声すら出せないほどの痛み。身を焼くような羞恥心。それらは突然、もたらされた。
泣きたくもないのに勝手に溢れる涙でぼやけた視界の中で。ぼくは自分の右足に絡まり残る青い布を見ていた。
シワになるな、とそんなどうでもいいことを考えようとするのに、痛い、苦しい、悲しい現実はぼくを少しも手放してくれない。
いっそ全部夢ならいいのに。叶うはずもない願いを祈っても、やはりぼくは現実から逃れることはできなかった。
親友は大きく開いたぼくの足の間にいて、中に挿入しようと躍起になっている。
いくら強引に捩りこまそうとしても、ぼくの意思と同様に少しも口を緩めなかった。御剣は無言で何度も何度も何度も、押し付ける。
俯いた顔を長い前髪が両側から隠していて表情は読めない。
柔らかな皮膚の集まりを、熱く腫れた亀頭が突くたびに肺が震えて唇が息を吐き出す。
どうして。
何度考えても答えのでない疑問をまた繰り返した。
男にとって馴染みのある形状のそれが、自分に突き付けられているという状況がまず想像できない。
そもそも自分も相手も男だ。まさか自分が男性器に貫かれるなんて、そんなこと考えたこともない。
何なんだろう、これは。
答えのでない疑問を諦め、ぼくは内容を変えた。
何なんだろうこれは。自分は一体何をされようとしているのか。御剣は一体何をしようとしてるのか。
セックス?強姦?暴力?喧嘩?八つ当たり?
御剣の気持ち一つでその意味は変わる。
なぁ。お前にとってぼくは一体何だった?
気付いたら御剣はぼくを見ていた。視線に射抜かれ思わず声を失った。
硬く勃起した御剣の性器が穴を小さく押し開けているのを感じた。
進む方向を定めたそれから手を離し、御剣はただぼくを見つめていた。
これから自分の身を襲うだろう凄まじい痛みを思い、背中に汗が流れた。
じわりとそこの部分が温度に包まれる。それとは真逆に御剣の瞳は冷たく冷静で、その矛盾に冷や汗を流した背中に寒気が走る。
食われる。
そう思った。鬼だ。ぼくを犯そうとしているのは御剣の顔をつけた鬼なのだ。いや、御剣自身が最初から鬼だったのか。
溢れ出る疑問に対する答えは、やはりない。
やがて二人の距離はゆっくりと縮まる。下半身から生まれた痛みはあっというまに全身へと波及しぼくを絶望へと突き落としていった。
御剣。御剣。
決して届かない名前を何度も呼ぶ。御剣。御剣、御剣怜侍になら。ぼくは。
「……ッ」
声にならない悲鳴の代わりに詰まった声が喉を震わす。新たな涙がまた、頬を流れ落ちた。
御剣。お前という鬼になら、ぼくは喜んで食われよう。
うらのindexへ戻る