>>back
告白反作用
"罪のない"…?そんなことが、どうして私たちにわかる?
罰を逃れるためならば、彼らはどんな嘘だってつく。見わけることなんてできない。
───そう。見わけることなんでできないのだ、絶対に。
裁判長の厳かな声が裁判の終わりを告げた。
弁護人の鋭い指摘により冤罪は回避され、被告は無罪を与えられた。
その結果は法廷にいる誰もが納得したものだ。
被告人は無罪。無罪。
検察官の私も、その結果を当然のものとして受け止める。
……けれども、この法廷に初めて立った時。
私はただひとつの真実を胸に検事席に立った。被告の有罪を確定することが私の目的だった。
しかしそれは全てひっくり返されてしまったのだ。
真犯人として退廷を命じられ去っていく人間の背中を見つめながら、私は胸の奥底で深い失望感を
感じ入られずにはいられなかった。
力の抜けた身体をベッドの上に投げ出し、成歩堂は浅い呼吸を繰り返していた。
先程の激しい行為のせいか、うつ伏せになった彼の身体は微かな朱色に染まっている。
私は身体をベッドの上に乗せたまま上体だけ動かし、側にあったティッシュを手に取る。
そして無言で彼の後ろに触れた。
「!……やめろよ」
無遠慮にそこを紙で拭われ、成歩堂が低い声で抗議する。
首だけ動かし、顔を私に向けると眉を寄せて睨みつける。
そして私の口元に浮かんでいた微かな笑みに気がつくと、さらにその表情を歪めた。
「御剣…!」
身体を反転させようとした彼の腰を掴み、それを阻止する。
押さえつけられながらも、成歩堂の身体は私の手から逃れようとシーツの上で泳ぐ。
体重を掛けて動きを封じ込めると身体を折り曲げた。そして今度は自分の舌を触れさせる。
ねっとりとした舌にそこをなぶられ、成歩堂の声が引きつる。
「もっ…やめ、……疲れてるんだよ」
熱い息を吐き出しながらも、成歩堂は行為の続行を拒否した。
与えられる刺激を流そうと必死に息を抑え、力の入らない腰をずらそうとする。
私は舌をそこから外し、あるものを手にするために再度上体を動かした。
気配が離れたのを感じた成歩堂が、私の行き先を確かめるために頭を上げた。その後ろ髪を右手で掴む。
突然のことに成歩堂の目が大きく開かれた。
隙を見つけ、少しだけ開いていた唇に人差し指で摘んでいた小さなものを滑り込ませた。
成歩堂の目がさらに大きく開く。
「…なッ…」
吐き出そうと声を上げる唇に自分のものをかぶせ、唾液を送り込む。
くぐもった声を発しながら抵抗する彼の手をシーツに押し付ける。
身体を仰向けにさせ、小さな塊を舌で彼の喉奥へと押し込んだ。
しばらくしてコクン、と成歩堂の喉が小さく揺れる。
唇を離してようやく彼を解放すると、成歩堂は愕然とした表情で間近にいる私を見つめていた。
「今の、何だ…?」
「一種の催淫薬のようなものだ。身体に害はない」
ふざけるな、と成歩堂の唇が動いた。しかしそれはきちんとした言葉にならない。
振り上げられた拳を手のひらで包み止めて、身体を彼の上に乗せる。
私の重みで自由を奪われた成歩堂は、怒りで目を真っ赤にして私を睨みつけた。
そして再度、口付けしようとした私に噛み付こうと歯を剥く。私はそれをかわし、彼の耳元で低く囁いた。
「すぐによくなる」
「!!」
何か言おうとした唇を塞ぐ。騒ぐ暇も与えずに舌を差し込み、右手で成歩堂の肌を撫で上げる。
「…ッ、は、なせ…」
長い口付けが終わると、成歩堂は泣きそうな声でそう言う。
薬の効果なのだろう、その声には先ほどまであった刺々しさが失われていた。
私は微かに笑みをこぼし、唇を彼の裸の胸に擦り付ける。そしてできる限り優しい声でこう尋ねた。
「───成歩堂。私を好きか?」
「やっ……っ、いや、だ…」
吐く息に胸をくすぐられ成歩堂は身体を大きく震わせた。
理性を保とうと首を振る仕草は、まるで子供がいやいやとわがままを言っているようだ。
「質問に答えたまえ、成歩堂。……私のことが好きか?」
さらに柔らかい声を作り、彼にそう問い掛ける。
それでも嫌だと小さく呟いた成歩堂に、罰を与えるかのように肌に歯を立てる。
甘い声を発して成歩堂の身体が跳ねた。唾液で音を立て、しつこいくらいに彼の肌を舐め続けた。
片手を下方に伸ばし、まだ柔らかい彼自身を握ると小さく声を上げた。
そのまま手のひらで撫でるようにして刺激を与える。
「みつるぎ……」
薬によって意識を蹂躙され、愛撫によって身体を高められ。
やがて成歩堂の瞳は鈍い光を湛えるようになった。私はさらに手を動かし、彼の身体を隅々まで犯し始めた。
私の髪に指を絡め、成歩堂はぼんやりとした表情で快感を受け止めていた。
もう何度か私を受け入れた場所に指を滑り込ませると、擦れて痛いのかほんの少し顔をしかめる。
指や舌で弄ったそこはもう十分に湿っていた。
私は腰を持ち上げると、横たわる成歩堂の足を大きく開きその中心に腰を押し出した。
「あっ…」
切なげな声を上げた成歩堂は一瞬だけ目を見開く。指が私から離れ、きつくシーツを握り締める。
内腿をいとおしむ様に何度も撫で、頬に額にキスを降らせる。
心許無く揺れていた成歩堂の目が私を捕らえた。と、同時に勢いを付けて欲望を根元まで飲み込ませた。
「いッ…!…っ!」
「成歩堂。私を、好きか?」
悲鳴が上がったのも構わずに、私は腰を激しく動かし始めた。律動に合わせて自分の声も揺れる。
短く途切れる私の質問に成歩堂はまた、答える余裕がなかったようだ。
苦しげに私から顔を背けて唇を噛む。
「成歩堂」
「みつるぎっ…」
囁きながら彼の耳たぶを食むと、それに反応して成歩堂は私の名を呼ぶ。
そして下ろしていた手を持ち上げると、私の背中に回す。そして身体に縋り小さな声で好き、と呟いた。
「…君は、私のことが好きなのか?」
肩に頬を摺り寄せ、成歩堂は何度も頷く。そして微かな声でもう一度、好きだと告げた。
上気した頬に半分開いた唇。彼の様子は明らかに普段のものとは違っていた。
私は身体に回されてた成歩堂の腕を振り解いた。何事かと成歩堂の目が大きく見開かれる。
そのまま両足を持ち上げ、上体を思い切り倒した。
彼の身体が今まで以上に折れ曲がり、骨が軋んだ成歩堂は悲鳴を上げる。
伸ばされた彼の右手が、私を求めたのが見えた。
けれども私はそれに手のひらを重ねずに、手首を捕まえてベッドに乱暴に押し付けた。
彼の両足を肩に乗せ全体重を掛けると、荒々しく突き上げる。
「好きなのか?……成歩堂、私のことが、好きなのか?」
「…ッ!あッ!ん、んッ……す、好き……あッ!」
もはや彼の声は言葉にならない。
それがわかっているのに激しい突き上げを休ませることなく、私は何度も彼に問うた。
自分を愛しているのか、と。
「好き、だって…言ってるじゃないか…ッ……あッ!」
呼吸がうまくできないのにも関わらず、成歩堂は必死に言葉を繋げてそれに答えた。
表情を歪め、喘ぎながらも彼がそう答えても私は腰の動きを止めなかった。
何度も答えを聞いてもまだ足りない。…いや、まだ信じられない。
いつの間にか成歩堂の頬には涙が流れていた。しかし私には、それすら本物に見えない。
飾りのように光る彼の涙を、私は荒い息を吐き出しながら見つめていた。
───成歩堂が、あの証人たちと同じように嘘をついているのならば?
嘘を見抜くことなど、誰にもできない。見わけることなんてできない。
彼はこの責め苦と、薬の作用から逃れるために嘘をついているのかもしれない。
「みつるぎ、…っ、!…もういやだっ、いやだ!…やめッ…!」
泣きじゃくる彼の身体をさらに抱え込み、私は成歩堂を貫いた。
がくがくと震える彼をベッドに押し付け、嫌がる顔を無理に上向かせて口付けを貪る。
最初の内はうつろな表情で快感を受け止めていた成歩堂だったが、徐々に瞳に苦痛の色が浮かび始める。
両足の中央にある彼自身は、完全とは言えないが緩やかに立ち上がっていた。
それを強く握り締め、自分のものを彼の中から思い切り引き抜いた。
「あ、あ、あああッ…!!」
そして、泣き声の様な声を上げて身体を強張らせた成歩堂の内股に、己の精液を思い切り降り掛けた。
薬の効果はもう切れているはずだ。
それでも成歩堂の視線は焦点をなくし、ぼんやりと空をさ迷っていた。
枕に顔を半分埋めたまま身体を動かさずに、私に背中を撫でられていた。
無理をさせた。そう思っても謝罪する気にはならなかった。
───彼は私を傷つけたのだ。
何度も何度も、好きと言った。
「……るぎ」
いつの間にか手が止まっていた。気がつくと成歩堂のうつろな瞳が私を真っ直ぐに捕らえていた。
渇いた唇を動かして私を呼んだ彼を、表情を無くして見つめ返す。
「御剣はぼくの言うことが信じられないの……?」
弱々しく成歩堂はそう問い掛けてきた。
縋るような目で、否定してほしいと必死に願う光を奥底に押し込めた目で。
……信じていない。信じられない。
法廷で何度も経験した、あの裏切りが脳裏に甦る。誰もが簡単に嘘をつく。
自分のために、そして。自分以外の誰かのために。
成歩堂は唇を結んで私を見ていた。涙の流れた跡の残る頬に指の腹を当てると、ゆっくりと目を伏せる。
しばらく無言のまま考え込んだ後、私はこう答えた。
「……私は、君を信じている」
彼の瞳に嘘を返した瞬間。
嘘をつく人間の気持ちが、ほんの少しだけわかった気がした。
非現実的なお薬を使ってみました。ヤオイファンタジーです。何なんだ、催淫薬のようなものって。
実はこの話、ある曲を元ネタにしてます。 中森○菜です。