。ぬるりとした感触に身体が跳ね上がる。
御剣の舌がぼくを襲った。 ぼくの意思とは反して徐々になさられていく、その場所。
恥ずかしくてたまらない。

「龍一、力を抜け」
「っ!…んぁ、…いやだ、って、御剣…」

御剣の高ぶったものを後ろに押し付けられ、ぼくは首を振った。そして涙ながらに懇願する。

「こんな格好じゃ、嫌だ…御剣」
───これじゃ、本当に犬みたいだ。恥ずかしい。嫌だ。

ぼくが俯くと、鎖がこすれて小さな音を立てた。でも御剣はそれすら無視した。

「……犬は鳴き声しか出さないものだが」
────ッく、あ!」

ぼくは歯を食いしばった。
御剣は容赦なくぼくの中に分け入ると、その感触を確かめるように一度だけ大きく腰を揺らす。
なんとも言えない違和感と、身を裂くような痛みにぼくは声を殺して耐えた。

「…うッ……ん…あ…っ!」

緩やかに御剣が動き始める。ぼくの背中に身体を密着させ、上から押しつぶされるように犯される。
ぼくは恥ずかしくて、目を閉じてその行為に集中しようとした。
でも。

「……龍一」

呼ばれ慣れていない名前。御剣が動くたびに、鎖が微かな音を立てて鳴る。
すべてを忘れようとすると、それらがぼくを現実に呼び戻す。首にある違和感が、ぼくの自尊心を傷付ける。
身体全部を揺さぶられて、すべてが狂っていく。

「…っ、あっ、…ん!」

嫌だ、嫌だ。恥ずかしい。
ぎりぎりのところで理性が勝ってしまう。ぼくは手元のシーツをきつく握った。そして耐える。

「…ふ…ッ…う、……っ…」

ぼくはうめく。よつばいにされたまま、首を拘束されたまま。

「!」

ぐい、と力強く鎖をひかれて顔が上がる。突然のことに息が詰まった。

「主人の言うことを聞くか…?」

その欲望をぼくに突き刺したまま、御剣は問いかけてきた。
首を振ろうとしても鎖を掴まれていては何もできない。

「み、つるぎ……お願い…」

息も絶え絶えに、ぼくはそう一言だけ呟く。目を閉じると涙が落ちていく。
すると御剣は満足げに笑って、ぼくの頭を撫でた。

「よくできたな、龍一」
「んっ…!」

思い切り引き抜かれ、力が抜ける。
その次の瞬間、腕をとられぼくはベッドに身体を押し付けられた。ぼくの両足を割って、御剣が迫ってくる。
足を大きく掲げられて。

「……アァッ!」

御剣は思い切り、腰を押し出した。ぼくは両腕を回して、御剣の身体にしがみつく。

「……んぁ!あ!…や、…くっ!」

御剣の行為はさらに激しさを増し、ぼくは声を上げた。胸元で鎖が揺れる。
かちゃかちゃとこの場にそぐわない音を奏でる。ぼくは首輪を思い出した。
と同時に身体がかっと熱くなる。 いつしか理性は遠のいていく。

「み、みつるぎ…っ!御剣、…あッ…んぁッ!」

いつもと同じことをしているだけなのに。この首輪が何かを呼び起こす。
ぼくは腰を絡め、まるで獣になった様に吠えた。本能で彼を欲しがった。

「龍一、龍一ッ……」
「あっ…あ、あ、みつるぎ…っ!!」

熱を帯びた御剣の声がぼくの名前を呼ぶ。その声を合図に、ぼくらは果てた。




「すまない」

すべての行為が終わった後、御剣はやっと謝罪の言葉を口にした。
外れたのにもかかわらず、首の周りには未だ違和感が残っている。
ぼくは首周りをさすりながら、御剣を睨みつけてやった。

「君が後ろからされるのをあんな嫌がるとは思わなかった」
「そういうことじゃない!!」

御剣の口から出てきた二言目に、思いっきり脱力しながら言い返す。
しかし御剣はぼくの抗議も無視し、シーツに包まり背を向けた。

「……少し寝かせてくれ」

三言目はそれかよ!と突っ込む間もなく、御剣はすやすやと寝息をたて始めた。
ぼくは怒りやら呆れやら感心やら何やらわからない感情が湧き上がってきて、ただ一つため息を
つくことしかできなかった。

───このままでいいのか?自分)

毎回毎回、奴に好き勝手されて泣かされてるのはぼくだ。
そう思ったらムカムカしてきて、ぼくは視線を部屋中にめぐらせた。幸い、敵は熟睡中だ。
仕返しをするのなら今しかない。

「あ」

仕返しに絶好な道具は、すぐそこにあった。
視線がたどり着いた先は、さっきまでぼくの首に巻かれていた首輪。そしてそれを繋ぐ鎖。
ぼくは音を立てないよう、こっそりと首輪に手を伸ばす。
そしてぐっすりと眠る御剣の首にそれを回して素早く鍵を掛けた。
赤い首輪は、色の白い彼によく似合っていた。笑いをこらえながら、ぼくは御剣の横に寝転がる。
そして彼の目が覚めるのを待つことにした。


さて。

君にはお手ができるのかな?…怜侍。




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ミツナルのナルさんに標準装備(え?!)の首輪ネタでした。犬顔受けさんの宿命ですね。
なるほど犬は忠実です。何されてもご主人様が大好きなんですよ。
続編でもある御剣犬編はSUPERSONIC GENERATIONさまに置かせてもらってます。
ナルミツなんだかミツナルなんだか微妙なものになっておりますが(笑)
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