top>うら> 果てに

 


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拳を握ると手首の傷と服がこすれ合って痛みを生んだ。
じくじくと、身体の奥がうずいてる。
────おかしいな。
昨日の夜、あの後。この手で全部掻き出したはずなのに。





某月某日 地方裁判所 第3法廷


目の前にまるで、膜を張られているようだ。視界はなぜかぼんやりとかすみ、ぼくを取り巻く。
でも目を凝らそうとする気もでない。ただただだるくて、ぼくはひとつ息をついた。

「……人!……弁護人!」
「!」

瞬きをして顔を上げると、裁判長がぼくを見ていた。

「どうしたのですか?身体の調子でも?」
「い、いえ。弁護側、準備完了しています」

首を振って、慌てて答える。

「検察側も準備完了している」

正面から声がした。目が合ってしまって、思わずぎくりとする。目を細めて御剣は笑った。
顔が強張っていることは、自分でもわかっていた。ぼくは目を逸らす。
片手で身体を抱きしめると、再び手首の傷が痛んだ。

(……ぼんやりしている暇はない。ここは法廷だ)

しっかりしろ。ぼくがこんな様子だったら裁判はどうなる?被告は……

「では、開廷します。被告人、前へ」

一人の男が係官に連れられてきた。ぼくは気持ちを落ち着かせ、彼を見る。

(被告は、無罪なんだから)


「被害者と被告は、過去に交際しており……」

書類を叩きながら、ぼくは尋問を始めた。 御剣がぼくの反対の位置から、じっとぼくを睨む。

(気持ち悪い……)

口の中が、カラカラだ。ぼくは新人じゃない。もう何回もここに立ってるというのに。
今日はどうして、こんなにも調子が悪いんだろう……?
───真正面に、奴が立っているというだけで。
異議あり!と鋭い声がぼくの言葉を遮った。視線を上げると、御剣がぼくを睨みつけていた。

「被害者が被告と交際していたのは、一年以上前のことだ。
事件の起きた日は、被告と連絡を取らなくなって、すでに一年がたっていた」
「それでも」

息を吐きつつ、ぼくは口を開く。
気持ちが悪い。体内に、何かが残っている。
それがぼくの心を、ぐちゃぐちゃとかき混ぜる。
耳鳴りのような警告音が、頭の中で鳴り始めた。

「被害者は、被告を部屋へ招きいれ」
────まぁ、入ってよ。

「特に追い返すようなこともせずに、しばらく会話を続けて」
────何、どうしたの?久し振りだな、法廷以外で会うの。

「被害者は、被告を……」
────御剣?

(違う!)

「では弁護人はこう主張するのか……被害者は自ら望んで被告と関係を持った、と」

ぼくの言葉を遮り、御剣が結論を口にした。まるでぼくを、せせら笑うような表情で。
その問いかけを肯定する言葉を、吐き出そうとした瞬間。
下半身に熱が疼いた。

(違う、違う違う!!)

脳裏にフラッシュバックする光景。 御剣の目。御剣の声。頭の中で鳴り響く警告音。
いや、違う。これは───

『……み、御剣ッ!?』

昨日の夜の、ぼくの悲鳴。
陵辱の果てに、内部に放たれた御剣の欲望。今でもなお、身体に残る雄の香り。
……自分のじゃない、他人の。
思い出した瞬間、ぞくりと寒気が背筋を駆け上った。

「………ひ、こくは………」

ぼくは弁論を続けようとした。でも、できなかった。

「弁護人?どうしましたか?」

裁判長の声。被告の目。検察官……御剣の、ぼくのすべてを見透かすようなその表情。
急激に、胃を何かが刺激し始めた。思わずえずきそうになり、ぼくは片手で口を覆った。

「弁護人……?成歩堂くん?」
「裁判長」

御剣が口を開いた。

「どうやら弁護人は体調が優れないようだ。裁判の延期をお願いしたい」
「そのようですね……」
「………待って、ください。ぼくは大丈夫です」
「言葉も発せられない弁護人は法廷に必要ない。黙れ」

振り絞って出した言葉は、御剣に一蹴される。ぼくは唇をかんで御剣を睨み返す。

「すまない、言葉が過ぎたようだ」

あまりの物言いを咎めるかのような裁判長の視線に気づき、御剣は俯いて謝罪した。
裁判長がおもむろに木槌を持ち上げた。そしてぼくを一瞬だけ見て、それを勢いよく振り下ろす。

「弁護人、体調不良のためこの審議は一旦終了いたします。では、閉廷!」




「なんだ、あのざまは」

ふらつく足をどうにか動かし、法廷を出た直後。
怒りを露わにして、御剣はぼくの腕を掴んだ。

「…………ッ!」

反射的に腕を振り払う。ぼくの行動を予想もしていなかったのだろう。
御剣は気圧されたように腕を引いて、ぼくを見た。

「………………君、が…」

ろれつが回らない。気持ち悪い。口の中に、何か悪い薬でも入れられているみたいだ。
近くの壁に手を着いて、ぼくは身体を支えた。視線は、彼に固定したまま。

「……君が悪いんだよ!君のせいで、ぼくは……」
「来い」

抵抗するまもなく腕を掴まれ、近くの控え室へと引きずりこまれた。

「はなせッ!」

掴まれた手首が痛い。昨日つけられた傷が。つけたのは間違いなく、目の前のこの男。
壁に追い詰められ、吐き気をこらえながらぼくは叫んだ。

「君がぼくの中にっ……!」

忘れもしない。
男の欲望を、この身に何度も突き刺され。縛められた手首。動けない身体。
胸を這いずり回る舌。 口内に侵入され、隅々まで舐めまわされるあの感触。
絶頂の果てに、注ぎ込まれたあの液体。

……唇をかみ締め、震える手で掻き出した。屈辱的な、あの行為。

「全部、出したのに」
(ぼくの中から君を全て消したつもりだったのに……!)

「私のせいだというのか?……君の中に、昨日放ったものが残っていたから……?」

指で耳をなぞられた。全身に鳥肌が立つ。

「触るな!」
「では今から掻き出してやろう」

信じられないくらいの素早さで、御剣はぼくの衣類を引き摺り下ろした。
思わぬ事態に、ぼくは固まってしまった。逃げようにも身体が動かない。

「やだッ……!み、御剣っ…!」

びくりと身体が大きく震える。ぼくの固まった身体に、御剣が無遠慮に指を差し入れた。

「ひッ……あ!!」

うまく呼吸が出来ない。痛い、痛い。
拒もうとするぼくの入り口を、数回かき混ぜる。乱暴に、何度も何度も。
指を曲げ、掻くような動作に痛みが伴う。身をよじらせて、ぼくは痛みに耐えた。

「……もう自分でやったのだろう?私が手を貸すこともあるまい」

いつの間にかネクタイも解かれて、露わになった首筋に御剣は噛み付いてきた。
痛みに甘い感覚が生まれる。伸ばされた手のひらが前の方に回され、ぼく自身を愛撫し始めた。

「やめ……っ!…っ!…」

後ろから抱え込まれるように捕らえられ、ぼくは壁にしがみつく。爪が壁に食い込む。

「い、痛い、いたい…っ!…ぁ…っ…」

次第に頭がぼんやりとしてくる。
敏感な部分を無理矢理いじられ、あっという間に高められてしまう。
悲鳴はいつしか、微かな喘ぎを交えはじめた。

「……欲しがっているようだな、君も……」

耳に注ぎ込まれる、御剣の低い声。
身体の奥に残る欲望のかけらがぼくを再び、翻弄し始めている。
嫌だ、と首を振ってもぼく自身を見れば感じていることは明らかだった。
屈辱と情けなさで涙が出てくる。

「成、歩堂……」

名前を呼ばれ、少しの間の後。腰を掴まれ、引き寄せられる。

「やだ、いやだっ!御剣!嫌だ……っ!!」

昨夜の恐怖が蘇る。ぼくは全身の力を込めて抵抗した。
しかしそれはあっさりと封じられてしまった。入り口に御剣の熱い塊が当てられ、身体が震える。

昨日の、思い出したくもないあの恐怖。

崩れ落ちそうになる膝を支えながら、何度も何度も首を振る。
しかし御剣は腰を引くこともせずに、逆にぼくに昂ぶったものを押し付けてくる。
抵抗は全て無駄に終わり、漏れそうになる嗚咽を唇を噛みしめて堪えた。
最後にぼくはかすれた声でひとつだけ、彼に懇願する。

「な、なかに出すのは、やめてくれ……頼むから」
「………わかった」

短い返事とともに襲ってくる、すさまじい圧迫感。ぼくは顔を歪ませて御剣を受け入れた。

「……ああっあッ!!」

ここがどこなのか、今自分たちが何をしているのか。
そんなことはもうどうでもよくて。 嫌悪感も痛みももう何もかも、すべて御剣に飲まれていった。
足の力が抜け、腰が落ちてくると御剣が容赦なく後ろから突き上げる。
ぼくはがくがくと揺さ振られながら、汗の滲む手のひらで必死に壁に掴まっていた。
緩やかに上下に動いていたかと思うと、激しく抜き差しを繰りかえされ。
刺激され、高められ、攻め立てられて。

「……本当に…傑作だな、君は……クッ…!」

いつだか法廷で言われた言葉を耳元で囁かれた。
頭を微かに振って否定するぼくの耳を、御剣が噛んで舐めて責める。
彼の言葉はいつしか熱を帯び、この行為の終焉が近いことを予告していた。

「んっ…御剣…っ…」

急激に、頭の片隅に昨日のことが思い出された。
ぼくは嫌な予感がして、背中をよじって御剣の身体から逃げようとした。
すると彼は信じられない力でぼくを抱え込み、半身を密着させたまま荒い息を吐き出し始めた。

「!……あ、あ、いや、だ、待っ…!」
「…………ッ……!」

力を込めた爪が、小さな音を立てて壁に食い込む。痛みなんて感じなかった。

「……あ…っ…あああッ!!」

瞬間的に、目の前が白く弾ける。
そして体内に、ゆっくりと広がる感触。御剣の吐き出した、欲望の成れの果て。

「………ん、はぁ……」

息をして目を閉じると、溜まっていた涙が一筋だけ頬に落ちた。
ずるりと引き抜かれ、そのまま崩れてしまいそうになった身体を、両手で辛うじて支える。
その時、内腿を熱い液体が音も立てず流れていった。

───中で出さないって言ったのに。

そうやって責めることすら出来ずにぼくは。
流れ落ちる感触に身体を震わせながら。

「………うそつき………」

そう一言呟くだけで、精一杯だった。





「………すまない」

服を整えながら、御剣はそう呟いた。
ぼくはぼんやりとした頭で、まるで遠くに存在しているような彼を見つめた。
床に座り込んだまま動けずに、どうしようもない喪失感を感じながら。
ぼくは本当にわからなかった。彼は一体、何を謝る?
この行為を?それとも、ぼくを愛してるって言ったことを?

「………何が、すまないの?」

ぽつりと問いかけた瞬間。
さっき掻き出したはずの御剣の白い液体が、また落ちてきたような気がした。

 


●   
・.

 

     















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な、中出し…しかも裁判所…
でも誰にも見つからない…不思議な空間…ビバヤオイ空間!
裁判中にエチーを思い出して なるほどくんドキドキ★という
感じで書いてたのにいつの間にか無理矢理に。 おっかしいなぁ。
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